3本目ぇ
――、我が村には、上隣保、中隣保、下隣保があり、今年の満月祭りには!それぞれ1名ずつ、参加する事になった!これは!ここ最近無かった快挙!皆さん祭りを盛り上げましょう!
村営会館大ホール、普段は葬式に使っているのだけど……、そこに長テーブルを並べ立食パーティーの拵えがしてある。ちなみに料理は、各隣保の持ち寄りだ。婆ちゃんや母さんが入っている『婦人会』なる組織、老人会女性部やらが集まり作った料理の数々……。葬式出すのに作りなれているのか、今日知らせが行って、夜にはこれだけの事が出来上がるとは……すごいフットワークなのだ。
「尚!世間がうるさいので、ここで泊まるか、家族が迎えに来るか、歩いて帰るものに限って酒は良し!ではそれを踏まえ飲み物を……」
各隣保から呼ばれた役員しているおっさん達に、祭りに参加する俺達の親族、代表1名ずつが呼ばれてっし……じいちゃんの姿と親父の姿が見える。みんな……、缶ビールかよ!そして乾杯のあと宴会が始まった。
――「てか、砂浜田も磯辺もなんで連絡くんなかったんだよ。帰ってきてたのも知んないし……で!何食った?」
俺は歩いて帰るつもりで、ビールを飲みながら幼馴染二人に聞く、俺が何食ったのかは、頭を見ればわかるのであえて言わない。ウネウネウネウネと動いているテヅルモヅル。
「んあー?いいよな、それですんで」
白の手袋をはめている磯辺は缶チューハイ飲みながらぶつくさと話す。ワンカップちびちびやっている砂浜田は……どこか達観している。
「それで、て……酷いなぁ、頭にこんなの生えてたら困るし、それに試練だっけ?乗り越えないと髪の毛無くなるし……来年の今頃は無い!」
はぁぁと溜息をついて、鯖の押し寿司をつまんだ。
「それは俺らもだし……俺んち俺だけなんだよな。兄貴も親父も食った!根性で飲み込んだらしいんだ。でもさ、アレはムリって!アレだぞ、くぅぅなんでアレ……」
磯辺は手袋も外さずプラスチックの椀に入った、鯛飯を食べ始める。そういやなんで手袋?
「……ふ!フフフフ、手袋か、よくぞ気がついたな、俺は肩から下が色が変わったんだな。そう、俺は『イシガキリュウグウウミウシ』を食いたくなり……ムリだって!でも……あああー!」
そういうと手袋を外した!うぉお!すげぇ!青藍色してるし!上脱げ!と俺は言うと、周りのオッサン達が見せろコールしてきやがった。酒に弱い奴はお披露目したのは言うまでもない。
おおお!と盛り上がる中、静かに呑んでる砂浜田に聞いた。
「んあ?知りたいか?しょうもないぞ、お前みたいに頭にウニョウニョしてるわけでもなく、ヤツみたいに真っ青になってるわけでもない……」
ちびちび呑みつつ、塩辛を舐めるように食べる砂浜田。何か賢者の様な空気を醸してるし……何食ったのだ?
「教えろよ、みずくせーし」
ウニョウニョンしている俺のテヅルモヅル。酒のんだからかな?なんか伸びてる様な気がする……。
「……いいよな、二人共……俺はさぁ、ハゲナマコっての捕まえたんだ。偶然にな……見たら食いたくなったけど、ムリだって、半透明みたいな物体だぜ?ムリムリ!」
「で……どうなった?」
俺はママカリ寿司を食べながら聞いた。
「知りたいか?」
ガリを齧りつつ聞いてくる。うん、教えろ見せろというと……フッ……と笑う砂浜田。
「見せろ……か、無理だな。それは18禁になるからな、世間様に出したら逮捕されっし」
「はい?……18?逮捕?……ハッ!ま!まさか、まさか!」
ぐいっと飲み干す砂浜田。そうだよ、ハハハハと真顔で笑う。怖い、怖いぞ砂浜田。
「ハハハハ、俺は地獄を見ている気がするのだ、ハハハハ、ハハハ……」
真面目なヤツが壊れた気がする!ヤバいどう話せば……俺が慌てると、頭のそれもグニョングニョンと踊りまくる。オッサンに囲まれ何も知らない磯辺が、能天気に進められるままに飲んで笑っている。
「おお!そうか!そうか……ウンウンわかる、わかるぞ……そうか……君も」
呑まなきゃやってられないのだろう、新しいワンカップを手にした砂浜田に、どうやら話を聞いてたらしい村長さんが声をかけてきた。
「村長さん、あ、のわかるとは?」
俺はグビグビやり始めた友の代わりに聞いた。ふ……、と遠い目をしながら村長さんは、過去を思い出す様に教えてくれる。
「ふ……、そうか、いや、ワシはな……『オオイカリナマコ』だったのだな、形が変わるときは幾分サイズが身体に合わせた物になってるのだが……うん……頑張れ、一年はきついぞ、ワシは頑張った!うん、イイぞ!な!青年」
ハハハハ、村長さんもっスか!最悪ッスよね、呑まなきゃやっとれません。と砂浜田は喋り始めた。
「お!俺、満月祭り頑張るつもりですよ、ええ、性癖ってのがバレバレになると聞いたけど……そんな事構ってられませんからね、ハーハハハ」
あれ?コイツ祭りに何するか知ってるし……俺は鉄火巻を食べながら、そういやどんな事するのか知らない事に、今更ながら気がついた。