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 ジミーニク・サナリアは女騎士である。また、貴族の娘ではあるが、自由奔放に育ち、抜け出しては下町で遊び、泥だらけになるような女だった。そんな彼女であったので、両親の言うことも聞かずに騎士になるなんてことをした。そして、剣の腕前にも恵まれ、魔法の才能もあった。下町に顔馴染みも多く、人気の騎士となりつつあった。また彼女も、下町を愛し、守る心を持っていた。




 その日も夜間の警邏も嫌がらずに任務をこなしていた。彼女は夜の街も好きだった。酔っぱらいの相手をしては送り届け、騒ぐ男たちを黙らせたりもした。警邏の騎士には番犬の紋章が刻まれていて、茶色を主とした鎧を着込んでいる。歩くたびに鎧の音が響き、人々は気まずそうに、あるいは嬉しそうにそちらを見る。

 貴族の騎士も多くいたが、女性は少なかった。女性だけの騎士団もあったが、彼女は下働きこそを好んでいたので、平民の騎士団に入った。


「ジミーニク、なにか問題があったようだ」

「問題ですか」

 上司の男が鎧の音を立てながら近寄ってきた。指揮官の証である茶色の羽を胸につけている。いつも通りの生真面目な顔をしていて、サナリアはこの上司のことを気に入っていた。

「殺しに盗みだ、例の悪党かもしれん、気をつけろ」

「例の……、最近現れたという姿の見えない奴らですか」

「そうだ、金は消え、死体だけが残る」

「他所の刺客でしょうか?」

「さあな、手練れなのは間違いない、警備の者の腕前は確かだった」

「そんな……。私たちで対応できるでしょうか?」

「やれと言われたならやるしかない。幸いにも敵がいることはわかっているのだからな、行くぞ」


 男は道すがら何人かに声をかけながら目的地へ進む。

 サナリアは不安を覚えながら進んだ。数が増えるたびに、鎧の音は騒がしくなっていく。人々の目にも不安が映り、サナリアはこれではいけない、自分は騎士なのだと思い直す。

 進むたびに増えていく騒がしい音にも頼もしさを覚え、敵への闘志へと変える。



 場所は悪名が陰で囁かれる商人の屋敷だった。サナリアも会ったことがあったが、いい印象は覚えていない。

 複数の門番は倒れていて、すでに事切れているようだった。

「警戒しろ」

 上司の言葉が鋭く夜に響いた。屋敷はところどころに明かりが消えていて、物音ひとつしない。

「数人にまとまって行動しろ、聞く限り人数は多くはない。必ず複数で対応するんだ」

 上司に頷くと、サナリアは門の中へと進んだ。相手はどこにいるかわからない。自分の出す鎧の音さえも煩わしい。



 迎え入れるようなコの字型の屋敷の中央には、大きな庭が広がっており、豪華な噴水の音が夜に吸い込まれている。

 サナリアは実家にもしばらく帰ってないなとふと思う。怒る両親の顔を思い出すと、しかめ面になる。

 草陰からは今にも誰かが飛び出してきそうだ。警戒しながら進むが、なにかが出る気配もない。屋敷にたどり着くと、扉の奥で誰かが倒れている。

「使用人だな」

 同僚がつぶやくと、サナリアも目をやった。若い女性のメイドだ。すでに事切れていた。

「女にも容赦がないのか」

 同僚は憎々しげに吐き捨てた。


 屋敷を進むが、たびたび誰かの死体を目撃したが、多くは生きて隠れていた。保護して屋敷の外へと送り出していく。話を聞いてみても、物が割れた音がして明かりが消え、気づけばだれかの死体があっただとか、目撃情報はないに等しかった。

 保護を終えると、残りは主人の部屋だけで、金庫などもそこにあった。金目のものがあった倉庫の中はすでに空であり、鍵は主人が持っていたというので、生存は諦められていた。

 警戒しながら部屋に入ると、やはり主人の死体だけが残っていた。妻は屋敷におらず、どこかで遊んでいるらしい。横には裸の若い女の死体もあった。

「金庫もやられているな」

 部屋を改めているとそんな声がした。目線を向けると、窓のほうから音がした気がした。

「伏せろッ!」

 咄嗟に屈みこむと、背後から音がした。そちらへ目を向ければ、壁になにか細い棒状のものが刺さっている。すぐに立ち上がり窓を見たが、誰もいない。

「もたつくな、屈め!」

 力任せに同僚に手を引かれ、物陰に隠れる。視線ははずさずに、声を抑えながら尋ねる。

「誰がいたんですか」

「暗殺者だ」

 心臓が締め付けられるように縮む。体が強張るのを感じた。

「木の陰からお前を狙っていたように見えた」

「なぜ私を」

「さあな、それより集中しろ」

 動揺は隠せなかったが、サナリアは集中しようと試みる。

「いかん!上だッ」

 目線をあげると、小柄な人物の手に輝く刃物だけが見えた。

 ギインと鎧が刃をはじく音がした。

「ぐう、重いぞ、次は防げるかわからん、屋敷の外に出るんだ」

 同僚は警戒しながら手でサナリアを押し出した。

「お前はまだこの手には慣れてないだろう、人を呼んできてくれ」

「でもっ」

「いいから行け、騎士団の花を失うわけにもいかんだろう」

 同僚は軽口を叩きながら背中を見せた。

 躊躇いつつもサナリアは走り出した。背後からは刃の交わる音が何度も響く。髭面に皮肉気な顔をみせる男の顔がちらついた。




 サナリアには幼いころに身代金目的で攫われた過去があった。下町で遊んでいれば、当然そのようなことは起きる。また、サナリアはそのことで犯人が打ち首になったことを苦く思っていた。報いを受けさせるといって、幼い目の前で打ち首の姿を見せられたのだ。それも、自分を攫ったとはいえ、少しの間話もした相手だった。根からの悪人ではないとどこかで思っていたのだ。打ち捨てられた首がこちらを向いた記憶は今でも脳裏に蘇る。そんなことがあり、サナリアは命の奪い合いになると、緊張してしまい、十分に力を発揮できないところがあった。そのせいで貴族の騎士になれなかったこともあるのだが、サナリアは今の自分が気に入っていた。



 同僚はそのことも理解していた。強盗や殺人が起きるのは初めてではない。その度にサナリアの体が強張るのを見ていた。はっきりといえば足手まといになる。男は彼女を想いながら、目前の敵を見た。鎧には幾つもの傷跡が残ってはいるが、敵は攻めあぐねているようだ。

 それも当然、こちらは鎧で覆われているが、向こうはそうではない。待っていれば応援がくるので、防ぐことだけを考えていた。しかし、それでも華奢な体から予想外の力や角度、方法で襲い掛かってくるので、何度も肝を冷やした。

 鎧の隙間さえ隠してしまえば致命傷は避けられる。相手の動きを予想し、前もって対策することを心掛ければいい。すると、ふと思ったことが口に出てしまった。

「……女か?」

 その瞬間、今まで無感情だった敵が燃えるように気配を増した。

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