最後ぉぉ!
「パパぁ!行っちゃうの?」
「うーん、地域の消防団の旅行なんだよー。日が沈む時間には、お母さんが何時もの場所に迎えに行くから、朝はお婆ちゃんが送って行くって、明日の夜は戻ってくるから、ちょっと遅くなるけど待っててね」
くすんくすん……、泣き出す俺の『婚約者』、ピンクの人魚ちゃん……、まだ子供なので、日中は人魚として海で過ごし、夜は人間の姿になり俺と一緒に過ごしている。ハーフハーフな彼女。
俺のテヅルモヅルもハーフハーフ……。彼女による朝のほっぺにチュッ♡で消えて、夜になればウネウネと伸びてくる。
「『ありす』もついてくぅー。さみしい」
彼女を迎えに行ったり送ったりをするのに、中古の軽四を慌てて購入した俺。その助手席に座り、足をプラプラさせている。今その場所に向かっている道中なのだ。
ちなみに彼女の名前は、俺の母さんが付けたのは言うまでもない。家に連れて帰った途端!
「良くやったわ!お母さん女の子欲しかったのぉぉ、可愛い、ああん可愛い」
「おお!おめようやった!育てるのがいっちゃんええ!婆ちゃんもそうだっただな!」
はい?爺ちゃん……、これは遺伝なのか。そういや母さんと親父も一回り違う。そしてその夜は、俺はそっちのけだったのは言うまでもない。やがてガヤガヤどやどやと、親父と爺ちゃん、酔っ払い達が、宴会を早めに切り上げ戻ってきた……。
「ふぬぉぉぉ!かわええー!」
「え、とぉ、大人になるまで、夜だけ人間だけど……、よろしくおねがいします」
取り敢えず母さんの手持ちの中から、若めの一着を借り着した彼女。母さんは大張り切りで、有給を使って明日、山向こうの少しばかり大きい町にある『ファッションショップ、あいらんどコミニュティ』に行ってくる!と言い出している。
「可愛いのいっぱい!買ってくるからね。ありすちゃん!」
ふぉぉ!ありすかよ。母さんマニアなのは知ってたけど……、そうかそうなるのか、やっぱり……俺は少しばかり磯辺命名『まりん』ちゃんと、砂浜田命名『富士子』ちゅぁーんが羨ましくなった、
その夜主役であったはずの俺は、そっちのけだった……そっちのけだったのだ。
☆☆☆☆☆
ぷぅと膨れて、さくらんぼの唇を尖らせ文句を言っている。くう……可愛い。俺も行きたくないんだけどな……。
そう、ロリ認定されてしまった俺。翌日職場に行くと、女性チームから糸目でヒソヒソされてしまったのは、仕方ない事だ。うん……、まさか俺もと思った。
「ねぇ!浮気てのしないでよね。ね、ね、ありす大きくなるの待っててよね、ね」
「はい?浮気なんて何で知ってるの?誰に聞いた?」
じっと黙っていたありすが身をこちらに向けて話してくる。誰だよ教えたの……。
「お父さんが、消防の旅行は、綺麗な大人のお姉さんがいるお店に行くって!ね、行かないでね、ね!」
あー、親父何教えてんの、去年迄は上のオッサン連中に連れ出されて行ってたけどさ、今年からは行かないよ。
「行かない行かない、行けば身体中に、テヅルモヅルが生えるかもしれないもんね」
「身体だとお洋服来たらわかんないから、お顔に生える様にするもん!約束よパパ♡、夜電話してね、ね!ありす起きて待ってる」
「起きて待ってるって、どっか行くんじゃなかった?」
「お爺ちゃんが皆で、隣の隣の町の大っきなお風呂屋さんに行こうって、船で行ったらすぐだって、ありす行ったこと無いから、お風呂に滑り台てのがあるって、お婆ちゃんが教えてくれた」
……、爺ちゃん『健康パラダイス、湯の国』に行くのかよ。俺も消防団の旅行よりそっちのがいいなー、帰ってきたら、二人で行こうかな。
「寂しいな、さみしいな、パパの髪のテヅルモヅルちゃん、触って寝るのに……一人でパパのベッドで寝るのさみしいの」
「んー、婆ちゃんか、お母さんと寝たら?」
しょんぼりするありすに話してみる。もうそろそろ岩場に着く。少しばかりスピードを緩めた。時計を見ると、集合時間にはまだ余裕がある。
「うーん、ありす別のお布団やだ」
「そっか、じゃぁ頑張ってお留守番しててね」
少しばかりつれないかなと思いつつ、話した。お土産買ってくるからねと言えば嬉しそうに笑ってくれる。今朝のほっぺにチュッはまだなので、頭のテヅルモヅルがウネウネ、ウネウネとしていた。
何時もの防波堤の駐車スペースに着く。ウネウネウネウネ動いているそれに手を触れてくるありす。
「そいえば、まりんちゃんと、ふじこちゃんのパパ達も一緒なの?」
「うん、こっちに戻ってきたから、消防団に入ってるしね」
ありすは俺の事を『パパ』と呼んでいる。まぁ……いいけどね。後5年もすれば彼女は18才になるのだと。人魚のままだと一年に1歳年は取らないが、俺に抱き止められ、あの夜月が中天にかかった頃、仕来り通りにプロポーズして……
磯辺と砂浜田の彼女達は人間となり、身体の青藍もムスコがハゲナマコも元に戻り……。俺はなにせ人魚といえども、あどけないお子様だったから、ハーフハーフな事になってしまっている。しかも!
「18になる迄、絶対に!手!出すなや!ほっぺにチュッでお終いやで、おま……わかっとるやろな……人魚の子供に手出せば……どうなるのかを」
婆ちゃんがそう脅してきた。
「じゃぁ何で釣れるの?何かおかしい……俺ロリでは無いし……出さねえけど」
「それは心が惹きおうたのやな、仕方ない、それでや、手出せば……」
低い声でヒソヒソと話してくる。ゴクリと息を飲んだ。
「出せば?」
「『マン十島』が噴火するんや、そして海面上昇をし……日本列島が沈むと言い伝えられておる」
え……、日本列島消滅!眉唾ものかもしれないけれど……試す勇気は俺には無かった。
「パパ、ほっぺにチュッ」
ありすがほっぺにさくらんぼの唇を寄せて来た。可愛い!可愛いなぁ……ああ、時間よ速く進め。頼むから、ほっぺからの卒業は……
まだまだ先の事なのだ。そして最早、俺の分身のような存在のテヅルモヅルも……
まだまだ俺の頭でウネウネ、ウネウネと動く日々がこの先も続くのであーる。
ただし、夜だけだけど!チュッが無い日だけだけど!まぁ……帽子被ればいいや。
お、わ、り♡
お読み頂きありがとうございました。