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お仕置き部屋の泥人形

作者: ウォーカー

 山奥の村。

照りつける日差しの下、

子供たちが数人、大人の男に連れられて山林を歩いている。

向かう先は、村の裏山にある古い洞窟。

まもなくして目的の洞窟が見えてきた。

洞窟に入り、か細い松明を照らす。

すると洞窟の中に、鉄格子がはめられた牢屋の様な部屋が姿を現した。


 連れて来られた子供たちは、村で悪名高い悪童たち。

いつもいたずらをしては大人たちに叱られていた。

障子に穴を開けたり、郵便ポストに蛙を入れたり、用水路に絵の具を混ぜたり。

とうとう村の大人たちの堪忍袋の緒が切れて、

今日、その子供たちは、

この洞窟へと連れて来られることになったのだった。

子供たちを連れてきた大人の男が、

洞窟の壁に備え付けられた松明に火を灯し、鉄格子の鍵を開けてから言った。

「この洞窟は昔、村の神様を祀る祭壇だったんだ。

 今でもその祭壇が残っているんだが、

 野生動物が祭壇を荒らさないように、鉄格子をはめて鍵を掛けてある。

 それから、外から鍵を掛けられるのを利用して、

 お前たちのようないたずらっ子を入れるお仕置き部屋としても、

 昔から使われてきた。

 これからお前たちは、このお仕置き部屋に入るんだ。

 お前たちが反省して、ちゃんとごめんなさいって言うまで、

 この牢屋から出してやらないからな。」

大人の男は腰に手を当てて仁王立ちをしている。

しかし、お説教されている当の子供たちは全く堪えていない。

「ちぇっ。

 いたずらくらいで大げさな。」

などと、口を尖らせて悪態をついている。

それを聞いた大人の男は、

そんな子供たちを半ば押し込むように洞窟の牢屋の中へ入れて、

牢に鍵を掛けた。

「私はこれからちょっと席を外すけど、

 この松明が燃え尽きる頃に、様子を見に来るからな。

 それまで大人しく反省してるんだぞ。

 ここは風通しが良いから大丈夫だとは思うが、

 もしも松明が途中で消えてしまったら、大声で人を呼ぶんだぞ。」

そう言い残して、大人の男は洞窟から去っていった。


 大人の男がいなくなったのを確認して、

お仕置き部屋の中の子供たちは頭を合わせて相談を始めた。

「ふぅ。

 うるさい大人がやっといなくなったな。」

「まったく。

 あの程度のいたずらで、こんなに怒らなくてもいいじゃないか。」

「ところで、これからどうする?

 この薄暗いお仕置き部屋の中で反省なんて、俺は嫌だぜ。」

「そこはそれ。

 こんなこともあろうかと、情報収集はしてきたんだ。」

子供の一人がいたずらっぽく笑って言った。

「この洞窟は昔から、

 この村の子供たちのお仕置き部屋として使われてきた。

 今までにたくさんの子供たちが、ここに入れられている。

 実は、このお仕置き部屋には、

 その歴代のいたずらっ子たちが見つけた抜け穴があるらしいんだ。」

「抜け穴?

 この牢屋のような部屋の中にか?」

「そう。

 村のいたずらっ子たちの間で代々受け継がれてきた、

 秘密の抜け穴さ。

 この立板みたいな祭壇の裏にあるらしい。」

「本当か?

 とにかく調べてみよう。」

洞窟の牢屋の壁に立てかけられるように、祭壇が設置されている。

祭壇は大きな立板に飾りを施された作りになっていて、

その立板の裏には、人が入れそうな空間が空いていた。

そこに体を潜り込ませて、ごそごそと弄る。

「・・・あった!」

しばらくて、洞窟の壁に穴が空いているのが見つかった。

その穴は、子供が何とか通り抜けられそうな大きさ。

向こう側から微かに風が吹いていて、外光が差しているのが見えた。

「向こう側から風が吹いている。

 ということは、この穴の先は外に繋がってるんだ。」

「どうやら、これがその抜け穴で間違いないようだな。

 よし、早速こんな牢屋からは脱出しよう。」

喜び勇む子供たちに、抜け穴の話をした子供が声を掛ける。

「みんな、待ってくれ。

 このままみんなで牢屋から出ていったら、大人にバレてしまう。」

呼び止められた子供たちは振り返って咎めるように応える。

「なんだよ、ビビってるのか。」

「この薄暗い洞窟の牢屋に残れって言うのか?

