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魔術師シエナは流星群とともに  作者: カニカニ
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3.一年ぶりの再会

桃色の花びらを満開に咲かせた木々の間をひたすら走る。

散策して部屋に戻ったら同室の女子に置いて行かれた後だった。

「ひどいよぉ……」

最後に見た時計は教室の集合時間まで余裕はない。

風魔法で追い風を起こして走れば間に合うだろうとそうしている訳である。

協調性が余り無いのは認めているが、初日からクラスメイトに冷たい目で見られたくはない。

女子寮との敷地の境目らしき所を過ぎて数分。守衛所が見えてきた。学生服の生徒もちらほら同じ方へ向かっている。


「薄情者のシエナちゃん」


三歩進んで立ち止まる。男の声。振り返る。一足先に進学した幼馴染の声。

桃色の木の合間から男が一歩ずつゆっくり歩いてくる。


「一年も会えなかった。推薦受けに来た時も目礼だけ、授業中にさっさと帰るし。……シエナがいなくて寂しかったよ」

アッシュブロンドに緑の瞳のややたれ目の、影のある優しい顔立ちの美形で、才能も相まってどこでも女子が放っておかない男。

武器と魔法を使うようになってからは一度も勝てない男。


「ほら」

腕を広げて待っているのでさっと抱擁して離れる。

成長期に一年見ないと違和感がすごくある。背、伸びたね。


「レオン。新しいハーレムに囲まれて毎日忙しかったんじゃない?」

「心配しないで。シエナぐらいイキがいいのがいなくて退屈だったよ」

「ちょっとツラかしてよ」

「口悪い。遅刻したら困るんじゃないか?シエナ」

校舎屋外の大時計を仰ぐレオン。負けた。


私が知りうる人々の中で最も才能があるのに、昔からやる気がないというか、争い事を好まない。

その割に勝負事には全戦全勝するんだけど。

既に国からもその武の才に目をつけられているんだろうに本人は何処吹く風。


「案内するよ」

手でも繋ごうというのか、腕を差し出してくるが女子の友達は欲しいので。背中側に回りこんで押して促す。


「早く連れてってよ」

ぐいぐい押しても動かない。


「シエナ、無事でよかった」

うん。




なんとか教室にたどりついた。

ざわめきが廊下にまで広がっていてこの教室が一等騒がしい気がする。間にあって本当に良かった。


教室の入口を開けて潜れば一段と騒がしく、見知らぬ大柄の男子達が奇声をあげ魔力をちらつかせて張り合っている。珍獣の檻に放り込まれた気分ですね。

初等教育学校において男子トップは長らくレオンだったし、セルジオも張りはあるが下品な大声を上げる人じゃないから。

場所が違えば同年代の男子という生き物はこれほど攻撃的なのかと新鮮な気持ちを抱いた。

通路塞がないでほしいなー。と弱々しく上目で見つめれば一人一人と目が合って道を開けてくれたので通らせていただく。


人の間を縫って同室の子を探す。彼女は赤みがかった金髪でいつも耳の高さで上半分だけ結んでいる。

見知った女子と黒髪の男子が隣り合って座っているのを発見して非難の言葉を言う。


「アメリア酷いよ~置いていくなんて」

茶色の瞳がゆっくりとこちらを見る目つきがヤバい。あ、怒られる。

「酷いのはアンタよ!あんた目覚ましが鳴る前に止めないまま出てったでしょうるっさいのよ!!」

怒られた。アメリアは寝汚いからマジ切れだこれ。

「部屋入ったら居ないし!」

「ごめん。ちょっと探索に……」

「魔物でも探してたんでしょう、この戦闘狂が!」

怒られた。

「ごめんって~」


「間に合ったことを褒めてあげます。友人として初日から恥をかかされたくないですから」

アメリアの左の黒髪から嫌味が飛んでくるのを一睨みして、ぐいぐい体で押して右側に座らせてもらう。

「詰めて詰めて」

「もう、何なのよセルジオの横座んなさいよ。しょうがないわね」

四人掛けの机は横長で固定されていて、左側は不在。

指示もないしどこに座ってもいい様に見える。右端にいた二人に奥に行ってもらって入れてもらう。

「一昨日の事まだ根に持ってるんですか?シエナ。”睡眠”が上手くハマりましたしね」

「別に根に持ってないよ。参考になったからまた模擬戦しようね」

「喜んで」


セルジオ。黒髪にアンバーの瞳。気位の高い愛玩動物を思わせる顔つき。

商家の息子なのにこちらの道を選ぶのか?と問うてみたが本人曰く必要な勉強はしているし、複数の店を持つがゆえにあちこち飛び回り武力も必須になるので行きます。と同じ学校へ行くことになった。

対人戦闘授業が始まり、レベル差を持ってゴリ押し戦法で相手を下してきた私に状態異常魔法というからめ手を初めて食らわせた張本人である。が、ちなみにセルジオもあの男には一度も勝てていない。


「先生来たわよ」

生徒の制服と共通点のある式典用の正式な服を着た男性が教室前方横の扉から入室してくる。

担任の先生はどれ程の能力を持っているんだろう。

「おい、静かにしろ~」

首周りをなんども撫でさすっていてなんだかしっくりこない様だ。普段は緩そうな姿が想像できる。

教室のざわめきは収まらない。「結構若くない?」33歳だよ。「強そうに見えないな」レベル45あるけどね。

魔法レベルはさして高くないけど、武器と技巧スキルはよく育ってる。物理攻撃主体の中衛職?それから……。


「出欠とるぞ~元気よく挨拶しろ~第一印象大事だぞ~」

担任が生徒一人一人の名前を読み上げていく。生徒は立ち上がって返事をする。

緊張しすぎてる子と一言会話したり、不良ぶってる子につっこんでみたり、性格的には良い先生みたいでクラスは和やかだ。担任は会話中もちょいちょい出欠簿に書き付けてる。


「シエナ・ロス」

私の順番。

「はい」

立ち上がって視線を交わす。何度か頷く担任。

「あのレオンと同じ村の出身の一人か。あの村ってなんかあんのか?」

「なんかって何ですか……」

「期待してるぞ~」


期待されなくても私は奴と違って頑張る子です。

とりあえずこのクラスでは現状一番レベルが高いみたいだ。頑張った甲斐がある。

それから、"ステータス閲覧"で分かる担任の職業は、教会所属の学校教師。ランクCの鑑定持ち。




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