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第104話 グロリアさんの宿

 パルミラさんおすすめの宿は女性が主人の女性向けの宿だった。宿は女性に聞くのが1番いいと思った。


「箒を持った女性の看板が目印って言ってたね」

「あれじゃないか?」

 箒を持った女性と鈴蘭が描かれた鈴蘭亭の看板を見つけた。



「いらっしゃいませ!泊まりですか?おかーさーん!」


 受付に居たのは小さな女の子だった。宿の主人はグロリアさんというシングルマザーで受付に居たのはグロリアさんの子供のミーナちゃん。7歳くらいの元気のいい女の子だ。


「鈴蘭亭へようこそ。女将のグロリアです」

「1週間、素泊まりでお願いします」


 1部屋4人の素泊まりで1泊24,000シル。朝食は別料金で1人1食750シル、夕食も別料金で1人1,200シルだった。地方よりも割高なのは王都だからだろう。


「鍵はこれです。お出かけの時は受付に預けていってくださいね」

「ありがとう」


「すっごく可愛いね」

ミーナちゃんの視線がハナに釘付けだ。


「ありがとう。ハナは契約しているからいい子なんだけど野生の獣は襲ってくるから外で熊を見たら迷わず逃げてね」

「ハナは1人でダンジョンを踏破できるくらい強いんだぞ」

ハナを1匹扱いしたくないから1人と呼ぶのが私たち家族のこだわりだ。

「とっても大人しく見えるのに!」

ミーナちゃんがびっくり顔だ。

「良い子だけど熊だからな!」


 とりあえず部屋に行ってみることにした。ペットスリングの中からハナがミーナちゃんに手を振るとミーナちゃんも振り返してくれた。


 部屋は地方の宿よりも狭く感じたが王都だから仕方ない。それに魔法陣で我が家に帰るから狭くても問題ない。

「女性が経営する宿って感じ!綺麗だしベッドカバーやカーテンも可愛いね」


 可愛い部屋に満足したので王都観光に出ることにした。部屋に鍵をかけて1階に降りる途中で何かが倒れる音がした。


「いくぞ」

父さんが走り出した。


「どうした?」

「お母さんが!」

 キッチンでうずくまるグロリアさんと、グロリアさんにしがみつくミーナちゃんがいた。


「揺さぶると危険なこともある。俺たちにみせてくれ」

 ムキムキの父さんがそっとミーナちゃんを抱えたので私が鑑定すると【疲労、過労、貧血、衰弱】と出た。


「疲労と過労と貧血と衰弱だって」

「命に関わる病気じゃなくて良かった」

「うえぇぇぇぇ」

ミーナちゃんが泣き出した。


「光魔法で治療したけど病気じゃないから休まないと良くならないよ」

「ベッドに運ぼう」

アルバロがグロリアさんを抱き上げる。


「お部屋はどこ?」

「あっち…」

 ミーナちゃんが泣きながら指さす方へ全員で移動した。

「僕らは出てるね」

 父さんとアルバロが出ていったのでグロリアさんに楽な格好に着替えてもらったらグロリアさんはすぐに眠ってしまった。


「ミーナちゃん、宿は満室?」

「まだ空いてる部屋はある…」

「じゃあ、新しいお客さんは断るようにしよう。事情を話して、それでも良いと言ってくれる常連さんだけ受け入れるようにしよう」

「うん」

「食事を申し込んでるお客さんはいる?」

「いる」

「じゃあ私たちで準備しよう。お母さんには休んでてもらおうね」

「でも…」

「私がついています。何かあれば呼びに行きます」

「リザがついててくれるから。ミーナちゃんは私たちにキッチンのこととか教えて?」

「…わかった」



 ミーナちゃんと一緒に部屋を出て父さんとアルバロに説明した。


「おじさんは料理人なんだ。お母さんとお客さんに美味い飯を作ってやるから心配するな」

「うん」

当然だけどミーナちゃんに元気がない。


「材料を確認させてくれ」

「こっち」

 父さんと一緒に食材庫の在庫を確認した。鶏肉、豚肉、牛肉、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、キャベツ、ブロッコリー、セロリ、ほうれん草、トマト、ベーコン、ソーセージ、牛乳、チーズ、卵。


「クリームシチューを作れるんじゃないかな」

「ロールキャベツも出来るな」

 どちらも女性人気の高いメニューなので女性客限定の宿にもってこいだ。


 ミーナちゃんに食事を予約しているお客さんの人数を聞いて父さんとアルバロと3人で下拵えを始める。私たち以外全員が宿で食事を取るらしい。

「リメイクして明日の夕食にするからクリームシチューは多めに作ろう」

 クリームシチューはドリアやグラタンにリメイクしても美味しいが、この世界でお米は動物の飼料扱いだからドリアじゃなくてグラタン確定だ。


 私が野菜の皮をむいてアルバロが骨から肉を外して出汁をとる。父さんはロールキャベツのために豚肉と牛肉を叩いてミンチにする。

 ハナはミーナちゃんに寄り添って心配そうに見上げている。


 3人で作ると早い。2時間後には大きなお鍋にいっぱいのクリームシチューとロールキャベツが出来た。


「すっごくいい匂い」

 ミーナちゃんが元気になった。ハナもフンフンしている。


「原価計算して出す量を決めなきゃならないんだがグロリアさんを起こす訳にもいかないよなあ…」

父さんが困り顔だ。


「起きたので連れてきました」

 リザがグロリアさんをお姫様抱っこしていた。


「お母さん!」

 ミーナちゃんがグロリアさんに抱きつく。



 さっきよりは顔色も良い。ちゃんと休めば元気になるだろう。命に関わるような病気でなくてよかった。

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