 俺は嫌だぜ。」

「でも大人にバレたら、またここに連れ戻されるだろう。」

「じゃあどうしろって言うんだ。」

「身代わりを用意したら良いのさ。」

「身代わり?」

抜け穴の話をした子供が、洞窟の壁を撫でながら説明する。

「そう。

 この洞窟、地面は固いんだけど、壁はそれほどでもないみたいだ。

 ところどころ、粘土みたいな泥みたいな柔らかい土で出来てる。

 その泥を使って、泥人形を作ったら良い。

 実はこれも、村のいたずらっ子の間で伝わってる話の一つなのさ。」

「泥人形の身代わりか。

 洞窟の中は薄暗いとは言っても、すぐ分かるんじゃないのか。」

「泥人形に細工をすればいい。

 上着や帽子を被せれば、薄暗い洞窟では人がいるように見えるだろう。

 洞窟の入り口から見る程度なら、誤魔化せるはずさ。

 最後に戻ってくれば問題ないはずだ。」

「なるほど。

 今日ここに来る時に、帽子や上着を着てくるように言ってたのは、

 そういう理由だったんだな。」

「暑くて大変だった甲斐があるってものだ。

 早速、みんなで泥人形を作ろう。

 そんなに大層なものじゃなくていい。

 その祭壇の飾りに使われてる骨みたいな物も利用しよう。」

そうして子供たちは、洞窟の壁の粘土や泥で身代わり人形を作って、

自分たちが身につけていた帽子や上着を被せて置いた。

それから、祭壇の裏にあった抜け穴に潜って、洞窟の外へ出ていったのだった。


 まんまとお仕置き部屋から脱獄して、

それから子供たちは洞窟の裏の山林で遊び回った。

一頻り遊び終わって、

今は草むらに座って休憩しているところだった。

すると、

子供の一人が山林の向こうを指差して声を上げた。

「あっ、まずいぞ!

 大人が洞窟の中に入っていく。」

「しまった、もうそんな時間か。

 牢屋に近寄って確認されたら、身代わりの泥人形がバレるかもしれない。」

「急いで戻ろう。」

そうして子供たちは、抜け穴を潜ってお仕置き部屋へ戻っていった。


 狭い抜け穴の中で、子供たちは押し合いへし合い。

お仕置き部屋の祭壇の裏まで戻ってきた。

祭壇の裏に身を潜めて、洞窟の中の様子を伺う。

ここからでは洞窟の中の様子は直接見えないが、

松明に照らされた人影が、洞窟の壁に映っているのが見える。

人影から察するに、戻ってきた大人の男が泥人形たちに向かい合っているようだ。

大人の男の話し声が聞こえる。

「よし。

 お前たち、ちゃんと反省してるみたいだな。」

それを聞いて、子供たちは狭い中で顔を見合わせる。

「身代わりの泥人形のこと、バレてないのか?」

「そんな馬鹿な。

 話しかけるくらい近付いたら分かるはずだ。」

「でも、こうして何事もなく話をしてるぞ。」

子供たちは固唾を呑んで様子を伺っている。

大人の男の話は続く。

「ちゃんと反省したみたいだし、

 まだちょっと早いけど、ここから出してやろう。」

松明に照らし出された大人の影が立ち上がった。

すると、それに続いて、

小柄な人影がいくつか立ち上がるのが見えた。

子供たちが仰天して声を上げた。

「おい、あの人影は誰だ?

