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5話 ラストマジック

 魔王が一歩踏み出した。


「まだ会話は終わってないだろ」


「もはや話すことはない。異世界の勇者からは何故か記憶を奪うことが出来ぬのでな。興味があっただけだ」


 魔王がくつくつと喉を鳴らす。

 この様子だと過去の勇者達も会話した後に殺しているな。


 俺が許せないのは何の罪悪感もなく他人から略奪していく奴らだ。魔族は、魔王はそうじゃないと思えたというのに……クソッタレ。


 魔王の生き様を俺は否定しない。だがその本性が欲求に身を任せるがままの『虫』の如きモノならば俺は断固として立ち向かわねばならない。それこそが俺自身が持つ本能だからだ。


 俺は右腕の権能で剣を創り出し構えた。


「その小娘を守るために戦う気なのか?ククク。安っぽい信念に身を任せているようだな勇者よ。我との短いやりとりで敵意を無くす程度の脆弱な信念しか持たぬ似非勇者めが。生意気よな」


「やめてくれよ魔王。俺は死んでもいい。だがこの子を死なせたくはない……」


「必要な犠牲だ」


 駄目だ。返答は端的で魔王の意思は固い。その殺意が揺らぐ様子はまるで無く、交渉は出来ないと悟った。


「甘い、甘すぎるぞ勇者。本来の貴様は敵対者に容赦はせず交渉もしない冷酷な殺人鬼だ」


「……」


「腑抜けた原因は…クク……。分かっているぞ。仲間だな。この世界にやってきて道標を無くした貴様は抜け殻同然だった。しかしその心の穴を仲間達が埋めてくれたのだろう?」


 まさかアイツらの記憶を……。


「その結果が中途半端でどっちつかずの欠陥勇者となった訳だ!仲間の死に動揺することもなく、人族の大敵である我にすら簡単に心を許してしまう愚かな男!本当に人間味がないのは貴様の方ではないか!クハハハハ!クハッ!クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


 人間味が失せたのは俺……?

 魔王の高笑いが空洞内を木霊する。俺は虚を突かれたように体が動かなかった。


「臆病者の聖女にガサツで無能な神殿騎士!プライドだけが取り柄の剣聖、そして欠陥勇者のパーティーとはこれまでで一番の喜劇だな!ククク!どいつもコイツも貴様の力を頼りにするばかりで碌なものじゃない!雑魚どもが勇者の足を引っ張ることしか出来ていなかったようだ!クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」


 俺は──。


 そうだ……俺はどうしようもなく薄汚い男だった。頼られていたのではない。本当は俺が仲間を頼っていた。心の支えだったのだ。でもそれに気づかないフリをしていた。アイツらを見下してすらいたんだ……。


 だけど戦闘で頼られるのは当然なんだよ。俺が一番強いんだから。命懸けなんだ、それの何が悪い?


 ああ、無性に腹が立つ。


「仲間を馬鹿にするのはやめろ……」


「ククク。命知らずの馬鹿どもがなんだと?死者の名誉がそんなに大事か?」


 違う!違うんだ!

 アイツらは命知らずな訳じゃなかった。本当は怖かった筈だ。この魔王城に近づくにつれ暴力的に高まる魔力の霧からは本能的な恐怖を皆受けていた。濃密な魔力は毒だ。身体の奥底まで浸透してくるそれは俺達に逃れられない死をイメージさせた。それでもアイツらは引かなかった。勇気を持って立ち向かいここまで来た!


「アイツらは守りたい人々や故郷の為に恐怖を押し隠して立ち向かったんだ……。決して馬鹿ではない!」


 アイツらこそ真人間だ。まともなアイツらとは違って魔王の言う通り人間性を失った俺は欠陥人間なのだろう。


 俺自身がいつの間にか嫌悪する虫ケラになっていた。そんなクズみたいな俺でも欠片だけ残った人間性が仲間を馬鹿にされることだけは許せず激情に掻き立てる。戦いは……避けられそうにない。


「おい。逃げろ」


 だがその前に魔族の少女を逃さなければならないだろう。俺は背後で縮こまる少女に言った。


「え?」


「俺が魔王を止める。だからどこか遠くへ逃げるんだ」


 少女は不安そうに目を泳がせている。


「安心しろ。きっといつか迎えにいくから」


 魔族の敵である勇者なんかが迎えに行っても迷惑か。安心させようとしたが逆効果だったかもしれない。しかし少女は小さく頷くと外へと走り出していった。


「勝てると思っているのか?我を殺さねば貴様も小娘も死に、人族は全て滅びるだろう。だが貴様の力など我の呪言で吹き飛ぶほど脆いものなのだぞ」


 余裕があるのだろう。魔王は少女を追おうとはしない。俺との力の差を考えればそれも当然か。


「さっきは仲間を守ろうとしたから負けた。だがもう仲間はいない。だから、今はお前との戦いだけに意識を切り替える……」


 柄にもなくヒロイックな気分だ。だが仲間達の想いに誓って魔王を倒す、なんて陳腐なセリフを吐くつもりはない。


 覚悟を決めた。腹は据えた。隔絶した力量差なんて今は無視しろ。


 お前を──。


「殺す」



 *



 この魔法をあなたに教えたくない。

 マルタにそう言われて、俺は独自で魔法の勉強をすることにした。もちろん、マルタとの講義をやめはしなかったから空いた時間を見つけて学ぶこととなる。しかし異世界に来て明確な目的を失っていた俺には丁度良い暇つぶしとなっていた。


