第130話 とうめし
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「おはようカナちゃん」
ハナがのそのそ起きてきた。ハナは毛皮を着てるのに寒がりなので冬の朝は大変そうだ。見た目は白くてホッキョクグマっぽいけどウルサスは温暖な地域に生息しているので寒さに強くはないらしい。
「おはようハナ」
「今日の朝ごはんは和食?お出汁のいいにおい」
ハナが足元でフンフンする。
「そうだよ。今日はとうめし」
「とうめし?」
日本橋にある有名店の名物メニューの再現だ。昨日のおでんと一緒に注文した。今日のために取り分けておいた味のしみた豆腐を熱々の茶飯に乗せただけなのに、味の染みたプルプルふわふわの豆腐と出汁の染みたご飯が美味しいのだ。とうめし、根菜と豚肉の具沢山お味噌汁で朝ごはんだ。
「すごい見た目だね」
茶飯に茶色い豆腐を丸ごと乗せたとうめしにアルバロが引いている。私と父さんの大好物だが無理そうならインベントリから何か出そう。
「美味しいんだよ、いただきまーす」
暖かいうちに食べ始めるがやっぱり美味しい。あのお店のランチタイムに行列が出来るのも納得だ。
「おいしー」
「ハナも気に入った?」
「うん!」
久しぶりのとうめしは美味しい。夢中で食べ終わり、ふと横を見るとアルバロが満足そうに完食していた。
「どうだった?」
「不思議な美味しさだね!」
「気に入った?」
「うん」
アルバロも気に入ったようなので冬の間に何度かリピート決定だ。
「今日は裏山を歩いて拠点にする場所を決めようよ」
朝食後、ハナとアルバロと3人で裏山に向かった。今日もハナが右に左に寄り道ばかりだ。
「まってー!」
距離が離れると慌てて走ってくる。
「見えないくらい遠くに行っちゃダメだよ」
「わかったー!」
分かったと言いながら見えなくなる。遅れては走って追いつくので今日もいい運動になっている。
「この辺はどう?」
中腹のなだらかな場所でアルバロが提案してきた。
「川も近いし良いと思う」
「あっちの木は全部伐採してログハウスの素材にするよ。伐採した後でハナの果樹を植えよう」
「やったあ!」
「じゃあ打ち合わせで描いた図面に合わせて線を引いていくよ」
アルバロが棒を持って地面にガリガリと線を引いてゆくので、私とハナが後をついてゆく。
「これがログハウスの敷地。ここが入り口」
アルバロがガリガリする。
「ここが大きな部屋、作業したり団欒したりする部屋ね。こっち側に大きな窓を着けるよ」
「南側の壁だよね」
「そうだよ」
「広くていいね」
「気に入った?ここからこっちは廊下、ここから階段、貯蔵室は地下だよ」
「ここにキッチンとかトイレとか水回り。お風呂はこの辺でいい?」
「露天風呂にしたい!」
「ロテンブロ?」
「こういうやつ」
スマホで日本の温泉宿のホームページをいくつか見せた。
「いいね!温泉って概念は初めてだよ」
「アルバロの世界に温泉は無いの?」
「うん、これから温泉を開拓して観光を盛り立てるのもいいね」
アルバロがご機嫌でガリガリと地面に露天風呂予定地に線を引く。かなり広く面積を取った。
「こっち側は温泉旅館ぽくしようよ。ここにお座敷みたいな部屋。みんなで寛いだり食事したりする畳の部屋ね」
アルバロが棒でガリガリと地面に線を引く。
アルバロのスイッチがONになった。
貯蔵小屋を兼ねた作業小屋のつもりが立派な温泉宿が出来そうだ。作るのは自分たちなんだけど。




