第128話 デニッシュのレシピ販売
「クラリッサったら、凄腕!」
デニッシュのレシピがいい条件で売れた。デニッシュのレシピとカスタードのレシピの抱き合わせ販売で当分の間ウハウハだ。
購入してくれたのはお抱えシェフのいる貴族や人気カフェのオーナーたち。屋敷で焼き立てを食べたり、経営するカフェの新メニューにしたりするようだ。
「高くたくさん売れれば私の実績にもなるからね!ボーナス!ボーナス!」
クラリッサの言葉を飾らないところが好きだよ。
「講習をしてくれたのは、ありがたかったわ」
「バターの扱いに注意してもらわないと美味しい層が出来ないからね。一緒に作って成功したからコツを掴めたと思うよ」
レシピ購入者を集めての講習会は無事に終わった。マカロンの講習会よりも難易度は低かった。
「生地を冷凍して販売するのも良いアイディアね、継続した利益になるわ」
「レシピ購入者とのバランスを考えて高めに価格設定したけど売れるかな?」
「売れるわよ。自宅で焼けば庶民が貴族と同じ朝食を食べられるって良いじゃない」
王室御用達みたいなものか。
「一度だけ試すつもりが気に入ってリピートする人も多いと思うわ。リピートしているうちに、こんなに買うならレシピを買っちゃえって人も出てくるはずよ」
ちなみにカスタードは冷凍販売しない。美味しく解凍するのが難しいし常温で置いておいたら食中毒の原因になりかねない。
カスタードのデニッシュを食べたい一般の方にはレシピを購入してくれたカフェに行ってもらう。
デニッシュは凍ったままオーブンで焼くようパッケージに説明を書いている。スライムのラップで包んだ状態で販売して、購入時に24時間だけ効果のある冷凍の魔法陣をラップにプリントすることになった。
プリントする装置と冷凍の魔方陣はシルクスクリーンの技術を応用したものを作成して錬金ギルドに登録した。インクではなく魔石を充填して魔力をプリントするので凸凹してても問題なくプリント出来る。
錬金ギルドでは業務用ラップと家庭用ラップとプリント装置以外に冷凍の魔法陣と保温の魔法陣も登録した。どちらも効果時間は1時間刻みで最高24時間まで。
市場や商店街に商業ギルドが出店して、保温や保冷を希望するお客さんに有料でサービスする予定とのことだ。
「少しでも長く売れてくれれば将来の備えになるから安心だよ」
「カナったら年寄りみたいなこと言って!」
「だって何歳まで元気に働けるか分からないじゃん?怪我や病気で働けなくなるかも知れないのに寿命だけは無駄に長いんだもん」
「まあ、その心配は分かるわ」
デニッシュの冷凍生地販売とラップの販売とプリント装置、魔法陣の権利で定期収入の見込みがたったので、ある程度貯蓄したら投資にまわすつもりだ。長命種族になって将来どのくらいお金が必要になるか分からないので備えないと。
「働けなくなってもハナに美味しいフルーツ買ってあげたいもんね」
「ありがとカナちゃん」
ハナがカナに抱きついてすりすりした。
「本当に仲が良いのね、カナもハナちゃんも可愛いわ。ハナちゃんが安心して暮らせるように今後も協力は惜しまないわよ」
「ありがとうクラリッサ」
「今日はこの間の遠野の友達のお店で家族で食事して明日には拠点に戻るんだ。次に王都に来るのは春になるかな」
「淋しくなるわね、春を楽しみにしているわ」
商業ギルドでクラリッサと別れて遠野の友達のお店に向かう。王都の最後の食事は合コン会場だったお店だ。北欧っぽいご飯が美味しかった。
「いらっしゃいませ」
案内された個室には父さんとリザとアルバロが揃っていた。
「オーナーシェフのヘンリクさんと相談してメニューを決めちまったけど、いいか?」
「もちろんだよ!」
父さんのお墨付きなら間違いない。
「前菜のニシンの酢漬けは油で揚げたニシンを、ニンジン、タマネギなんかの野菜と一緒に酢漬けにしてあってマスタードソースで食べるらしい。ピッティパンヌはタマネギ、ジャガイモ、ソーセージを炒めた上に目玉焼きをのせた家庭料理だ」
これは合コンでも食べて美味しかった。
「おいしー」
魚もお肉も美味しい。ハナも喜んでいる。
「ハナちゃんにはスモークサーモンな」
「鮭!」
「スープはヘルネケイット。これはヘルネという豆のスープらしい」
緑色が綺麗で食欲をそそるスープは具材がとろとろに煮込まれていて温まる。
「それからリハプッラ。これはマッシュポテトや甘酸っぱい紫キャベツのピクルスなんかと一緒にホワイトソースで食べるミートボールだ。カレリアンピーラッカも頼んだ」
カレリアンピーラッカはライ麦粉と小麦粉の生地にライスプディングやマッシュポテトを乗せて焼いたものだ。ヘンリクさんのお店のはマッシュポテトと刻んだゆで卵が入っている。
「メインはロヒケイットっていう野菜と鮭のミルク煮込み。それからトナカイの肉の煮込みも頼んだ。マッシュポテトの上に肉をたっぷり乗せてくれて美味そうだな」
「鮭!」
鮭の煮込みにハナが大喜びだ。リザが大量のお肉を食べてヘンリクさんの度肝を抜いた。
「おいしかったー」
「たくさん食べたね」
「全部おいしかったよ!」
「本当に美味いな、どの料理も丁寧に作ってある。また王都に来たら寄ろう」
「次は春かな」
「そうだな」
ヘンリクさんのお店を出て王都の夜を散歩して屋台でグリューワインを買ってみんなで飲んだ。グリューワインはワインにスパイスやフルーツを入れて温めて作るホットワインで冷えた体を温めてくれる冬の飲み物だ。
お酒の匂いを嫌うハナだけ美味しい牛乳を欲しがった。ペットスリングの中は暖かいから飲み物が冷たくても大丈夫らしい。
ヘンリクさんのお店で山ほどお肉を食べたリザがデザートに屋台で肉の串焼きを山ほど平らげて王都観光を終えた。