 今思えばそれはただの逃避に過ぎなかったのかもしれない。旅の途中でも暇さえあれば魔導書やスクロールを広げていた俺をゲレオンはうんざりした表情で見てたし、ガーランドは俺に興味がなかったので仲間たちとの溝は深まっていくばかりだった。


 俺はその状態を放置した。俺の意識にあったのはただ盲目に人々へ害を与える魔族を族滅することだけで馴れ合いなんてするつもりもなかったから、どう思われようと構わなかったのだ。


 しかしマルタはしつこく俺に話しかけてきた。聞いてもいないのに身の上話を語り出すわ、俺が無表情で飯を食ってるだとかいちゃもんつけて料理の何が駄目だったかを聞き出そうするわ……。無表情なのは随分前から味がしなくなっていたからだ。料理の工夫をしたところで何かが変わるわけじゃない。


 それでもマルタは必死だった。俺を見てると故郷に残した弟達を思い出すらしく、それで世話を焼きたくなるのだと言っていた。どう見てもおっさんにしか見えない俺のどこに弟の面影が見えるのやら……。


 アイツが色々なことを話すから俺の頭には知りたくもない情報ばかり入ってしまう。故郷の家族は寒村の木こりで手紙を毎月送っているとか。秘密の趣味は錬金術であるとか。本当は歌姫になりたくて、けど諦めて聖歌隊を志願したのだとか……。そんなの俺にとっては死ぬ程どうでもいいことだ。


 ……。


 ……ああクソ!本当にやりたいことがあるなら何でこんな所にいるんだ!何がアイツの将来を奪った!?俺はアイツの為に何をしてやれた!?


 ……。


 ……いや、分かっているさ。マルタは……生きたかったんだ。


 ……でも。もう、すべて遅すぎる。



 *



「素晴らしい。幾万の魂に匹敵するほどの≪神性≫を感じる……」


「ォグッ……」


 気絶から目覚めると魔王が俺を見下ろしていた。

 俺の体は仰向けに倒れていて、胸には魔族の角と同じような泥の大槍が刺さっている。


 ……ああそうだ。俺は負けたんだった。


「ふむ?略奪に手こずっていると思っていたがまだ死んでなかったのか」


 恐らく死んでいないのは右腕の権能が生命維持の奇跡を起こしているからだろう。


「あの……子は……?」


「あの娘はとっくに殺した」


「……そうか」


 また……守れなかったか。これで俺が戦う理由はもう、存在しない。


「死ね、死ぬべきだ勇者よ。生きている意味もなかろう?速やかにくたばれ」


 魔王が泥の大槍を捻る。ぐちゃぐちゃと体内を掻き回される不快感に俺は血塊を吐いた。


「ぐ、は、ははははは……」


「気が触れたか?」


 はは、は。これでようやく楽になれる。

 もう、戦わなくてもいい。俺はこの世界の人間じゃないのだから人類が魔族に滅ぼされようと関係ない。そもそも人類が招いた種なのだ。


「因果応報だなと思ったんだ……」


 それに、これまで勝手な正義感で他人から奪うばかりだった俺が誰かを救おうだなんて烏滸(おこ)がましいにも程があった。


 だがそれは魔王も同じことだ。


「知ってるか魔王……。魂には霊魂と神魂があるのを……」


「……なんの話だ?」


「さっき……思い出してな……」


 インドだかどっかでは霊魂は心を、そして神魂は命を意味するらしい。


「マルタに……聞いたんだ……。古い昔話で……魂には神様が住んでいるんだって……。それを……この世界の聖書では≪神性≫と……呼んだ」


「……」


「一番魔力消費が少ない魔法があって……≪自爆魔法≫というそれは……魔力を呼水として≪魂の中に眠る力≫を解放する……」


 最も効率良くダメージを与える≪自爆魔法≫……。


「待て貴様」


「俺は……ただ命を代償にするだけの魔法だと思っていた……。ぐっ……」


「貴様……!」




「右腕の≪神性(チート)≫を≪自爆魔法≫の代償にすれば……どうなるんだろうな……?」




 術式は既に発動済みだ。

 俺の右腕が閃光を放ち空洞内を白く染め始める。閃光が空間を照らしていた青い光を押しのけるように白く塗り潰す様はまるで魔族の運命を表しているようだった。


「悪いな魔王……。一族諸共俺と死んでくれ……」


 これはただの八つ当たりだ。正義はどこにも存在しない。まさしく唾棄されるべき報復行為と言えるだろう。俺はどうしようもない人間に成り下がった。だけどそれでも良いと思えてしまったのだ。


 ……これで終わる。


 俺は最後に魔王の悔しがる顔を見てやろうと思い、視線を向けた。するとやはり感情がないのだろうか。魔王の顔は無表情に近く、唇だけ少し動いた。


「む****の*」


 今何を言って──。


 次の瞬間、俺と魔王は極度に肥大化した≪自爆魔法≫の破壊に飲み込まれ、


 この世から存在を失った。


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