 動いてるのは大人だけじゃないぞ。」

「分からない。

 洞窟に入ったのは、大人一人だけだったはずなのに。」

「じゃあ、あの動いてる何人もの人影は誰だ?」

正体不明の動く人影を見て、子供たちは動揺している。

子供の一人が、ゴクリと喉を鳴らして応えた。

「そういえば、さっき大人が言っていた。

 このお仕置き部屋は、元は神様を祀る祭壇だったって。

 ひょっとして、あの人影は神様なんじゃないのか。

 神様は物に宿ることもあるそうだから。」

「じゃ何か?

 お前は、俺たちが作った泥人形に神様が乗り移ったって、

 そう言うのか?」

「だって!

 実際に今、人影がいくつも動いてるのが見えるじゃないか。

 あそこには今、大人一人しかいないはずなのに。」

「このままここに隠れてたら、

 泥人形が俺たちと入れ替わっちゃうんじゃないのか。」

「そうしたら、もう家に帰れなくなってしまう。

 僕たちの居場所に、泥人形が取って代わるんだ。」

子供たちは半べそになって、祭壇の裏から我先にと慌てて姿を現した。

泣き声になって声を上げる。

「待って!

 それは偽者だよ!」

「本物の俺たちはここにいるよ!」

「勝手にお仕置き部屋から抜け出してごめんなさい!」

へっぴり腰で祭壇の裏から姿を現した子供たち。

すると、子供たちの目の前には、

泥人形の手足を取って、操り人形のように器用に操っている、

大人の男の姿があったのだった。


 祭壇の裏から子供たちが泣きそうになって現れたのを見て、

泥人形の手足を取って操っていた大人の男は声を上げて笑った。

「あっはっは!

 引っかかったな。

 祭壇の裏に抜け穴があるのも、お前たちがそこから出ていくのも、

 みんなお見通しだったんだよ。」

指を差して笑う大人の男を見て、子供たちはぽかーんと口を開けていた。

それから、恐る恐る確認する。

「もしかして、全部知ってたの?」

その疑問に、大人の男が深く頷いて応える。

「そりゃそうさ。

 実はこの私も、このお仕置き部屋に入れられたことがあるのだからね。

 私がお前たちくらいの年齢の子供だった頃、

 それはそれは悪いいたずらっ子でね。

 村の大人たちを困らせていたものだよ。」

どんな大人も、昔は自分たちと同じ子供だった。

子供たちをお仕置き部屋に連れてきたその大人の男も、

お仕置き部屋に入れられたことがある経験者だったのだ。

抜け穴の存在も知っていて、子供たちを驚かせようとしていたのだった。

真相を知って、子供たちは腰を抜かして洞窟の地面にへたり込んでしまった。

「びっくりさせないでよ。

 てっきり、泥人形に神様が宿って動き出したのかと思った。」

「泥人形が僕たちと入れ替わろうとしてると思って驚いたよ。」

洞窟の地面にへたり込んだ子供たちを見下ろすように、

大人の男が腰に手を当てて叱り飛ばす。

「お前たちがちゃんと反省するように、一芝居打ったんだよ。

 大人の言うことを聞かないと、いつか本当に見捨てられるぞ。

 これに懲りたら、ちゃんと反省しなさい。」

子供たちはいつの間にか正座してお説教を聞いていた。

さすがに懲りたようで、ちょっと神妙な顔になって返事をする。

「はーい。」

「いたずらして、ごめんなさい。」

「ちゃんと反省します。」

そんな子供たちの返事を聞いて、大人の男は満足そうに頷いた。

「よし。

 じゃあ、また後で戻ってくるから。

 それまで大人しく、お仕置き部屋で反省してるんだぞ。」

そしてまた、大人の男は洞窟を去っていった。

子供たちは正座をしたまま、その後姿を見送っていた。

子供の一人が何気なく洞窟の床を見ると、

洞窟の硬い地面の上に、大人の男の足跡が残っている。

その大人の男の足跡は、

泥がべっとりと付いていて、

まるで泥人形が歩いた足跡のように見えたのだった。



終わり。


 子供が大人を欺くように、大人も子供を欺いているという話でした。

お仕置き部屋に入れられた子供たちはその後、

すっかり別人のように良い子になっていたとかいないとか。


お読み頂きありがとうございました。


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