第122話 タタンカさんのアクセサリー
お隣の熊獣人で栗と蜂蜜が好物のタタンカさんは父さんと同じくらい大きくてテイマーのスキル持ちだった。
「ハナちゃんは大切にされているんだねえ」
お名前のイメージ通りにネイティブアメリカンぽい容姿のタタンカさんが優しくハナを撫でる。ハナもうっとりと撫でられるがままだ。
引っ越しの挨拶に鎧蜂の蜂蜜を持っていったら大喜びされたが、そのままスプーンですくって食べると言うので招待した。リコッタチーズのふわふわパンケーキにフルーツを添えて出したらとても喜ばれたので好きなだけ鎧蜂の蜂蜜をかけてもらった。
タタンカさんはネイティブ・アメリカンぽいハンドメイド・ジュエリーのデザイナーで宝石商で付与師だった。
男性でも普段使いできるジュエリーをデザインして毒消しなどの付与を付けて販売していて、買い手はほとんどが男性で冒険者や旅商人が安全のために買ってゆくらしい。
「おや寝てしまったね。息子たちが小さかった頃を思い出すよ」
タタンカさんは数年前に奥様を亡くされて2人の息子さんも独立されているらしい。
「可愛いねえ、孫が生まれたらこんな感じなのかと思うよ」
タタンカさんに抱かれたハナは無防備にもヘソ天で眠ってしまった。
「タタンカさんの手が優しいからですよ」
「さすがに初対面でヘソ天は過去に無いです」
「そうなのかい?嬉しいねえ」
すっかり打ち解けた私たちのためにタタンカさんがお茶会を開いてくれることになった。そこで他のご近所さんに紹介してもらうのだ。
「お茶菓子は任せてくださいね」
「ありがとう、楽しみだよ」
タタンカさんは熊獣人なのでハナに好みが似ているようだから蜂蜜レモンのパウンドケーキを作った。この他に軽くつまめるナッツのクッキーを小さくたくさん焼いた。タタンカさんの味覚がハナに似ているならナッツのクッキーも気に入ってもらえるはずだ。
「タタおじさん!」
「やあ、ハナちゃん、いらっしゃい」
すっかり懐いたハナがタタンカさんに向かって駆け出すと優しく抱き上げてくれた。
「スイーツは娘に任せて俺はサンドイッチを作ってきた。ローストビーフサンドときゅうりサンドな。パンは娘が焼いた」
「かえってすみません、こちらからお誘いしたのに」
「紹介の場を設けてもらえるだけでありがたいぞ」
タタンカさんが紹介してくれたご近所さんは3世帯で皆さんタタンカさんと同年代だった。
「あら可愛いわねえ」
「とっても良い子なのね」
ご婦人たちにハナがモテた。膝から膝を渡り歩いて撫で撫でされてご満悦だ。
この日集まったご近所さんは皆さん引退した商人で商売は子供が継いでいるらしい。皆さん、商売人だけあって話し上手で話題も豊富で楽しい時間はあっという間に過ぎ、お土産に用意した贈答用のジャムを渡してお茶会はお開きになった。タタンカさんにはジャムの他にナッツの蜂蜜漬けも渡したら大げさなくらい感激された。
「今日は楽しかったね、ハナが可愛いって評判で嬉しかったよ」
「カナ」
「なあに、父さん?」
「これを着けておけ」
シルバーの土台にターコイズが付いた小さなピアスだった。
「火傷防止の付与をしてもらった。お前、ちょくちょくオーブンで火傷してるだろう」
確かに仕事でパンや焼き菓子を作っていた頃は火傷が多かったが、今は家庭料理や趣味のレベルなので火傷することもない。火傷ばっかりしていた頃も同僚みんな同じだったので気にしたことも無かった。でも父さんは気にしていたようだ。
「タタンカさんに注文してくれたの?」
「ああ。付与が1つなら簡単だしすぐ出来るって。ずっと着けているなら小さいものがいいってピアスを勧められた」
「ありがとう」
ちょっと恥ずかしくて嬉しいプレゼントだった。




