よ!よ四!
満月祭りは、女人禁制なのだ、古来よりの仕来りを今も尚、時代錯誤だと言われつつも守っている。小さな港から、船を持っている者はそれで、観光に使っているポンポン船に乗る者はそれで、海上で行う祭りなのだ。とは言っても俺は参加したことがない。
親父に聞くと、満月の夜に、漁師達が沖合いにある『マン十島』近くの場所に網を入れ引き揚げてから、船の上でどんちゃん騒ぎをするだけって言ってるけど……。ちなみにポンポン船のオッサン達はそれを眺めて飲むのは参加するという。一体何採れるんだろ、そしてなんか怪しいんだよな。
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「でなんかおかしい、紋付袴って、何だよ……そして俺の家の船に、砂浜田と磯辺も一緒?船あるだろ?」
「一軒にまとめてくれってさ!俺の家は網入れるし、砂浜田の家もそうだろ?ご禁制の漁場だもんな、親父張り切っちゃってさ」
「そうそう、俺の家も漁師で食っている、そうでないのは大海の家だけ、おじいちゃんが孫達の晴れの日にと、御祝儀代わりに快く船を出してくれた」
差し入れの神酒を早々に、グビグビやっているじいちゃん。酒は百薬の長とか、養老の水とか言い切るじいちゃんは、それには滅法強い男なのだ。
「何採れるんだろ?教えて貰ったことない、お前ら知ってんの?」
俺は同じく紋付袴の二人に聞いたが、それは知らへんなと顔を見合わせていた。煌々と証明で明るいポンポン船、居合わせている漁船も、イカ釣りライトで黒の海原を照らしている。
ドドン、ドンドン!と太鼓の音が響いた。ポンポン船に乗っている神官のおっさんが始めた様子。
「んあ!ついたぞ!うぃー。祝詞が終われば……おまたちの出番、ほれこれ持てや、いや!ここ数年、ひとりか、いない祭りだった。今宵はいいのぉ、三人も!若人が……、しかもワシの孫!生きてて良かったうぃ」
ニコニコとしながら、真新しい竹の釣り竿を手渡してきた。釣り糸がくるくる巻き付けてある。先端に雫型の鉛の重り。針は無い?!無いぞ?重りだけ?
かしこみー、かしこみーと声、パンパン!と柏手を打つ音。ドンドンドドドン!太鼓の音。そっちを神妙になりつつ見ている。御神酒をドボドボ海に注いでいた。
小さい盃に新しい御神酒を開けると、少しずつ入れた爺ちゃん、飲めと言われたので飲んだ。釣り竿を渡された事からすると、何か釣り上げるんだな……始める様に声がかかった。
「……、そういえば婆ちゃんから聞いたけど、爺ちゃんは試練を乗り越えたんだよな。婆ちゃんと……して祟りが消えたって聞いたけど、何したの?それで俺達何するの?」
取り敢えず3ヶ所に別れて、とぽんと重りを投げ入れた。喋るなと言われてないので取り敢えず、全てを知っている爺ちゃんに聞いてみた。
「んあ、珍しいの釣れ、どんどん釣りあげろ、そのうち本命が来る!本命が来たら!跳ねる、船に近づいてくるから……捕まえろ!」
爺ちゃんがそう言った時、うおお!変なの釣れた!と磯辺が!透明なそれを見て爺ちゃんが『サルパ』だ!教えてくれる。
「ぶええ!何これ!リーゼント魚!?」
「ミツクリザメじゃぞ!」
砂浜田……ちょっと怖い……。ぐい!と当たりが来たので俺も竿を上げたら……ウギヤァァ!何このゲジゲジみたいなの!俺の頭のテヅルモヅルもうねってるし!
「爺ちゃん!爺ちゃんー気持ち悪い」
「おおおぅ!流石我が孫!ポンペイワームじゃ!」
ヒェェェ!こんなのばっか釣れたらどうするのだ……。見た事無いというか、こんな針無し、しかも届いて無いぞ!糸……絶対釣れない深海生物ばっかじゃん。俺達が珍妙なるものを釣り上げる度に、太鼓の音が響く。おおお!と歓声が上がる。
そして……『本命』が来たー!って?何それ磯辺……ファンタジー?!マジカルかよ!
「おえ?ええええー!お爺ちゃん!どどうするの」
「来たー!上物だぞぉ!ぐいっと竿を引き寄せてみろ」
太鼓が大当たりと言わんばかりに打ち鳴らされる。俺も砂浜田もあ然とそれを眺める。
「こっちきたー!捕まえる?捕まえる?落としたらどうなるの!」
「落とすな!抱き止めろ!落とせば泡になる!抱き止めたらラッキーだぞぉ!」
ウキウキ声の爺ちゃん。自分の釣り竿など、存在を忘れ果てている俺達。
「ラララらっきー?おおお!来たー!ほぉぉぉ!」
磯辺は満月を背負い飛び込んで来た、『人魚』を人魚、マーメイド……、どぉぉぉぉ?人魚……ぎょぉぉぉ!何このファンタジー!そんなのいたのか!
「ふうん♡きゃっ!捕まっちゃった」
「おおおおおおお!か、かわいい……胸でかい」
「ああん、責任とってくれるの?私達、満月の夜に若い人間の男に出逢って、愛し愛され真実のキスを交わしたら、人間になれるの」
「に、人間に?なったら……どうするの」
「もちろん♡結婚♡す、る、の、ねぇ……私のこといや?まだ尾ひれですもの」
「ううん、好き!」
「きやぁん♡本当?ダーリン。ねっ、ねっ、私の何処が好き?言って言ってぇ♡」
キラキラ、キラキラしてる青の尾ひれ、茶色の髪……、上半身だけ見てると『制服アイドル』みたいな女のコ。だけど、なんだろうちょっと……面倒くさそうな。
「へえ……あいつアイドル好きだったから、そうか……や、俺辞めとこかな……一年たったら元に戻るし……」
砂浜田がその様子を見ながら、ぶつくさ言い出し竿を上げようとした時!ザッパーン!大きな水しぶきと共に奴に向かって来たのは……ひゃー!コイツこんなのが好みなのか?
象牙色の肌に黒の髪、漆黒の尾ひれの美魔人魚?
「え!えええ!あ!だめ……」
ガシッと抱き止めた砂浜田。そりゃだめ……ってなるよな。いわば『理想の彼女』が降ってくるんだもん……人魚だけど。
「フフフフ、かわいい坊やに当たったのね」
ふぉぉ!すげー砂浜田。そのお姉さん絶対!危ない系だぞ!俺の頭のテヅルモヅルがそう知らせてくる。