第123話 ハナとコタツ
「ねえねえカナちゃん。寒くなったよね」
「そうだね」
「……」
「……」
「もう!カナちゃん!!」
「なあに?」
「コタツは!?」
「おばあちゃんが亡くなってから出してないなあ」
ハナがガーン!とショックを受けている。そういえばハナは愛犬時代、コタツが大好きだった。
「コタツ布団の洗濯とかコタツ周りの掃除とか大変なんだもん」
「おこた!おこた!おこたー!出して出してだしてえ!」
ハナがひっくり返ってジタバタ暴れて叫ぶ。ハナがこんな風に駄々をこねるのは珍しい。
「カナ、洗濯と掃除は浄化で済むじゃん」
「…それもそうだね」
「久しぶりに出すか」
アルバロの助言で父さんと私がコタツを出す気になった。父さんや私の足にすがったり転がったり忙しかったハナが大喜びだ。
リビングを掃除してコーナーソファとコタツのセットを出してスイッチを入れるとハナがいつもの場所に潜り込んだ。リザとアルバロはコタツに入って10分後に溶けた。ハナはヘソ天でコタツ布団をかぶっている。
「ハナ、今日からおこたに住む」
「夜はお部屋に戻ってお布団で寝なきゃだめだ。お散歩もちゃんと行くんだぞ。良い子にしないとコタツを片付けるからな」
「ハナは良い子だから片付けちゃだめ!」
危機感を感じたハナがコタツ布団をギュッと掴んだ。なぜかリザとアルバロも『え!?マジで?』って表情で青ざめている。
コーナーソファとコタツのセットは犬も熊もダメにする。愛犬時代も散歩の時間になったから連れ出そうとしてもコタツから出たがらなかったし、無理に連れ出せばさっさと散歩を切り上げて家に帰るなりコタツに直行していた…でもそこが可愛い。
とはいえ運動不足は良くない。愛犬時代のハナがお散歩をサボると夜に元気が有り余って『遊ぼう!』と騒ぎ出したものだ。翌日も仕事だったり学校があったりしたので深夜にハナが元気にぐずると大変だった。今生でも毎日お散歩してもらわないと。
「ハナ、お散歩に行くよ」
「……」
「ハナ?」
「……今日はお散歩いかなくていい」
「ダメです。運動は必要です」
「…おこたがハナに側にいて欲しいって」
「コタツは喋りません」
「……」
「やっぱり片付けるか」
「そうだね」
動いたのはリザとアルバロだった。
「行きますよ、ハナちゃん」
「今日のお散歩ダンジョンはハナの好きなミノタウロスがポップするよ。美味しいお肉がドロップするから楽しみだね」
「お肉はカナちゃんのインベントリにたくさんあるもん〜」
リザが後ろからハナを抱えているが、ハナが両手でコタツ布団をギュッと掴んで離さないのでアルバロがハナの手を剥がしにかかる。
「ハナの肘に近いこの辺りを軽く押さえると自然と手が開くんだよ」
アルバロがハナの腕を親指と人差し指で軽くつまむとハナの左手がパッと開き、ギュッと掴んでいたコタツ布団が床に落ちた。
「あわわわわわ…」
「右手も試してみようか」
「やめてえ」
ぷにっ。
コタツ布団がばさりと落ちた。
「いやああああああ」
「たっぷり運動させてくるから!」
「私たちに任せてください!」
「おこたあぁぁぁぁ…」
「じゃあご飯を作って待ってるな」
「いってらっしゃい」
コタツ布団から剥がされた涙目のハナが運ばれていった。リザとアルバロに任せておけば間違いないだろう。
「今日はコタツで石狩鍋にしようよ」
「そうだな、ハナちゃんが大好きな鮭をたっぷり入れてやろう」
「ただいまー!」
夕飯の支度を終える頃、ハナが騒々しく帰ってきた。いつもご飯の匂いを確かめにくるのに今日はコタツに直行だった。
「おかえりハナ」
「おそと寒かったよ!」
少し怒っているようだ。こんなにモコモコの毛皮を着ているのに。
「あったまるようにお鍋にしたよ」
「今日は石狩鍋だ。ハナちゃんの好きな鮭をたくさん入れたぞ」
「鮭!」
ころりと機嫌を直して起き上がった。
「鮭をたっぷり盛り付けたぞ。バターを乗せるか?」
「のせて!」
ハナが鮭の上でじゅわりと溶けたバターごとスプーンですくって口に運ぶ。
「おいしー」
正しい石狩鍋ではなく石狩鍋風のお鍋だ。新鮮なものが手に入らないので鮭のアラは入っていないし、伝統的な具材だけでなくスイートコーンやじゃがいもを入れるから本場の人が見たら別物だと怒られそうだが、これはこれで冬に嬉しいバターのコクが美味しいお鍋だ。
「そろそろ〆るぞ」
締めは父さん得意の鮭クリームパスタだ。取り分けておいた鮭やキノコを足して目の前で仕上げる鮭クリームパスタにハナもリザもアルバロも大喜びだ。
「いいにおい」
ハナがフンフンする。
「出来たぞ、たくさん食えよ」
たっぷり盛り付けられた鮭クリームパスタは絶品で今日も食べ過ぎた。




