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お仕置き部屋の泥人形

作者: ウォーカー
掲載日:2021/05/31

 山奥の村。

照りつける日差しの下、

子供たちが数人、大人の男に連れられて山林を歩いている。

向かう先は、村の裏山にある古い洞窟。

まもなくして目的の洞窟が見えてきた。

洞窟に入り、か細い松明を照らす。

すると洞窟の中に、鉄格子がはめられた牢屋の様な部屋が姿を現した。


 連れて来られた子供たちは、村で悪名高い悪童たち。

いつもいたずらをしては大人たちに叱られていた。

障子に穴を開けたり、郵便ポストに蛙を入れたり、用水路に絵の具を混ぜたり。

とうとう村の大人たちの堪忍袋の緒が切れて、

今日、その子供たちは、

この洞窟へと連れて来られることになったのだった。

子供たちを連れてきた大人の男が、

洞窟の壁に備え付けられた松明に火を灯し、鉄格子の鍵を開けてから言った。

「この洞窟は昔、村の神様を祀る祭壇だったんだ。

 今でもその祭壇が残っているんだが、

 野生動物が祭壇を荒らさないように、鉄格子をはめて鍵を掛けてある。

 それから、外から鍵を掛けられるのを利用して、

 お前たちのようないたずらっ子を入れるお仕置き部屋としても、

 昔から使われてきた。

 これからお前たちは、このお仕置き部屋に入るんだ。

 お前たちが反省して、ちゃんとごめんなさいって言うまで、

 この牢屋から出してやらないからな。」

大人の男は腰に手を当てて仁王立ちをしている。

しかし、お説教されている当の子供たちは全く堪えていない。

「ちぇっ。

 いたずらくらいで大げさな。」

などと、口を尖らせて悪態をついている。

それを聞いた大人の男は、

そんな子供たちを半ば押し込むように洞窟の牢屋の中へ入れて、

牢に鍵を掛けた。

「私はこれからちょっと席を外すけど、

 この松明が燃え尽きる頃に、様子を見に来るからな。

 それまで大人しく反省してるんだぞ。

 ここは風通しが良いから大丈夫だとは思うが、

 もしも松明が途中で消えてしまったら、大声で人を呼ぶんだぞ。」

そう言い残して、大人の男は洞窟から去っていった。


 大人の男がいなくなったのを確認して、

お仕置き部屋の中の子供たちは頭を合わせて相談を始めた。

「ふぅ。

 うるさい大人がやっといなくなったな。」

「まったく。

 あの程度のいたずらで、こんなに怒らなくてもいいじゃないか。」

「ところで、これからどうする?

 この薄暗いお仕置き部屋の中で反省なんて、俺は嫌だぜ。」

「そこはそれ。

 こんなこともあろうかと、情報収集はしてきたんだ。」

子供の一人がいたずらっぽく笑って言った。

「この洞窟は昔から、

 この村の子供たちのお仕置き部屋として使われてきた。

 今までにたくさんの子供たちが、ここに入れられている。

 実は、このお仕置き部屋には、

 その歴代のいたずらっ子たちが見つけた抜け穴があるらしいんだ。」

「抜け穴?

 この牢屋のような部屋の中にか?」

「そう。

 村のいたずらっ子たちの間で代々受け継がれてきた、

 秘密の抜け穴さ。

 この立板みたいな祭壇の裏にあるらしい。」

「本当か?

 とにかく調べてみよう。」

洞窟の牢屋の壁に立てかけられるように、祭壇が設置されている。

祭壇は大きな立板に飾りを施された作りになっていて、

その立板の裏には、人が入れそうな空間が空いていた。

そこに体を潜り込ませて、ごそごそと弄る。

「・・・あった!」

しばらくて、洞窟の壁に穴が空いているのが見つかった。

その穴は、子供が何とか通り抜けられそうな大きさ。

向こう側から微かに風が吹いていて、外光が差しているのが見えた。

「向こう側から風が吹いている。

 ということは、この穴の先は外に繋がってるんだ。」

「どうやら、これがその抜け穴で間違いないようだな。

 よし、早速こんな牢屋からは脱出しよう。」

喜び勇む子供たちに、抜け穴の話をした子供が声を掛ける。

「みんな、待ってくれ。

 このままみんなで牢屋から出ていったら、大人にバレてしまう。」

呼び止められた子供たちは振り返って咎めるように応える。

「なんだよ、ビビってるのか。」

「この薄暗い洞窟の牢屋に残れって言うのか?

