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魔術師シエナは流星群とともに  作者: カニカニ
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9.逃走と都市タカヤナ

膝の上で荷袋を広げ、採取した数を確認する。

クウソウ(レアなほうの薬草)が二十束、マホユリの魔力が回復する花びらが四十本分。

合間合間に使ったが、これだけ集まった。


土魔法で地面と接地する際の衝撃を吸収しながら歩き、時々追い風で歩を進めた。

それだけで魔力は一時間で大体70ほど減る。荷袋が重くなれば風魔法で重力を軽減することも検討しなくては。


マホユリの魔力回復量は花びら三枚で10回復。

合成素材は別の素材だと効果が2倍に跳ね上がるが、同じ素材同士だと1.5倍になるので回復量は30になる。

今の錬金レベルでは素材三つ以上だと残念だが不発に終わる。


花びらを六枚ほど舌の上に乗せて手で器を作り、水を生み出し飲み干す。

これが超省略錬金法だ。美味しくはない。


魔物の危険がないときはなるべく市販の回復薬は温存する。回復量は高いがお値段も高いので。

お世話になっている市販の回復薬は国家錬金術師が調合したものが流通している。


人間は活動をすると疲れる。つまり歩いているだけでも体力とは減って行くものなのだ。

体力 57/77

魔力 122/131

気力 90/100 

「回復」集中して体力を全快させておく。


街道にはぽつぽつと人の行き来がある。

休憩しながら気力の充実を図る。朝ご飯は前日に用意したもので手早く済ませたが、お昼ご飯はこの先の村で食べれたらいいな。


足をぷらぷらさせていたら進行方向とは反対側の道から男が近寄ってきた。



「すまない、見守る予定だったが心配になってしまって。お節介かとは思うがこの歩調では間に合わない。途中の村で一泊する事を検討したほうがいい」


驚いた。ケネス先輩がそこにいた。レオン教の信者さん。


上は白の長袖、下は黒のズボンの私服で武器は槍を携え、大きい荷袋を肩に、帯に通した盾を担いでいる。髪はきちんとまとまっていて清潔感があって、大人っぽいと感じた。


「えーっと、どうしてここに?」

しまった。久々の採集に夢中になって後方への警戒が足りていなかった。


「素晴らしい採取の腕だったな。非常に的確で淀みがない。錬金術も嗜んでいるのか?君は素晴らしいな」

「あ、ありがとうございますぅ~。所でどうしてここに?」


めちゃくちゃ見られてた。

探られてると感じるなんて自意識過剰だと思ったほうがいい?

石塀から飛び降りる。外套がふわりと風をはらむ。


「君の担任からのクエストだ。下心じゃない。安心してくれ」

担任、心配性だなあ。ありがとうございます。

でも下心。ありますよねもうひとつ。指を唇に当てて考える。


ケネス先輩、怪しいなあ。

レオンの周辺の素行調査の一つと考えればますます……。

黙って上目で見つめる。


「協力しよう、僕は盾役向きなんだ。一流の才能を鑑定で約束されている。動きは鈍いが前衛はまかせてくれ、レオンにも打たれ強いと褒められるんだ」


体をひねって担いだ盾を見せてくれる。何だか対魔物相手の時、サボって後ろで野次を飛ばすレオンが容易に想像できるね。

しかし、ちょっと待ってください。なーんのためにセルジオさえ置いてきたと思ってるのか。盾が必要ならあいつを盾にする。やり返されるだろうけども。


私の秘密、この人に教えたくない。


困ったなあ。一人で行きたい。

ケネス先輩のステータスを見て思考。んん。ちょっと意地悪しちゃおうかな。


「そうですね。シエナ、頑張って本気出します」

「そうしよう。旅は道連れだ。同行できてうれしいよ」

「目的地は都市タカヤナです。六日目に学校に帰ります。疲れちゃったら無理しないで休んでくださいね」

「ああ、了解した」


「風よ」

集中して両足に風魔法の力を宿す。ふわりと地面から膝の高さに浮く。


村でお昼たべられなかったな。



私は先輩を置き去りにして本気で飛び立った。




全力で飛び、村手前で減速する。魔力消費が激しくて都市まではずっと飛んでいられない。村の雰囲気を見ておきたい。外套のフードを被って足早に村を抜け、しばらく馬車が出ない事を確認。

