第114話 裏山で採取
「ラップか?安くしないとダメだろう?」
夕飯の時に錬金ギルドでのやり取りを話したら当然のように答えた。父さんの反応は予想通りだった。
「じゃあ安く売るけど長く使用料をもらえるように交渉しようか」
「そうだな」
私たちは長命なので長く続く収入のあてが欲しいと思っている。
「鈴蘭亭はどう?」
「ハンバーグやロールキャベツ、シチュー、グラタンなんかの作り方はもう覚えたな。そこそこ美味く作れるぞ」
「そっか」
「ひき肉作りはトニーが担当するとかで毎日来てる」
── それは会いに来るいい口実だな。
「ミーナちゃんがトニーに懐いていてな。他の常連客もいい人ばかりだけど、みんな数日で旅立つ客だろう」
「そうだね。グロリアさんが独身の頃から結婚しても未亡人になっても思い続けていたって聞いた時はきm…重いなって思ったけど、ずっと近くでグロリアさんとミーナちゃんを支えていく覚悟があるって言ってたもんね。グロリアさんとミーナちゃんがきm…重たいって負担に思わず慕わしいと思うなら両思いでハッピーエンドだよね」
「…デニッシュのレシピも高く売れそうでよかったな」
「うん」
少しだけ本音が溢れそうになって父さんが何か言いたげだったけどキモいって言ってないからセーフだったと思う。
翌日は朝からハナを連れて我が家の裏山で採取をした。父さんはリザと一緒に釣りに行った。アルバロは私たちと一緒に採取だ。
「あんまり遠くに行っちゃだめだよ」
「わかったー!」
分かったと言いながら見えなくなる。全然分かっていないが淋しくなれば自動的に戻って来るだろう。
鑑定で大雑把に【食用】と念じるとキノコや山菜、薬草などにラベルが見えたのでどんどん採取する。
「カナちゃーん!」
ハナが駆け戻ってきた。
「どうしたの?」
「大きな蜂の巣あった!」
アルバロと一緒に見にいくと巨大な蜂の巣があり、周囲を大きな蜂がブンブン飛んでいた。鑑定してみると鎧蜂という魔物だった。
「鎧蜂は身体が硬くて攻撃が効きにくい上に大量の蜂がちょこまか飛び回って倒すのが厄介な魔物なんだ」
「冷却魔法で凍らせたら?」
「イチコロだね」
マッピングスキルで確認しながら蜂の巣の周囲ごと瞬間冷凍すると飛び回っていた蜂が一瞬でボトボト落ちたので蜂の巣ごとインベントリに収納してインベントリの中を確認すると蜂の巣と蜂、はちみつ、女王蜂などが入っていた。
「鎧蜂は人気の素材なんだけど無傷で倒すのが難しいから高く買い取ってもらえるはずだよ」
「それはいいね!」
「それに鎧蜂のはちみつは美味しいって評判なんだ。大きな巣だったから100ℓは取れるんじゃない?」
「たべたい!」
ハナが反応した。熊のハナと蜂蜜…似合う。なんて可愛い組み合わせなんだろう。
「蜂蜜でおやつにしようか」
「うん!」
近くの泉に移動してアウトドア用のテーブルセットを広げる。
アルバロが竈門を組んで火を起こしてくれたのでインベントリから材料を出してボウルで混ぜたら直火用のワッフルメーカーに生地を流し入れて焼いていく。
「美味しいにおい」
ハナがフンフンする。
ふわふわのワッフルをアルバロと私に1枚ずつ焼いたら、熱々の焼きたてワッフルをお皿に乗せてバニラアイスを添えた。ハナの分は食べやすいよう小さく何枚も焼いた。
「鎧蜂の蜂蜜はこれ、好きなだけ掛けてね」
ハナのワッフルに蜂蜜を掛けてやる。
「もっと掛ける?」
「そのくらい!」
ハナが蜂蜜と溶けたアイスを絡めたワッフルを頬張る。
「おいしー」
ハナは今生は熊なので蜂蜜が似合う。フォークを使って上手に食べる姿が可愛い。
「すっごく美味しい…蜂蜜だけ食べるのと全然違う」
── アルバロ、今までは蜂蜜だけ食べていたのか…。
残りの生地を焼いてアルバロのお皿に追加したら喜んで食べてくれた。
おやつの後で見て回ったら蜂の巣の周囲はあけび、山柿などが鎧蜂に取り尽くされていた。アルバロによると花の蜜を集めるのではなく、糖になるものはなんでも集める魔物なので、すべて蜜に変換されたようだった。裏山を放置していたから餌になるものが多く、巣を作られてしまったのだろう。
この他にキノコや山菜をたくさん採取して大満足な1日だった。




