第105話 女性全般をお嬢さんと呼ぶ父
「使ったのはこれだけだ。クリームシチューはリメイクして明日の夕飯でグラタンに出来るよう多めに仕込んだ。ロールキャベツは小ぶりに作ったから1人前あたり1個で出してもいいし2個で出してもいい。原価計算して決めてくれ」
使ったものと量を書き出した紙をグロリアさんに渡す。
キャベツが半分、豚肉と牛肉を半分ずつ。ロールキャベツを煮込んだトマトなど。それからクリームシチューの材料一覧。
「これだけの材料で2品も作ってくださるなんて…!全部今日の夕食で使うつもりだったんですよ」
「じゃあ定食風に盛り付けてみるか。パンは配達されたやつだったな」
「ロールキャベツのトマト煮込みは2個。あとはクリームシチューとパンだ。この量で盛り付けるとクリームシチューは半分近く余るから、リメイクして明日の夕食でグラタンができる」
「グロリアさんとミーナちゃんで試食してみてくれ」
女性客が喜びそうな盛り付けで提供した。
「美味しい!」
「お母さんのご飯より美味しい!」
「おじさんは冒険者をやってるけど本職は料理人なんだ」
「ハナも食べたい」
「グロリアさん、代金は払うからハナにシチューをやってもいいか?」
「お金なんていりません!」
「そうか?ありがとう」
父さんがハナの器をインベントリから出して少しだけよそう。
「後でみんなでご飯の時に食べられなくなるから少しで我慢しろよ」
「ありがとー!」
ハナのスプーンを出してやると上手にスプーンを使って食べる。
「すっごく可愛い…」
「ミーナちゃん、お外で熊を見たらちゃんと逃げてね」
ちょっと心配になった。
「ただいまー」
「グロリアさーん」
「帰ってきた!私、行ってくる」
ミーナちゃんが受付に駆け出した。
「グロリアさん倒れたんだって、具合はどうだい?」
「起きてて大丈夫なのかい?」
「お迎え出来ずにすみません」
「いいんだよ、この宿を閉めることになったら、あたしたちこそ困るんだから」
「自分たちのことは出来るから休んでいてくれよ…って美味しそうだね」
「すぐに食えるぞ」
「あなたは?」
「今日、王都に着いたばかりの家族だ。冒険者ギルドでこの宿を勧められた」
「着いた早々ご迷惑をお掛けしてしまって…」
「気にするな!そっちのお嬢さんたちは食うか?」
父さんは年齢に関係なく女性全般をお嬢さんと呼ぶ。リザがヤキモチ顔になっているって気づいていないな。
「私が運びます!」
リザから父さんを女性客に接触させない決意を感じる。
いま帰ってきたのは商人の女性たちだった。食べ終わったら配膳を担当してくれると言うので任せることにして屋台村に向かった。本職が料理人で王都で評判の店や屋台を食べ歩きたいと言ったら商人のお嬢さんたちがおすすめの屋台を教えてくれた。
「おいしー」
商人のお嬢さんたちおすすめの屋台はハナも気に入ったようだ。
「いろんな地域の料理が集まってるって話の通りだな」
煮込みも肉の串焼きも美味しい。やっぱり塩味で香辛料は使われていないんだけどハーブや野菜で変化をつけてある。
「お腹いっぱい」
「宿に戻ろうか」
「そうだな」
宿に戻って食堂に顔を出すと4組のお客さんがいた。女性だけが3組に女性と男性のグループが1組。
「おかえり!」
「あなたたちが作ったんですって?」
「すっごく美味しかったよ!」
「ありがとう、グロリアさんたちは休んだ?」
「ああ、ミーナちゃんと一緒に休んでもらったよ」
「じゃあ俺たちがここを片付ける。カナはお湯を出して差し上げたらどうだ?」
「そうだね。どこに出したらいいかな」
「魔法を使えるの?」
「嬉しいわ!」
裏に案内された。
「ここがお湯を浴びたりする場所なの」
渡り廊下で繋がったサウナ室のような場所だった。大きな樽がいくつかあったので浄化魔法で部屋全体をピッカピカにしてから樽にお湯を出した。
「皆さんどうぞ」
「ありがとう!」
「冷める前に順番で使いましょう」
「冷めたら呼んでください」
キッチンに戻ると父さんが浄化魔法でピッカピカに浄化済だった。
「明日の朝食の支度?」
「ああ。今日のうちにほうれん草のポタージュを仕込んでおく」
グロリアさんが回復するまでここに宿泊することになりそうだ。




