第145話 土壌改良の素材採取
まずは土壌改良を済ませることにした。
「シートベルトはいい?」
「うん」
今日はアルバロとハナと一緒に砂と軽石と石灰を採取しに行くので久しぶりに自分の車…じゃなくて馬車を出した。こちらの文明レベルに合わせて馬車に自動変換されているし動力が馬型オートマタだけど運転は車と一緒だ。
ハナは後部座席でお昼寝布団を広げてゴロゴロしている。
「マッピングのスキルがカーナビみたいで便利だね」
特に曲がり角もないのでざっくりとマッピングが示す方向に車…じゃなくて馬車を走らせる。ちなみに父さんの車よりゴツい車に乗っていたので私の車はでっかい馬車になった。
特に車に興味は無かったし安いのでいいやと思っていたら大きい方がもしも事故にあった時に無事だからと心配性の父さんが半分出してくれたおかげで未舗装の道もすいすいだ。
出来れば戦車を買ってやりたいのにと真面目な顔で言い出した時は度肝を抜かれた。父さんに理性が残っていて本当に良かった。
「そろそろ着くかな」
「うん、まずは石灰ね」
2時間近く走って着いたポイントの地層を土魔法で掘り起こしてインベントリに収納。小石や木屑など余計なものだけ取り出すことを何度か繰り返した。
「カナちゃーん!」
「どうしたの?」
昨日は離れすぎるのを恐れていたのに今日はすっかり忘れて駆けまわっている。
「大きいのドカンしたよ」
「どんなの?」
「大きなくも」
「………」
「カナ?」
「アルバロ。私はね、蜘蛛が大嫌いなの。ハナ、おてて…ううん全身を浄化しようね」
ハナを隅々まで浄化した。蜘蛛なんていなかった。
現実逃避していたらアルバロが戻ってきた。
「ただいま。僕のインベントリに入れといたから」
「そう。早くここを離れようね」
「分かった」
「うん」
何を察したのかハナがお人形のように大人しくて良い子だった。しつこく浄化されるのは『しゅわしゅわするから嫌』と言って抵抗するのに『おてて』といえば素直にポンと手を出して、『抱っこ』といえば抱っこで浄化されてくれた。ハナの背筋がゾワゾワ震えていたが素直で良い子だった。
「次の目的地では軽石が取れるよ。このスピードであと30分くらいかな」
「すぐなんだねえ」
何も無かったと思い込むように車を走らせた。
「この辺り?」
「あと2〜3分くらい」
アルバロのナビに従って進むと軽石がザクザク採れる場所に着いたので石灰と同じように軽石もインベントリに収納した。
「この近くにレンガ作りに使える粘土質の土があるんだ。ついでに取っていこうよ」
今回は使わないけどアルバロがそういうなら…。1時間ほど馬車を走らせたところで粘土質の土をインベントリに採取した。
「後は砂だけど砂は我が家の前の海でも採取できるよね」
「せっかくだから近くの海まで行ってみようよ」
「それもいいね」
30分ほどドライブすると海岸にでた。冬の日本海のような海だった。
「風が強いから結界を張るね、アウトドアのテーブルと椅子を出して海を眺めながらお昼にしよう」
アルバロが結構広い範囲を囲ってくれて薪を出して火もおこしてくれた。
「あったかーい」
寒がりなハナが焚き火のそばでとろけそうだ。アルバロが焚き火の周りにも結界を張ってくれたのでハナが近づき過ぎることもない。
「今日のお昼はお弁当だよ」
父さんが早起きして作ってくれたお重入りの豪華弁当だ。
「スープジャーは1人1つね」
中身は豚汁だった。
ハナは重箱が気になって仕方ない様子だ。
「カナちゃん、開けて!」
「はいはい」
── ぱか。
おむすびがキャラ弁だった。
「これハナ!ハナの顔!」
ハナが両手を上下にぶんぶんさせて大興奮だ。
「海苔で顔を描いてあるね、こっちが犬のハナでこっちは熊のハナだ。取り分けようね」
ハナのお皿に犬のハナと熊のハナのおむすびを乗せた。
「唐揚げとウインナーもとって!卵焼きもたべる!」
「はいはい」
おむすびは小さく作ってあるので少食なハナでも2つ食べられるだろう。
自分の顔のおむすび食べるの嫌って言わないかと心配したけれど杞憂だった。
「おいしー」
ハナは自分にそっくりな顔を掴んでもりもり食べた。
熊のハナの中身が鮭で犬のハナの中身が焼きたらこだった。熊のハナに鮭を合わせたのはハナの好物だからに違いない。
「唐揚げも豚汁も美味しいね」
「寒いから余計に美味しいよね、父さん頑張ってくれたんだね。ハナ、おかずは?もっと食べる?」
「肉団子ときんぴらとプチトマト食べる」
「はいはい」
ハナが欲しがるものを欲しがるだけお皿に乗せてやった。
「お腹いっぱい…」
ハナが寄りかかってきた。これは昼寝のサインだ。ハナをブランケットで包んで抱き上げるとアルバロが焚き火の近くに椅子とテーブルを寄せてくれた。
「ありがとう」
1時間半でハナが起きたので帰り支度をして砂を収納した。この海岸と我が家の前の海の砂を混ぜて使うことにして少し持ち帰った。
「ただいまー!」
「おかえりハナちゃん」
帰宅するやハナが父さんの元へ向かった。
「お弁当!ハナの顔だった!」
「けっこう似てただろう?」
「うれしー!また作って」
ハナが丸い尻尾をぴこぴこさせて父さんに抱きついている。
よほど嬉しかったらしく、ハナは寝るまで父さんにべったりだった。




