第141話 温泉!
紅まどんなを持って温泉旅館風の別邸に来た。
「まずは中を案内するね!ここが玄関」
「広く作ってよかったよね、玄関が広いと旅館っぽい!」
旅館ぽいけど旅館ではないのでフロントもロビーもない。
「廊下を進むと大広間。みんなでゴロゴロしたり出来るよ」
「新しい畳がいいな!」
大広間というだけあってかなり広い。
「テーブル席もあった方がいいと思ってあっちの部屋は洋室だよ。奥にキッチン、トイレはあっち」
なんとトイレまで女性用と男性用に分かれていた。商業施設っぽい!
「洋室もすごいな…」
洋室のドアを開けた父さんが呆然としているので横にくっついてのぞいてみたら凄かった。
「迎賓館てのをパク…参考にしてみたよ、気に入った?」
壁も天井もシャンデリアもすごかった。気にいるというか畏れおおいよ…。やり過ぎだってば。
「キッチンはこっち!」
かなり本格的な厨房だった。
「俺が勤務していたホテルの厨房並みに立派だな。ピザ窯も蕎麦打ち台もある」
「やりすぎじゃない?」
「何言ってるの!絶対に必要だってば」
父さんの料理に餌付けされてしまったアルバロはやり過ぎたと思う。
やり過ぎていないと言い張るアルバロに先導されて渡り廊下を進む。
「渡り廊下から眺める庭園も素敵だよね、
「ハナとカナちゃんで植えた椿!」
「そろそろ花が咲きそうだね」
「楽しみ!」
この庭園は私もハナも気に入っている。中から見ると改めて素晴らしい眺めで顔が緩んでしまう。
「ここから温泉だよ、こっちが男湯!まずは脱衣所ね。ここにもトイレを作ったよ。脱衣所の奥が浴場ね」
高級温泉だった。
「すっごいね!」
「気に入った?」
「うん!」
「奥が露天風呂だよ。1番手前がクサツで順番にゲロ、ニュウトウオンセンキョウ、タマツクリ、スカユ。全部魔法陣で源泉を引いているんだ。壺湯と寝湯とぬる湯もあるよ」
「すっごいね!」
「さっそく入るか!」
「そうする?こっちは男湯で隣が女湯ね、作りは基本的に一緒だよ、男湯と女湯の間は垣根を二重にしてあるから安心して」
全員でいったん男湯を出る。
「ここは湯上がりラウンジ。冷蔵庫とマッサージチェアがあるよ。具合が悪くなるほど浸からないでね」
「じゃあここに紅まどんなを置いておこう」
「ハナには悪いけど食べて待っててくれる?」
「みかん!」
喜んでくれてよかった、でも早めにあがろう。
アルバロと父さんと分かれてリザと一緒に女湯に入ると男湯には無かったパウダールームがあった。アルバロったら最高だよ!
着替えはインベントリに入っているけど浴衣も用意されていたのでウキウキと脱いでリザと一緒に浴場に入りながら説明する。
「先に身体を洗ってから浸かるのがマナーね、好きなお湯に好きなだけ入って、もう充分だと思ったら湯上がりラウンジに戻ってね」
「はい」
── その頃ハナは湯上がりラウンジでウキウキと紅まどんなの皮をむいていた。
「これハナの好きなみかん!」
ご機嫌で一房つまんで口に運んだ。
ぱくん!
「おいしー」
いつもなら『よかったね』と声をかけてくれるカナがいない。
「………」
「髪も身体も洗ったから次は温泉ね、どれから入ろうかな〜!」
髪と身体を洗って振り返るとハナがお湯に浸かっていた。
「ハナ!?」
「気持ちいいねー」
ハナが浸かっているクサツのお湯の湯船に行ってみると脚が届かないため両手で湯舟のフチにつかまっているので慌てて湯に浸かってハナを抱き寄せる。
「みかんは美味しいけどカナちゃんがいないと美味しくないのよ」
「ハナちゃん…」
紅まどんなを一口食べたところで淋しくなって追いかけてきたらしい。ハナが可愛くて辛い…。
「向こうを向いてごらん」
ハナが方向転換して私の胸に背中をつける。
「ハナとカナちゃんで植えた木!」
「良い眺めだよね」
「ハナ、温泉好き…」
「急にお風呂が好きになったの?」
「カナちゃんたら、お風呂と温泉は違うのよ」
相変わらずお風呂は嫌いらしい。
「このお湯は魔力を含んでいますね」
「リザ?」
「強力な殺菌力で傷の治療に効果があるとのことですが魔力も含んでいて治癒効果があります。ちょっとした傷ならすぐに治るし大きな怪我も繰り返し浸かれば良くなるでしょう」
「そんなことまで分かるなんてリザは凄いねえ」
「他のお湯も試してみますね」
次々と浸かるリザがニュウトウオンセンキョウに浸かった瞬間、動きが止まった。
「…私、ちょくちょくここに来ることにします」
ニュウトウオンセンキョウは高血圧症、動脈硬化症、皮膚病、糖尿病なんかに効果がある。暴飲暴食の種族なのでどれかの症状に身に覚えがあるようだ。
リザが真剣に浸かる横で私とハナは美肌の湯を堪能した。




