5.レオンのステータス
意識が飛んだのは一瞬だろうか?床に横たわっていて、レオンの腕に上体を抱えられていた。
「悪い。痛かったか」
ぼうっと青空に桃色の花びらが舞っているのを数秒眺めていれば、手が伸びてきて額の辺りをそっと撫でられる。視界が塞がれたので目を閉じる。
また負けた。総合経験値も入らなかったし。
今までレオンに一度も勝てたこと、ないけど。
「癒せ」
丁寧に回復魔法を施され、体力も全快した。状態異常もないので頭を撫でる手を掴んで横にどけ、起き上がろうとしたら肩を軽く押されて元の体勢に戻されてしまった。
「もう大丈夫だよ?起きる」
「まだ安心できない」
「はぁ」
仕方がないからもう少しだけ。
駆け寄る足音がして教室に迎えに来た男がレオンの後ろに立った。
驚愕している様子で全身がぷるぷるしている。
「す、凄かった。一年がこれほどお前と戦えるとは」
「結構やるだろ?俺の幼馴染なんだ」
「あ、ああ……君大丈夫か?回復は?お前の村は神に祝福されているのか?」
「いやいい。俺は天才なだけで、彼女は頭がおかしいだけだよ」
言い草。
腕を上げて手の甲を抓ってやる。静かに笑う振動が伝わってくる。
「あの、レオン様お久しぶりですぅ」
アメリアとセルジオが観戦席から降りてきた。
「ああ、久しぶり、元気にしてたか?セルジオも背、伸びたな」
「貴方の方が伸びてるじゃないですか。いや、やはり強いですね」
「レオン様~かっこいいです~凄いです~」
囲まれて落ち着かないので強引に上体を起こせば今度は妨害されずに済んだ。目の前に手を差し出してくれたのでありがたくつかまる。
"ステータス閲覧"が自動で相手の情報を展開する。ふんふん。
良い人だなこの方。ケネス先輩。憶えた。
しかしアメリアの豹変ぶりが相変わらず面白い。
そもそも少女趣味の彼女。ギフトスキルも戦闘向けではなく、魔法の才も二流の私よりも二段下がる。つまり、一般人。そんな彼女がこのむさ苦しい学校になぜ入学したかといえば、一番の理由はレオンの追っかけであり、仲の良い私とセルジオがこちらへ決めたことが決定打になったと聞いた。
追っかけで入学する意味がさっぱり理解できないが、本気で恋してるわけじゃないと時々言い張っている。
雑誌に掲載されている美形を追いかけるようなものだと以前熱弁していた。
アメリアは幼少の頃はほぼレオンと関りがなかった。
初等教育学校が始まって他村の女子達が「レオンくんかっこいい」と信者になって行くのに同調した形だ。レオンも本心はともかく人を積極的には拒絶しないので信者が減ることはあまりない。
セルジオが三つ編みのしっぽを持ち上げ、背中の埃を叩いてくれる。ありがと。
私が知ってる隣の家の小さいレオンくんは冒険本が好きで、静かにお家に居たい子。
一度も癇癪を起こすのを見たことがない。
でも、8歳でレオンが鑑定を受けてその才能が周知されてから、レオンは人目を集めずにはいられなくなってしまった。
その結果良くない事件もあったし、王国の囲い込みも始まってる。
レオンはそんなにすごい人なのかと言われればいずれ傑物になるとはっきり言える。
レオン・オルグレン(14)男 レベル13(8440/11669)
属性:火
状態異常:なし
体力 123/163
魔力 107/147
気力 83/100
▶ステータス
体力 163 成長率A+
魔力 148 成長率S
攻撃力 88+20 成長率S
防御力 81+25 成長率A+
魔法攻撃力 67+3 成長率A+
魔法防御力 62+20 成長率A
器用 62 成長率A
俊敏 59 成長率A
▶装備
木の剣 攻撃力20 火属性(残り23秒)
制服 防御20・魔法防御20
靴 防御5
ピアス 魔法攻撃力3
▶ギフト
アクティブスキル
強打(武器攻撃4倍) 消費魔力10 ランクS
受け流し 消費魔力5 ランクA
パッシブスキル
不屈(体力0で復活1日1回) ランクS
状態異常耐性 ランクA
統率(配下ステータスUP) ランクA
▶スキル
武器
素手E 最終A 普通(0/10000)
棍棒E 最終A+ 晩熟(2000/11000)
短剣E 最終B 普通(2000/10000)
長剣E+ 最終S 早熟(3200/18000)
槍E+ 最終B+ 早熟(800/18000)
弓E 最終A 早熟(200/9000)
魔法
火魔法D 最終S 晩熟 (100/44000)
水魔法E 最終C 晩熟 (0/11000)
風魔法E+ 最終A 普通 (300/20000)
