第1話 再会
「カナちゃん!会いたかった」
真っ白な子熊が私に抱きついてきゅんきゅん泣いている。
「カナ、新しいおもちゃを買ったのか?」
流暢にお喋りして良くできたおもちゃだなと感心する父さん。
「ぜんぜん覚えがないんだけど」
しっかりと抱き直して顔をのぞきこむ。
「ハナだよ!…忘れちゃったの?」
父さんと私の動きが止まった。
ハナは私が子供の頃に飼っていた愛犬で真っ白なスピッツの雑種だ。私が幼稚園の頃、きょうだいのいない父子家庭でも淋しくないようにと父さんが連れ帰った最愛の愛犬だったが私が中2の頃に年老いて病気で死んでしまった。その後は部活だ受験だ就職だと、なにかと忙しくてペットをお迎えすることは無かった。
「ハナちゃんは犬だったんだけど…」
「死んじゃったから元の姿には戻れないの…神様がこの姿が可愛いから、これならまた家族に迎えてもらえるって」
ぬいぐるみみたいな子熊をギュッと抱きしめて頭のてっぺんの匂いを吸う。
「ハナちゃんの匂いだ…」
「え!?本当に?ハナ、おいで〜」
シロクマを抱き寄せた父さんがくんくんする。
「ハナだな」
「信じてくれる?」
「もちろんだ」
「嬉しい!パパ大好き〜」
父さんがシロクマのハナを強く抱きしめる。デレデレだ。神様とか言ってたけどハナをよこしてくれた人の気が変わらないうちにお迎えしよう。
「シロクマって飼う時に届け出が必要なのかな?」
「市役所に聞いてみるか?」
「市役所?」
私と父さんの会話に首を傾げるシロクマ。
「そうだよ、犬を飼う時は人間と同じで届け出が必要なんだ。ハナも登録していたんだよ」
犬は役所への登録の届け出が必要だ。また犬は年に一度、狂犬病の予防注射を接種させなければいけない。
「狂犬病の注射は?クマの場合はどうなるんだろうね」
シロクマのハナがプルプルと震えだした。
「注射は嫌!」
「嫌でも受けなきゃダメ。人間の世界で暮らすためのルールを守らなきゃ」
「ここはカナちゃんの世界じゃないもん!だから注射は必要ないんだもん!」
── どういうこと!?