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第107話 トニーニョさん

「朝早くからすみません」


 軍人さんの名前はトニーニョさん。ミーナちゃんのお父さんの友人でグロリアさんの元同僚だった。グロリアさんの亡くなった旦那さんのマテウスさんも軍人でグロリアさんは軍属だったらしい。マテウスさんはミーナちゃんが赤ちゃんの時に討伐の任務で亡くなった。赤ちゃんだったミーナちゃんを抱えたグロリアさんは生活のため、ミーナちゃんを育てるため、国からの見舞金を元手に女性限定の宿を始めて休みなく働いてきたそうだ。


「昨日、宿泊客の方がポーションを買いに行って事情を聞いたとポーション薬局の主人から聞いて気になって…」



 手紙を届けようと言った旅商人の夫婦は昨日グロリアさんの為にポーションを買いに行ったらしい。

「グロリアさんとミーナを心配して来てくれたのね」

「王都に2人に心をくだいてくれる人がいると聞いて安心したよ」


この宿の宿泊客の皆さん、良い人ばっかりだな。


 トニーニョさんは夕飯を食べに来ることになった。グロリアさんは夕方に起きていられるよう昼間も充分休んでもらえば大丈夫だろう。

トニーニョさんと連泊のお客さんたちを送り出したら掃除と洗濯だ。


「ミーナちゃん、全部のお部屋を浄化しちゃうよ」

「ありがとう」

 ミーナちゃんと一緒に全部の部屋を回ってシーツや枕カバーを回収して部屋を浄化した。ちょこちょこ着いて回るハナが可愛い。


回収したリネンはみんなで洗った。洗うのも絞るのもリザのパワーが凄かった。


「リザさんすごーい」

「ふふふ。私だって役に立つんです!」

 ミーナちゃんの尊敬の眼差しを浴びるリザが両手を腰にあてて誇らしげだ。

「リザにはいつも感謝してるんだよ」

「そうだな」

父さんがリザを見る眼差しが優しい。


「ミーナちゃん、グロリアさんの様子を見てきてもらえる?起きてたらご飯を食べられるか聞いてみてね、スープだけでも飲んでもらえるといいんだけど」

「うん!」


ミーナちゃんと一緒にグロリアさんが食堂に現れた。


「昨日より顔色がいいね」

「休んだ分だけ良くなっているな、完全に回復するまで休むんだぞ」

「いつまでもご迷惑をおかけする訳には…」

「そんなに長く寝込むほど悪くないって鑑定に出てるが2〜3日は働くなよ、鑑定で良くなるまでダメだぞ」


グロリアさんはスープを完食してくれた。


「数日分の飯は任せろ」

「食材の買い出しが必要だね」

 グロリアさんから朝食と夕食の予算を聞いて市場に買い出しに行った。お昼はキノコとベーコンとほうれん草でスープパスタを作ってグロリアさんとミーナちゃんと一緒に食べた。スープパスタならグロリアさんも食べやすいだろうと思ったらお昼も完食してくれた。


