8.外套と出発
売店に行き支給品申請書を男性に渡すと体力・魔力回復薬と国営宿泊施設半額券(王国発行)を引き換えに貰った。申請日数は七日だから七個ずつ。全然足りないけど有り難く頂いておく。
国は際限なく出現する魔物や不安定な隣国に日々対抗するべく、才能にあぶれた若者達に戦闘職への就職を強く推奨している。国営宿は安全性を売りにしていて、年齢が若いほど安く泊まることができる。
10代までは一泊1000円。20代は5000円、30代以上は10000円。食事は付かないことが多い。
民間の宿は最低ランクで一泊2000~3000円が平均らしいので制度にあやかってぜひ国営宿に泊まりたい。
国営宿に泊まるには身分証明書(学生証も可)が必要で半額券をいただいたので実質500円で宿泊できる。
円というのはこの国の通貨の呼び名である。
部屋に帰ると一人の女の子が品のある深藍色の外套をまとって全身鏡の前でくるくると試着を楽しんでいた。
自分の部屋でアメリア以外であろうはずがないので、この女の子はアメリアのはずだが、顔を見てもアメリアだと認識できない。
これが外套の認識阻害の魔法の効果か。買ってきた荷物を降ろして呼びかける。
「ただいま~」
「あっシエナお帰り。ごめん!すっごく素敵だから着ちゃった。オードリー先生がお貸しくださったんでしょ?」
「他の子にはナイショにしてくれたら許してあげる。ねえちょっと外套のフード取ってみてよ」
「フード?」
女の子の手がフードを上げると、アメリアが出てきた。なるほど。
夕食時。女子寮の食堂で明日の朝早く旅立つことを話すとさみしげな顔をされてしまったので、就寝前に枕を持ってアメリアのベッドにもぐりこんだ。
「セルジオと仲良くするのよ。喧嘩して一人になるんじゃないわよ」
「大丈夫。一週間だし……」
一つのベッドに二人で寝転び、静けさの中でぼそぼそと言葉を交わす。
「飛び切りの美形見つけたら教えてね」
「うん……」
「お土産買ってきてもいいのよ」
「うん……」
目を開ける。夜明け前。
巨大蟹に挟まれる夢を見た。
アメリアの両足が私の足を締め上げていた。
そっと両足を抜き出し、洗面台へ行く。制服に着替えて髪をとかし、何度もやり直して後頭部の高い所でまとめて毛先を垂らす。
早朝の寒さに深藍色の外套をまとって全身鏡で整える。支給品や学生証他の入った荷袋を音が鳴らない様そうっと拾い上げる。
もうすぐ夜が明ける。
「行ってきます」
朝日の中を歩く。桃の色の花の木は今日も美しい。散り始めている今が一等好きだ。一週間後に戻ってきた時には全て散っているだろうから、今この風景を独り占めできることを楽しもう。天気は良くて白みがかったぼんやりとした青の空。風が気持ちいい。この髪型にしてよかった。
なぜこの王国の六つの大都市にはそれぞれ属性が宿っているのか。
教会が語る神話曰く、神は大地に降り立ち自らの力を六つに分け与えた。中央の無属性と周囲の六属性だ。
それぞれの力が集まるところに人は引き寄せられ、都市ができた。
"神は始まりの地において、全てを見通した"という言い回しは神を褒め称える言葉のいずれにも多用され、鑑定スキルは尊い教会の象徴とされ能力を持つ者は広く"保護"される。
聖地は始まりの地、つまり王都にあり信仰を広く広げている。以上子供の頃に誰もが習う教会の教えです。
私が生まれ、今も両親が平和に暮らしている農村、それから今通っている学校、どちらもアース領にある。
皆略して土領と呼ぶ。土属性だから。
土領の特徴として主に挙がるのは農地の数。水よりも風よりも収穫した作物の質が高く、豊作が約束されている。
しかし美食として有名なのは水領であり、土領の人々は素朴な素材料理を楽しむ傾向にあるらしい。
他の特徴としては地下ダンジョン生成数がダントツで多いと有名だ。
さあ、それでは街道をトコトコと歩いていくとします。
意識を草花にまで広げる。
私は錬金術の正式な手ほどきを受けたことがない。村には錬金術師はいなかったし。
"ステータス閲覧"でよさげな草花を短剣で採取、効果が高い部位同士を魔力を注ぎながら潰し、混ぜ、性能を確認して飲む。それでお手製回復薬ができる。乾燥させておけば保存用にもなる。家畜の餌のようだ。
錬金術師に見られたら憤死されそうだとは思っている。
味は非常にフレッシュな草の味。素材が草花だから当たり前か。
雑の極みで錬金している所為か、入手経験値効率はあまりよくない。とにかく数をこなして一つランクを上げたい。
ランクが上がれば味にも何かしらの希望が見えてくるかもしれないと期待。
最終的には才能ありのランクCまで伸ばすことが出来るのでいつか勉強してみたいが、錬金はあくまで魔法回復薬を買う資金を節約するための魔力の補充方法にすぎない。
野外では馴染みの二つの素材を口に含み魔力で作った水で流し込むという最低の超省略錬金法で済ましている。
経験値が 1 増えるのだから、神もそれで良いと言ってくださっている。きっと。
整備が行き届いていている石畳の道路は王国中どこに行っても見ることができる。
私の生まれた村の周辺も狭いが似たように綺麗に整えられていた。
道路の新設計画が役人に承認されると、魔術師達の手によって石畳の道路が迅速に開通される。魔法で強度も付与すれば滅多に破壊されることもない。
この街道は横幅は広く十歩ほどある。片側には柵が長く続いていて果樹の木が等間隔に続いている。
反対側は草原が広がり、遠く北アース山の山並みがくっきりと見える。
草原側に降り街道を外れ過ぎないようにしながら、魔力を含んだ花を探しながらうろうろと摘んで歩いていく。
草むらの高さは深くて膝下が埋もれるくらいで視界はとても良好。
魔物は全く問題のないレベルで、見つけ次第急所に魔法を飛ばして処理する。
昔から魔物を倒すと気力が回復する体質なのだ。
ヤソウ 体力5
基本の薬草
クウソウ 体力15
草。青々としていて元気が出そう。
マホユリ 魔力10
上向きに咲き、白い花弁が三枚。一枚の大きさは親指の爪ほどの大きさ。この花の花弁に魔力が宿っている。
このあたりで役に立つ草花はこの三つだが、発見率はヤソウ>マホユリ>クウソウという感じで主にマホユリの花びらを。時々クウソウを回収していく。
外套を着ていて丁度いいくらいの気温だ。
ちょっと休憩しよう。
道沿いに広がる石塀に腰掛けて足を休ませる。
朝早く出発して、今は十一時を過ぎただろうか?一つ目の村はもうすぐだ。