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第126話 グロリアさんとトニーニョさん

「結婚式?」


「トニーニョさんがグロリアさんにプロポーズして成立したらしい」

「式は家族だけでこじんまりと行うけれど、宿で披露パーティーを開催するので私たちにも出席して欲しいとのことです」


 私が初めての同世代の友達付き合いに浮かれている間に父さんとリザもいろいろあったようだ。王都に来て最初に泊まった宿の女将さんが再婚することになったらしい。


「ハッピーエンドで良かったね」

「ミーナちゃんが大喜びだ。もうトニーのことをお父さんて呼んでるぞ」

「それは良かったねえ」


「結婚式は再来週の週末で昼ごろからパーティーだそうです」

「ご祝儀代わりにパーティーの料理を用意すると申しでた」

「いいと思うよ、私も手伝うよ」

「カナはケーキを頼む」

「父さんは何を作るの?」

「立食パーティーの予定らしいからビュッフェ形式だな。こっちの世界の料理に寄せて作る予定だ」

 ホテル勤務だった父さんの得意な分野だから余裕っぽいな、私はちゃんと試作しよう。




 試作をはじめたらアルバロとハナが目の前から動かない。


「出来上がりまでしばらくかかるからお散歩にでも行って来たら?」

「出来上がるのを見ていたいんだ、粉や卵がケーキに変わってゆくのは何度見ても飽きないよ」

「ハナも」


 やりにくいが仕方ない。アルバロもハナも見過ぎだ。

検討した結果、ふわふわのジェノワーズで作るいちごのケーキはやめた。素朴で美味しいヴィクトリア・サンドイッチ・ケーキを作ることにした。そもそもいちごの季節では無いし、ふわふわのジェノワーズはこの世界で一般的ではないので、ずっしり重ための生地にした。

 バター、砂糖、卵、小麦粉を同量混ぜて2枚の生地を焼いてラズベリージャムを挟めばヴィクトリア・サンドイッチ・ケーキの完成だ。表面に粉糖を振ってお化粧すれば見栄えもばっちりだ。


 生地をオーブンに入れたらハナを抱っこしたアルバロがオーブンの前から動かない。その間に道具を洗って片付けているとオーブンが鳴った。



「出来た?」

「お茶にしようか」

「やったあ」

「僕が紅茶を淹れるよ」

「ありがとうアルバロ」


 アルバロに大きく、ハナと私に小さく切り分けた。

「あんまり、この世界の標準から離れないようにしようと思うんだ。だから粉糖を振った状態のシンプルなものを持っていくつもり」


「いいと思う!今日はクリーム付き?」

「うん、ホイップしたクリームといちごと一緒にいただこう」

 切り分けたケーキにホイップクリームといちごを多めに添えてサーブした。

「さあ、どうぞ」


「おいしー」

「さっくり、しっとり!食べ応えあって美味しいね!」

「ふわふわし過ぎない生地が特徴なんだ。日本の薄力粉だと本場の食感にならないからイギリスの粉を使って焼いたんだよ」

「うん!素朴だけど美味しい生地だね」


 クリーム無しの状態なら“砂糖をたくさん使って贅沢”だけど革新的ではないとアルバロに確認が取れたので試作した甲斐があった。



 商業ギルドでデニッシュの契約で忙しく過ごしていたら、あっという間にパーティーの日がやってきた。

 私もリザもドス・グラントで仕立てたワンピースに私が作った真珠のアクセサリーを合わせた。父さんとアルバロもドス・グラントで仕立てた服でグロリアさんの宿に向かった。


「おめでとうございます!」

「ありがとうございます、皆さんにはお世話になりっぱなしで…」

「お祝いだから遠慮は無しだ!さっそく料理を広げてもいいか?」

「ありがとうございます」


 父さんとリザとアルバロが料理を並べる。今日は立食のパーティービュッフェ形式だ。

スモークサーモン、ローストビーフ、生ハムとメロン、海老のカクテル、鮪のタルタル、ソーセージ、パテ・ド・カンパーニュ、グラタン、鴨のロースト。ダンジョンでドロップしたチーズ。


「ケーキはこれ!」

「まあ!…なんて大きなケーキでしょう」

「これは贅沢過ぎる…」

 もしかしたら、やりすぎたかもしれない。グロリアさんとトニーニョさんが引いている。


「砂糖とバターは私たちがダンジョンから持ち帰ったドロップ品なんです。向こうのお肉とチーズも。私たち、結構強いんですよ。美味しいって評判のダンジョン産だからお祝いに相応しいかなって」

 お祝いの気持ちでいっぱいなことと元手がかかっていないアピールをした。


「ダンジョン産の砂糖って貴重な高級品じゃないか…」

 逆のアピールになってしまったかもしれない。


「私たち強いんです。これは味見用に小さく焼いたものです。さあどうぞ」

 カットしたヴィクトリア・サンドイッチ・ケーキをグロリアさんとミーナちゃんとトニーニョさんに渡す。


「すっごく美味しい!」

「ミーナちゃん、気に入った?」

「うん!」

「気に入ってもらえて良かったです。一生に一度のパーティーですから!私たちのお祝いの気持ちですから!今日だけは贅沢でいいんです」

 グロリアさんとトニーニョさんが黙った。


「これは小さく袋詰めした焼き菓子です。お土産みたいな感じでお祝いに来てくださった方にお2人からお手渡しすると良いですよ」

 大きな籠ごとトニーニョさんに渡し、小袋を1つ取って中を開けて見せた。


「クッキーを何種類か入れてます。ミーナちゃん、味見をどうぞ」

「ありがとう!」

 ミーナちゃんが選んだのはバタークッキー、ハナにはナッツのクッキーを渡す。


「これ美味しい!サクサクしてる!」

「気に入った?」

「うん!」


「あの、ありがとうございます」

「感謝いたします!」

 グロリアさんもトニーニョさんも受け入れてくれる気持ちになってくれたようだ。


「お祝いですから!」



 今日はやりすぎても「お祝いですから」の一言でだいたい乗り切れるなと思った。

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