「ハナちゃん可愛い…」

 上手にスプーンやフォークを使うハナは可愛いから仕方ないけどミーナちゃんに熊は本来危険な生き物だと念を押した。


「俺たちは商業ギルドに行ってくる。戻ったら夕飯の支度を始めるから休んでてくれ」

 グロリアさんとミーナちゃんに休んでいるよう言って鈴蘭亭を出た。ハナはアルバロとリザたちと一緒にお散歩ダンジョンだ。



「いらっしゃいませ」

「いくつか委託販売を頼んでいるんだ。もし必要なら納品できるから寄ってみた」

「確認いたしますのでお待ちください」


ギルドカードを出して待っていると別室に呼ばれた。


「フルーツケーキとコンフィチュールとバウムクーヘンとマカロンとクッキーを?」

「はい!王都の富裕層の間で話題なんです」

 インベントリ内のフォルダで複製しまくってあるので、たくさん納品した。


鈴蘭亭への帰り道でスキップだ。

「たくさん売れそう!売れたらハナに美味しいもの買おうっと」



「ただいまー!」

「おかえりなさい」

ミーナちゃんが出迎えてくれた。


「夕飯の支度しちゃうね!」

「カナさん嬉しそう」

「良い取引が出来たんだ、王都に来てよかったよー」

「そうなんだ、良かったね!」

「ありがとう」


「今日はポークソテーと昨日のシチューの残りでグラタンだ。ポークソテーはみんなが帰ってきてから焼くから出来立てを食ってもらおうな」

「うん!」

ミーナちゃんが元気にお返事してくれた。



1時間ですべての支度を終えた。


「そろそろトニーニョさんが来る時間だと思うからグロリアさんに伝えてくれる?」

「呼んでくる!」


グロリアさんの顔色がさらに良くなっている。

「鑑定してもいい?」

「はい」

【疲労と過労と貧血と衰弱】が【疲労と貧血】になっている。


「過労と衰弱は消えたけど疲労と貧血は残ってる」

「休めばじきに良くなるな。焦らずちゃんと治さないとミーナちゃんも不安だろう。ちゃんと休めよ。鑑定するから良くなったと嘘ついてもダメだぞ」

「お母さん、無理しないで」

「ミーナ…」


「ただいまー」

 連泊のお客さんがぞくぞく帰ってきたので父さんが肉を焼く。ハナ達も帰ってきた。キッチンの広さという理由で私は手伝えないので残り野菜で作ったスープとリメイクのグラタン、パンと一緒にポークソテーの定食をリザと一緒に運んだ。グロリアさんとミーナちゃんにも先に食べさせた。


「今日も美味しい!」

「本当に美味しいわね!」

「そうか?嬉しいな」

 宿泊客の皆さんに喜んでもらって父さんが嬉しそうだ。


「今日は俺たちも一緒に食わせてもらう。食事の料金は後でまとめて払うな!」

「お金なんていただけません!」

 やりとりの末に明日以降も掃除や洗濯などの仕事を手伝う代わりに食費は無料になった。


「じゃあ俺たちの分も用意しよう。本来、持ち込み禁止だと思うんだけどリザは普通の量だと足りないから見逃してくれ」

 昨日、屋台で買った肉の串焼きを大量に積み上げたが、みるみる減っていくのでグロリアさんもミーナちゃんも宿泊客の皆さんもびっくりだ。


「どこに入っていくの?」

「細いのに…」

「リザは美味しいってたくさん食べてくれるから料理人の父さんと相性バッチリなんだ」

「やだ…カナさんたら恥ずかしい」

 恥じらいながらも食べるスピードが落ちないリザは山のような串焼きを完食した。


「確かに気持ちの良い食べっぷりだねえ」

「美味しそうに食べるわねえ」

リザの持ち込みは許された。



「こんばんはー」

トニーニョさんが来た。

「肉を焼くぞ」

 トニーニョさんが席に着いたらすぐに出せた。軍人さんなので全部多めに盛り付けた。


 その間にリザと私で皆さんのお皿を下げて浄化魔法でピカピカにした。お鍋やフライパンは父さんが浄化済みだった。


「すごく美味しいです」

「でしょう?」

「私たちも食事が楽しみなの」

 トニーニョさんが宿泊客の皆さんと盛り上がる。軍人さんだけど怖くなくて気さくな人だった。大きな人なので多めに盛り付けたけど完食してくれた。


「トニー、お見舞いありがとう」

「顔色は悪くないね、良くなってる?」

「カナさんたちが鑑定してくれて疲労と貧血は残ってるけど過労と衰弱は消えたって」


「良くなるまで俺たちも宿泊予定だ」

「その後はカミラさんたちが勧めるように通いで手伝いの人を雇うのもいいんじゃないかな」


「はい。ミーナに心配掛けたと反省しています。無理をするとお客様に迷惑をかけてしまうということも学びました」


「もし未経験の人を雇ったら慣れるまでは仕事を教えるのも教えられるのも大変かもしれないな。俺はホテルで働いていたから勝手が分かるが」

「私も宿を始めた頃は失敗ばかりでした。来てくれた人を不安にさせないように心掛けます」


 たくさん話して安心したと言ってトニーニョさんが帰って行った。

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