 俺は嫌だぜ。」

「でも大人にバレたら、またここに連れ戻されるだろう。」

「じゃあどうしろって言うんだ。」

「身代わりを用意したら良いのさ。」

「身代わり?」

抜け穴の話をした子供が、洞窟の壁を撫でながら説明する。

「そう。

 この洞窟、地面は固いんだけど、壁はそれほどでもないみたいだ。

 ところどころ、粘土みたいな泥みたいな柔らかい土で出来てる。

 その泥を使って、泥人形を作ったら良い。

 実はこれも、村のいたずらっ子の間で伝わってる話の一つなのさ。」

「泥人形の身代わりか。

 洞窟の中は薄暗いとは言っても、すぐ分かるんじゃないのか。」

「泥人形に細工をすればいい。

 上着や帽子を被せれば、薄暗い洞窟では人がいるように見えるだろう。

 洞窟の入り口から見る程度なら、誤魔化せるはずさ。

 最後に戻ってくれば問題ないはずだ。」

「なるほど。

 今日ここに来る時に、帽子や上着を着てくるように言ってたのは、

 そういう理由だったんだな。」

「暑くて大変だった甲斐があるってものだ。

 早速、みんなで泥人形を作ろう。

 そんなに大層なものじゃなくていい。

 その祭壇の飾りに使われてる骨みたいな物も利用しよう。」

そうして子供たちは、洞窟の壁の粘土や泥で身代わり人形を作って、

自分たちが身につけていた帽子や上着を被せて置いた。

それから、祭壇の裏にあった抜け穴に潜って、洞窟の外へ出ていったのだった。


 まんまとお仕置き部屋から脱獄して、

それから子供たちは洞窟の裏の山林で遊び回った。

一頻り遊び終わって、

今は草むらに座って休憩しているところだった。

すると、

子供の一人が山林の向こうを指差して声を上げた。

「あっ、まずいぞ!

 大人が洞窟の中に入っていく。」

「しまった、もうそんな時間か。

 牢屋に近寄って確認されたら、身代わりの泥人形がバレるかもしれない。」

「急いで戻ろう。」

そうして子供たちは、抜け穴を潜ってお仕置き部屋へ戻っていった。


 狭い抜け穴の中で、子供たちは押し合いへし合い。

お仕置き部屋の祭壇の裏まで戻ってきた。

祭壇の裏に身を潜めて、洞窟の中の様子を伺う。

ここからでは洞窟の中の様子は直接見えないが、

松明に照らされた人影が、洞窟の壁に映っているのが見える。

人影から察するに、戻ってきた大人の男が泥人形たちに向かい合っているようだ。

大人の男の話し声が聞こえる。

「よし。

 お前たち、ちゃんと反省してるみたいだな。」

それを聞いて、子供たちは狭い中で顔を見合わせる。

「身代わりの泥人形のこと、バレてないのか?」

「そんな馬鹿な。

 話しかけるくらい近付いたら分かるはずだ。」

「でも、こうして何事もなく話をしてるぞ。」

子供たちは固唾を呑んで様子を伺っている。

大人の男の話は続く。

「ちゃんと反省したみたいだし、

 まだちょっと早いけど、ここから出してやろう。」

松明に照らし出された大人の影が立ち上がった。

すると、それに続いて、

小柄な人影がいくつか立ち上がるのが見えた。

子供たちが仰天して声を上げた。

「おい、あの人影は誰だ?

