第108話 王都の錬金ギルド
翌日も鈴蘭亭で朝食の支度をした。
今日は我が家を出る直前にハナをペットスリングの中に入れてずっと抱いている。明るい場所で動き回っても熟睡しているハナは愛犬時代から野生を忘れた子だった。そこが可愛い。
「おはようございます」
ぞくぞくと宿泊客が起きてきた。
「おはよう、今日はプレーンオムレツだ」
オムレツとサラダとカリカリベーコンと残り野菜で作ったスープとパン。ケチャップは売っていないので手作りした。
「きれいな卵焼き!」
「この赤いソースと一緒に食べると美味しい」
父さんのオムレツは美しくて美味しいのだ。
「おはようミーナちゃん、すぐにご飯食べる?」
「食べたい!」
ミーナちゃんの分も手早く用意した。
「この卵きれいで美味しい…」
「気に入った?」
「うん!」
「たくさん食べろよ」
今日の朝食も好評で父さんがご機嫌だ。
スリングの中のハナが動いた。
「起きた?」
「…… 縺翫″縺ェ縺」
まだ目が覚めないようだが時間の問題だ。父さんが私たちの分のオムレツを焼き始める。
「あふう…おはようカナちゃん」
「おはようハナ。父さん、リザたちを呼んでくるね」
リザとアルバロを呼んできたら朝食が出来上がっていた。
「グロリアさんが起きたら出来立てを出せるようにインベントリに入れた。俺たちもいただこう」
「おいしー」
ハナの機嫌がいい。オムレツを食べるハナが可愛い。
食べ終わったら片付けてキッチンと食堂を浄化。部屋を回ってリネンを回収して宿全体を浄化して洗濯。ミーナちゃんがグロリアさんが起きたと知らせてくれたので朝食を食べてもらった。鑑定結果は変わらないけど良くなってると思う。
昼ご飯の準備をするついでに父さんがレバーペーストを作った。グロリアさんの貧血対策だ。お昼は手作りケチャップでナポリタン。レバーが苦手だと言ったグロリアさんが父さんのレバーペーストは美味しいと言うので元気になったら作り方を教える約束をして錬金ギルドに行った。
ハナはアルバロとリザと一緒にお散歩ダンジョンだ。ハナの両脇に後ろから手を差し込んで『いってらっしゃい』と言いながらハナを渡したら『いってきます』と抱き取ってくれた。
「聖人の泉の小瓶とやり直しの石ですか!幸運おめでとうございます」
聖人の泉の水は味方にかけたり飲ませたりするとポーション代わりになるし、魔物にかければダメージを与えられる便利アイテムで、やり直しの石は最後に訪れた町や城に戻れるアイテムだ。
ルースラゴスやモンテ・トラスと同じ数を売るか迷った。王都では冒険者ギルドも依頼が少ないと聞いたので聖人の泉の水なども需要が無さそうだと思ったのだ。
「はい。王都では一般の冒険者からの需要はありませんが軍が買い取ります」
「…そういう需要があったか」
「ただし軍からの買い上げとなると買い取り価格は一律です。高く売りたい方からは敬遠されます」
ギルドへの貢献度は高いんですけどねと言う。
「必要としている人が多い割に出回らないから希少で割高になっちゃうって聞いたんですけど」
「そうなんです。やり直しの石を買い占めて高く売ろうとする者がいるんです。転売を見つけるとギルド資格剥奪の上、生涯にわたって再登録禁止にしているんですが後から後から出てくるんですよ」
「危険が多そうな街で少しずつ売っているんだが軍隊も必要としていそうだな」
「半分なら良いんじゃない?」
「そうだな、聖人の泉の小瓶3,000本とやり直しの石300個までなら売ってもいい」
最初の泉たちからもらった分の半分だ。2度目の泉達からもらった分もあるが残りは危険な環境に晒されている街に提供したい。
錬金ギルドの職員がカッと目を見開いた。
「軍に連絡してみます!途中で気が変わりませんよね?」
「大丈夫だ、なんなら預けていくぞ」
父さんが気前よく出した。
職員さん総出で数を数えて預かり証を書いてくれたしギルドマスターまで出てきて感謝された。
「じゃあ任せた」
「よろしくお願いします」
「今の方達ってポーションの品質安定レシピを売ってくれた方たちですよね」
「ルースラゴスで胸まである不思議な防水服も委託してるぞ…もの好きな釣り人がたまに買っていくらしい」
錬金ギルドで噂になっていることにカナたちはまだ気づいていない。