土魔法E 最終A 普通 (0/10000)
光魔法D 最終S 普通 (300/40000)
闇魔法E 最終B+ 早熟 (0/10000)
癒魔法D 最終A 早熟 (800/40000)
無魔法E 最終B+ 普通 (0/10000)
技巧
持久D 最終A 晩熟(0/5000)
反射D 最終A+ 早熟(200/3000)
読書D 最終A 晩熟(3900/5000)
神よ貴方は彼を一生戦わせる為に創造なされたんですか?と問いただしたくなる。
国が絶対に流出したくない人材だろう。私も13年間レオン以上の素質を持つ人を見たことがない。
一年離れていて今のレオンはどう変わったか知らないけれど、9歳からの初等学校が始まってもレオンは誰よりやる気がなくて課題は最低限しかこなさなかった。
兵器として完成した先の苦悩も彼の性格からして理解できる。
自分の一歩が常人達の十歩になると理解して手を抜いている臆病なありさまを私は感じていた。
誰にも言った事はないが(多分)自分を最強に育てよう!と阿呆の様な人生目標を掲げる私からしてみれば繊細に過ぎる。
まあ、皆好きに生きたらいいんじゃないかな!やる気を出すも出さないも本人次第。
王国民は誰しもがその人の持つ最良の才能を鑑定される機会を三度無料で与えられる。
私は才能があってもやる気がない人に頑張れと言わないし、才能がない人に無駄だよって言わない事にしている。なるべく。
私が他人に細かい口を出す時間も余裕も存在しないのです。
皆好きに生きよう!一人で考えてうんうんと頷いていたら全員に注目されていた。
なんでもないよ!
レオンがケネス先輩に向き合う。
「付き合わせて悪かったな。今日は昔の仲間で交流することにするよ」
セルジオの肩に腕を回し、笑顔を浮かべてはいるが遠回しにケネス先輩に帰寮を促している。
「あ、ああ……ではまた明日」
「じゃあな」
ケネス先輩は名残惜しそうに足取り重く、恐らく男子寮の方へ去っていく。
腕を剥がしながらセルジオが言う。
「すごく身なりがよい方ですね。貴族ですか」
「どうだったかな。覚えてない」
「レオン様~あのお方は新しいお友達なんですか?」とアメリア。
「珍しいタイプと仲良くなさってるんですね」とセルジオ。私もそう思った。
「奴をどう思った?シエナ」
後ろ姿を見つめての質問。
メッセンジャーとして送ってきた理由はそれか。
「シエナの“勘”で教えてくれ」
レオンは私が6歳の頃からスキルで情報を抜き取ってうかつに発言してしまう事を勘が良いと時々言うが、いかさましてるだけなのよね。
"ステータス閲覧"にはまだ知れる情報がある。
ちょっと自分でもどうかと思うほどえげつなくて探偵も諜報員も要らずなんです。
普段は知りたくないので身近な人ほど詳細は見ない。絶対に。
だけれども、実は幼馴染の周りに急に沸いた人間に興味を抱いたので確認した。
身長体重・職業・所持金・所持アイテム・装備・出生地・両親の名前・両親の職業などから。
ごめんなさい初体験・交際履歴・経験人数・結婚履歴・犯罪歴・捕まった回数なんかもあって、他にも貯金・利き腕・肉体の弱点・名乗った偽名・走った距離・泣いた回数・笑った回数・髪の毛の本数・好みの傾向・職業適性などなど無限に情報が得られてしまうのだ。
流石に相手の頭の中の思考は読めないですがモンスター相手ではこの弱点攻撃が本当に役に立つ。
話を戻そう。ケネス先輩をどう思うかという問いかけだ。
この王国は王都以外に六つ大都市があり、それぞれ六つの属性の特徴を示していて、それぞれに関わりのある名を冠した騎士団が存在する。勿論、最大最強と誰もが知っているのは中央の王立騎士団だ。
ケネス先輩は出生地が"土の大都市アース"でご両親も現在都市アースにある騎士団で軍務に就いていると情報を読み取った。
特殊な事情がない限り、わざわざ大都市から離れたこの町で学ぶのは不自然でしょう。
つまり……レオンに合わせて入学させたのか。
「ケネス先輩は……うん、怪しいかなって思うかも。でも悪い人じゃないよ」
監視員だろうが、唯の勘違いだろうが、正直立派なレオン信者に成長した様に見えたけれども。
「そんな気はしてた。素っ気なくしても涙目でしつこいから罪悪感湧くよ。息苦しいが、あいつも親か誰かから命じられているんだろう。ところで、いつ名前知ったんだ?」
「ケネス先輩の?」
「そう、俺は絶対に教えてない」
そうだっけ?
「レオンが二人とお話してるときに教えてもらったよ」
にっこり。嘘だけど。