暫しの間減速して飛び、二つ目の村へ。その後は体力を回復しながら延々と走った。


結局当初の予定通りかあ、街に着く前に野営も経験しておきたかったんだけどな。だからゆっくり進行していたのに。

街手前で風魔法と土魔法を解除する。魔力回復薬を20個近く消費させられた。急いだから魔術が雑だったかもしれない。そのせいで消費が激しかった、反省の余地がある。


フードは下ろしたまま街の門をくぐる。都市タカヤナ。大都市アースに程よく近く、高等教育機関や図書館がある。

魔物レベル帯は四方大雑把にまとめて10~25レベル。

南西にあるヤナの森・東にあるカヤの洞窟が学生に人気がある場所になっている。



宿を取らなければ。

初日はベッドで休もう、せっかく半額券をもらったのだし。

時計台を見上げると時刻は十六時前で日が暮れてきた。ケネス先輩が余程の考えなしでなければ夜の間に追いつかれることはない。


門の先には開けた広場があり、十頭ほど入れそうな馬屋や、派手な格好で何かの勧誘をしている人、武装した若者がベンチに座って人来るのを待っている様子が見える。

通りに入れば直ぐに魔物ドロップ品/買取販売もしくは類似する言葉を押し出した看板を掲げる商店が複数出現する。

店前の板には買取価格が何度も何度も修正して記載されている。へー便利だな。

本当にその値段で買い取ってくれるかどうかは持ち込んでみなければ分からないだろうが。素材を手に入れたら同じ数だけ売って回って、店主の人柄や手腕を見ても面白いかもしれない。



片側の商店をゆっくり眺めながら歩いていくと、一際大きい建物の前にたどり着いた。

外観は石と煉瓦で屋根は茶色、壁は白くアーチの先に人々が吸い込まれていく。

20歳くらいの冒険者の出で立ちの女性の後について中に入ってみればどんな施設か理解できた。ここはクエスト依頼所だ。


壁には大きく縦に記号、横に番号がふってありそれぞれの場所に依頼書がクギで打ち込んである。

人気のないところに近寄り見てみると、上の方が討伐、下の方が採集や私も知ってる魔物の生成品の収集依頼。

上の方は紙も色が付いたりしていて、いかにもな無理難題が並んでいるが報酬も多い。

浮気したら旦那が行方不明になったので探して的なプライベートの依頼もあってちょっと楽しんでしまった。

今は用がないので外に出て、歩いていく。


また開けた場所に出た。少し前から複数の良い匂いが漂って来ていたので期待していた。

屋台と店屋が大小ざっと十軒以上はある。

抑え込んでもおなかが鳴る。ケネス先輩を撒くためお昼を食いはぐれたから。

屋台ご飯で夕食を済ませてしまおう。

昼には遅すぎ、夜には早すぎる。そんな時間なのでどの屋台も並ばずに買えそうだ。



さあさあ、ここで私のスキルが活躍します。

つまり料理スキル持ちで一番ランクが高いのはだーれだっっと。


よく見るために認識阻害付きの外套のフードを持ち上げて背中に落とす。ぐるっと遠目に五軒の屋台を一つずつチェック。ランクD,D,D+,C,とランクB+。

決まりっ!


屋台の隣の長いすに座り、一口。

厚めのパンの切り込みに葉物とソースと肉が挟まっている。

な、なんだこの美味しい食べ物は。お肉が美味しい。あ、魔物の肉だ。

隣の似た商品を売っている屋台より200円も高かったが、納得の味。きっと人気店だろう。



「お嬢ちゃん、お目が高いねえ」

店主が店からのっそり出てきて隣にだらりと座った。暇か?良いんだろうか。


「見慣れない可愛いおのぼりさんがきょろきょろ品定めして。さあて初心者さんがどこの店に行っちまうのかなと思いきやウチに来た。隣の奴は悔しがってるぞ。今日の飲みが超絶楽しみだ」

ハッハッハッとご機嫌に笑っている。


そうですか。

本格的に絡まれた。

早く食べて移動してしまおうとはぐはぐとスピードを上げる。


「おいオッサン二つくれよ。いっつもサボってんじゃねーよ」

「うるせえ」

悪態をつきながら店主は店に戻っていった。助かった。





国営宿はすぐに見つけることが出来た。入口脇に兵士が一人いる。

木造の二階建てで、壁際には数種類の花が咲いている。可愛い。店主の人柄が見える。


若干重めの木製の扉を押し開け、中に入るとすぐ観葉植物の豊富さに気づく。

コツ、コツと靴が木製の床をならす。


右手壁側に軽装の兵士が一人立っていて、こちらの顔をじっと確認してくる。

ぺこりと頭を下げたが、兵士は一つ頷いただけで言葉はなかった。


受付机に近寄るも人はおらず、その奥には無人の低い机と数人掛けの椅子が複数置いてある談話可能な場所が広がっている。

国営宿は料理の提供はしないので、食堂はない。

外の喧騒は遠く、ここは静けさに包まれている。

良い雰囲気だ。

小物や飾りには温かみがあって、誰でも長く滞在したいと思わせるだろう。



受付の机上に”ご用の方はココを押して下さい”という文字を見つけたので押した。


流れ出す軽快なリズム。


異国の音楽。

シャカシャカシャカシャカという音の合間にピッピー!という笛の音。

崩壊する厳粛な空気。

録音された陽気な男性の歌声。


「イヤ~~~~~~っ!!」


奥から女性が走ってくる。

「ごめんなさい。ごめんなさい。うるさくしてごめんなさい。お客様ですか?お客様ですよね?」

顔を真っ赤に染めぺこぺこと謝ってくる。


責任者になった時からこの呼び出し音は固定されていたと必死に説明してくる。

私は陽気でいい音楽だと思いますよ。


「はい、泊まります」

ごめんなさいお姉さん、初日だけ。ここにいたらケネス先輩が来ちゃうから。



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