二本目!
「それにしても……また、なんでそんなのにしたんや?もっと別なのあったやろうに」
角砂糖大四つ、激甘の珈琲を飲みながら聞いてきたばあちゃん。俺のテヅルモヅルは、髪の毛の中でうねうね動いている。
「そんな事より!その試練てのおせーてよ、ズズズ。旨い!つみればあちゃんが作ったの?」
はぐはぐとつみれを食べる俺。牛蒡が美味しい……。
「フフフ、そやろ『魚料理』は任せてや、なんせ『共食い』になるんやからな、味にはうるさいねん。そうそう、村の男は、おまの年頃になると、変な物をくいとうなるんや、完食すれば何もない、無事にそのままや、おまみたいに棄てりゃそんな事になるんや」
だから日頃から命を粗末にすなって教えてたろう?とちょっとおかしい事と一緒に教えてくれる。共食いってなんやねん。
「……、それならそうと、んじゃ、じいちゃんも親父も?何食ったんだろう」
「ダーリンは『ウルトラブンブク』に負けた。頭の形がそれになっとったし、でもダーリンは試練を乗り越え、ばあちゃんと一緒になり祟りが消えて……ふふふん、『うるめ』は失敗してハゲになった、邪念が強かったんやな。何やったかな?おまと同じで頭が……そや!『ドフラインイソギンチャク』や!イソギンチャクが生えとった!」
うるめ……俺の親父の名前だ。ちなみに名字は『大海』という……誓って俺の名前は『鰹』でも『鱈』でもない。イソギンチャクって……毒ないか?じいちゃんのに至っては、俺見たことないし。
「何?試練って……邪念?どんな事?親父は失敗したからハゲたって?じいちゃん、ばあちゃんと?どういう事?」
「ンフフ、そや、出来へんかったら、一年ほどしたら、髪の毛なくなると一緒に、生えたり形や色が変わってるのもなくなるんよ、そんだけや、命に支障はないねん」
ニマニマと笑いながら教えてくれる、が!肝心要がぬけてっし!いやいや!あるある、この年で……は悲しい……なのでそこを聞くと俺たちしかいないのに、キョロキョロと辺りを伺うばあちゃん。顔を近づけてくるとひっそりと言う。
「おま……役場に行かなあかんのとちゃうか?」
「おお!はっ!今日月曜日じゃん!やべぇ遅刻する!か、帰ってから聞くから、教えてよな!な、と、取り敢えず帽子かぶっていこ……」
帽子を被り、その上からヘルメットをかぶりスクーターで十五分ほど走らせると……、俺の職場である村役場にたどり着く。
☆☆☆☆☆
俺は高校卒業したあと、しばらく村を離れていた。戻ってきたのは成人式をすましてから……偶然、村役場に欠員が出たので上手く入れたのだ。なにせ小さい村、俺の同級生は男二人しかいない、ちなみに二人共に都会に出ているのだけど。どうしてんのかな?
「ばあちゃん、俺の年ぐらいになったらってたけど、あいつ等もそなのかな、と、取り敢えず……誰かに聞いてみよかな、みんなここの人ばっかだし……だ、大丈夫かな?」
ドキドキとしつつ、何時もの様に通用口から入る俺。薄暗い廊下、右手壁のドアを開ける。休憩室並びにロッカールームになってる部屋に入った。
「お!おはようさんやでさんたくろーすって、今は桜がはらひら咲いてる季節やな、てか、もうすぐ満月祭りなんやなー、てか!お前……食えんかったなこの野郎、ハッハハッ!」
俺の上司が上着を着ながら声をかけてくれた。良かった……あっちから聞いてくれた。ほっとして挨拶をする。
「おはようございます。あ、アハハ……昨日やっちまいやがりました!あ……浅蜊さん!どうすりゃいいんッスか?」
「おお!クハハハハ!そうかそうか!そういやお前の同級生の、あー、砂浜田んちの息子と、磯辺のが帰ってきてるらしいぞ!仲良しだよなぁ、くひひひ!ああ、ああ、言わんでもいい!今晩ゆっくり聞くからさ」
「は?今晩って?どういう事ッスか?」
俺が泣きついたのにも関わらず、ご機嫌さんで浅蜊さんは、スマホを見ながら話してくる。
「ん!うちの婆さんがお前の婆ちゃんから、メールが届いたって、さっき送ってきたんだな。テヅルモヅルが頭に生えたって……今晩は……宴会だな!このぉ!大人の階段に一歩踏み込んだなぁ!アーハハハ!」
……、婆ちゃん何してんだよ!そして何、宴会って……んでもってあいつ等も戻って?俺には連絡無いぞ!何だそれ!ご機嫌な上司を見つつ、俺は少しばかり面白く無かった。
髪に紛れたテヅルモヅルが、ウネウネウネウネと動いている。