 動いてるのは大人だけじゃないぞ。」

「分からない。

 洞窟に入ったのは、大人一人だけだったはずなのに。」

「じゃあ、あの動いてる何人もの人影は誰だ?」

正体不明の動く人影を見て、子供たちは動揺している。

子供の一人が、ゴクリと喉を鳴らして応えた。

「そういえば、さっき大人が言っていた。

 このお仕置き部屋は、元は神様を祀る祭壇だったって。

 ひょっとして、あの人影は神様なんじゃないのか。

 神様は物に宿ることもあるそうだから。」

「じゃ何か?

 お前は、俺たちが作った泥人形に神様が乗り移ったって、

 そう言うのか?」

「だって!

 実際に今、人影がいくつも動いてるのが見えるじゃないか。

 あそこには今、大人一人しかいないはずなのに。」

「このままここに隠れてたら、

 泥人形が俺たちと入れ替わっちゃうんじゃないのか。」

「そうしたら、もう家に帰れなくなってしまう。

 僕たちの居場所に、泥人形が取って代わるんだ。」

子供たちは半べそになって、祭壇の裏から我先にと慌てて姿を現した。

泣き声になって声を上げる。

「待って!

 それは偽者だよ!」

「本物の俺たちはここにいるよ!」

「勝手にお仕置き部屋から抜け出してごめんなさい!」

へっぴり腰で祭壇の裏から姿を現した子供たち。

すると、子供たちの目の前には、

泥人形の手足を取って、操り人形のように器用に操っている、

大人の男の姿があったのだった。


 祭壇の裏から子供たちが泣きそうになって現れたのを見て、

泥人形の手足を取って操っていた大人の男は声を上げて笑った。

「あっはっは!

 引っかかったな。

 祭壇の裏に抜け穴があるのも、お前たちがそこから出ていくのも、

 みんなお見通しだったんだよ。」

指を差して笑う大人の男を見て、子供たちはぽかーんと口を開けていた。

それから、恐る恐る確認する。

「もしかして、全部知ってたの?」

その疑問に、大人の男が深く頷いて応える。

「そりゃそうさ。

 実はこの私も、このお仕置き部屋に入れられたことがあるのだからね。

 私がお前たちくらいの年齢の子供だった頃、

 それはそれは悪いいたずらっ子でね。

 村の大人たちを困らせていたものだよ。」

どんな大人も、昔は自分たちと同じ子供だった。

子供たちをお仕置き部屋に連れてきたその大人の男も、

お仕置き部屋に入れられたことがある経験者だったのだ。

抜け穴の存在も知っていて、子供たちを驚かせようとしていたのだった。

真相を知って、子供たちは腰を抜かして洞窟の地面にへたり込んでしまった。

「びっくりさせないでよ。

 てっきり、泥人形に神様が宿って動き出したのかと思った。」

「泥人形が僕たちと入れ替わろうとしてると思って驚いたよ。」

洞窟の地面にへたり込んだ子供たちを見下ろすように、

大人の男が腰に手を当てて叱り飛ばす。

「お前たちがちゃんと反省するように、一芝居打ったんだよ。

 大人の言うことを聞かないと、いつか本当に見捨てられるぞ。

 これに懲りたら、ちゃんと反省しなさい。」

子供たちはいつの間にか正座してお説教を聞いていた。

さすがに懲りたようで、ちょっと神妙な顔になって返事をする。

「はーい。」

「いたずらして、ごめんなさい。」

「ちゃんと反省します。」

そんな子供たちの返事を聞いて、大人の男は満足そうに頷いた。

「よし。

 じゃあ、また後で戻ってくるから。

 それまで大人しく、お仕置き部屋で反省してるんだぞ。」

そしてまた、大人の男は洞窟を去っていった。

子供たちは正座をしたまま、その後姿を見送っていた。

子供の一人が何気なく洞窟の床を見ると、

洞窟の硬い地面の上に、大人の男の足跡が残っている。

その大人の男の足跡は、

泥がべっとりと付いていて、

まるで泥人形が歩いた足跡のように見えたのだった。



終わり。


 子供が大人を欺くように、大人も子供を欺いているという話でした。

お仕置き部屋に入れられた子供たちはその後、

すっかり別人のように良い子になっていたとかいないとか。


お読み頂きありがとうございました。


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