第143話 約束の2週間め
収穫作業に疲れて早く眠ったせいか、かなり早起きしてしまったのでハナと一緒に部屋についている露天風呂に入った。ハナが選んだこの部屋の露天風呂はタマツクリのお湯を引いてあった。
露天風呂に入ったらお腹も空いてしまったので、なんとなく大広間に行ってみたら全員揃ってしまった。
「みんな早く起きちゃったんだ?」
「朝風呂で腹が減ってな、朝も出前しよう。食いたい朝食がある」
父さんが提案したのは伊豆高原にある有名な旅館の名物朝食。鮑の餡かけ土釜御飯だった。
「これ食べたい!」
「リオが勧めてカナがそんなに食べたがる朝食に興味あるな」
「ハナも」
「私も」
注文したらすぐに届いた。宿泊しないと食べられない料理を出前出来るなんて私たちに都合が良すぎてバチが当たりそうだ。
焼き魚に出汁巻き卵、煮物や小鉢が3種類に香の物が並んだ上にご飯と鮑の餡かけがたっぷり入った熱々のお鍋が届いた!
「いいにおい」
ハナがフンフンする。
「鮑と椎茸の餡なんだが丁寧に裏ごしされたあん肝も入って濃厚で美味いぞ」
「おいしー」
「すっごく美味しい…」
「ご飯もふっくら炊けていて美味いな!」
「リオがお米を栽培したい気持ち、分かるよ!」
「お肉じゃないけど美味しいですね」
全員ご飯をおかわりしてお腹ぱんぱんになるまで食べた。
「…父さん、同じの作れる?」
「完全再現は無理かもしれないが近いものは作れるぞ」
「夏になったら鮑を獲りにいこうよ」
「庭先の海で養殖出来たらいいな」
「ああ、いいねえ。牡蠣とかホタテもいいなあ」
「…それ全部、僕の好物だよ。あとで相談しようか」
アルバロがやる気になったので期待出来そうだ。
別邸とログハウスは魔法陣で我が家と一瞬で移動出来るけど腹ごなしに歩いて帰り、真っ直ぐに聖人の泉と祝福の木のところに向かった。
「おはようございます、鑑定しますね」
枝全体が“うむ”と上下に震えたので今日は父さんと2人でじっくりと診た。
「胴枯病の病原菌はどこにもいないな」
「この2週間、どこにも再発しなかったし大丈夫そう。切除した患部も盛り上がって塞がろうとしているし」
枝全体が“うむ”と上下に震えた。
「栄養は必要だと思うので、もうしばらく滞在して毎日肥料を摂取していきますか?」
枝全体が“それには及ばない”と左右に震えた。
「じゃあ今日も肥料をどうぞ」
祝福の木がもういらないと枝を左右に振るまで撒いたら枝全体が震えてポン!と葡萄っぽい形状の実がなった。
今までにない展開でびっくりしていると実がなった枝をぐいぐい押しつけてくる。
「え?これ?どうしましたか?」
「カナちゃんにお礼だって」
「えええ!療養中で栄養不足なのに実をつけちゃダメですってば」
慌てて肥料を足したら3袋目で、もういらないと枝を振るので、ありがたく実をもいだ。
「ありがとうございます」
枝全体が“うむ”と上下に震えた。
「パートナーが元気になってよかったですね」
聖人の泉に向き直って話しかけると水面が嬉しそうに波打った。
「実はこういうものがあるんですよ」
最近アルバロが創造した水面に浮かぶタイプの紫陽花で水質浄化能力が高いらしい。名前は浄化紫陽花だって。
水面に“映え!”という文字が浮かんだ。
「色はどうしますか?」
泉が青い紫陽花を選んだのでたくさん買って浮かべると泉の1/3ほどが紫陽花の手水鉢のように見事な眺めだった。
水面に再び“映える〜”という文字が浮かんだ。
移動先で浄化紫陽花の種が広がるように協力してくれるというメッセージをアルバロに残して聖人の泉と祝福の木は去っていった。
聖人の泉と祝福の木が残していった謎の実を鑑定した。
「祝福の実だって」
名前だけではどんなものか、さっぱり分からない。
祝福の木の葉っぱは最後に訪れた町や城に戻れるアイテム“やり直しの石”の錬金素材なので近いものかもしれない。
「甘いにおいしないね」
葡萄っぽい見た目なのでハナがフンフンしてガッカリしている。あとで美味しい葡萄を出してあげよう。
「これは錬金素材でいいのかな?」
「そうだよ。上級魔石と一緒に錬金すると“復活の石”になる」
「それって超レアなやつじゃ…」
“やり直しの石”は最後に訪れた町や城に戻れるだけのアイテムで怪我も死者もそのままだ。
“復活の石”は最後に訪れた町や城に、怪我が治って死者も復活した状態で戻れるアイテムだ。
これはヤバいブツだ。
「これは売らない方がいいんじゃない?」
「そうだな。もしも必要とされることがあったら惜しまずに出そう。それまではカナのインベントリにしまっておけ」
「うん」
将来お金に困ったら売っちゃうかも…そうならないように真面目に働こうと思う。




