第131話 我が家の素材で錬金
アルバロが日本の旅館を研究すると言い出したので小屋作りが始まる前に中断してしまった。
なので久しぶりに錬金してみることにした。
裏山や海で採取出来る素材がたくさんあったので素材はすべて自家製だ。錬金は地味な作業だし、匂いの強いものもあるのでハナは父さんやリザと一緒に釣りや採取に行った。
山で立派な自然薯が採れて美味しく料理した時、ついでに蔓や葉っぱも採取してインベントリに入れておいた。これを魔石と浄化した水と一緒に錬金すると石化解除ポーションが出来るらしい。
もっと薬草っぽい何かとか、貴重な鉱物なんかを錬金するんじゃないのかという疑問をアルバロにぶつけたらカチカチをトロトロにするイメージだからこれで正しいと言う。アルバロは発想が幼稚園男児並みだと思った。
次は海で採取したオオウミウシの核を素材にする。なんとオオウミウシの核で再生ポーションが作れるらしい。
ウミウシの体には再生能力があるけど手足なんかの欠損部位が再生するポーションが出来ちゃうってすごい。とはいえ、どんなウミウシでも作れる訳じゃなくて討伐レベルの高いオオウミウシの核でしか作れない希少なポーションらしい。
ちなみに失った歯なども再生出来るけど加齢で失った髪は戻らないらしい。
野生のミントで作ったハッカ油は強力な虫除けにもなるし夏のお風呂に垂らしたり使い勝手の良いアイテムだけどハナがハッカを嫌うので我が家では使えない。あとはアロエの軟膏やマリーゴールドの軟膏も作った。
石化解除ポーションと再生ポーション、ハッカ油、軟膏を何種類か作ったところで夕方近い時間だと気づいたので夕飯の支度だ。
「今日はコルドン・ブルーにしようかな」
コルドン・ブルーは叩いて薄くした肉でハムやチーズを巻いて揚げた料理で製菓学校に通っていた時にルームメイトがよく作ってくれた。初めて聞いた時は有名な料理学校の名前だと思ったけど料理名だった。
麺棒で叩いて薄くのばした胸肉に塩胡椒をふったらハムとチーズを挟んで小麦粉、卵、パン粉をつけて油で揚げる。揚げた時にチーズが中から飛びださないよう、しっかりと肉で包むのがコツだ。
フランスではほうれん草のクリーム煮やトマトソースが中に入ったものが売られていて、どれも美味しかったが水っぽい具を中に入れて揚げるのは面倒だ。
付け合わせにほうれん草のクリーム煮とキャロットラペを作った。
スープはフランスの南西部、スペインとの国境近くに位置するベアルヌ地方の郷土料理のガルビュール。
ガルビュールはキャベツ、インゲン豆、蕪、ベーコン、生ハム、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、セロリなどを入れてじっくり煮込んだ具沢山なスープだ。
家庭ごとにレシピがあるとかで入る具材も作り手次第で変わるの自由なスープだと聞いたのでインベントリにある野菜を気分で入れた。
揚げたてのコルドン・ブルーを時間停止のインベントリに入れた頃、スープの匂いに誘われてアルバロがキッチンにやって来た。さらにスープを煮込んでいると玄関が騒がしくなったのでハナがすっ飛んで来るかなと思ったらリザに抱っこされていた。
「おかえり、ハナは寝ちゃったの?」
「…おきてる」
リザの腕の中から私に向かって両手を差し出すので抱きとめるとギュッとしがみついてきた。
「浜辺で小さな蟹にちょっかい出して手を挟まれたんだ」
「痛かったの!」
ハナがぷすぷす鼻を鳴らす。
こんなに小さな蟹だったと親指と人差し指を小さく広げる父さんに不満げだ。
「すぐにリオ様がポーションを取り出して治療したんですがショックだったようです」
「それで甘えんぼなの、怖かったねえ」
「かにきらい」
「まだ痛いの?」
「もう痛くない」
「そっか、治療してもらって安心だよ」
ぽんぽんするとハナが甘えてスリスリしてきて可愛い。
「今日のご飯はコルドン・ブルーにしたよ、インベントリに入れてあるからすぐに食べられるけど?」
「たべる」
スープの配膳をアルバロに任せてコルドン・ブルーのお皿を配る。もちろんリザには山盛りで、私には小さく作ったものをひとつ。
「おいしー」
「チーズがトロトロですね!」
ハナの機嫌も直ったしリザもコルドン・ブルーを気に入ってくれたようだ。
「スープも美味しいね」
「たくさん作ったから明日も食べようよ、煮込むから明日はもっと美味しくなるよ」
コタツに入って動かず食べてばかりだったので野菜多めのスープで調整するつもりだという本音は黙っておいた。




