12話『お前は私の許嫁』
その日の放課後、学生らしく部活動に専念するため部室に向かいドアを開けた僕の溝うちを激しい痛みが襲った。
「ぐぇ!?」
「加古川ぁ!よくもまあぬけぬけとこの部室に来れたもんだなァ?」
苦しさから膝をついた僕の目線と同じ位置にある彼女の瞳は、僕を離すことはない。
「……信濃…お前…」
「ハッ!浮気男の分際で私のことを気安く呼ぶなよ!」
「う、浮気って…なんのこと……」
「しらばっくれるな!わ、私というものがありながらあんな身長と胸がちょっと私よりもあるだけの女とイチャイチャしやがって!」
「いや…それは誤解で…ゆ、由良!お前も説明して…」
部室の奥で椅子に座った後輩に助けを求めるも、僕の声にピクリとも反応しない。
由良もわかっているのだ、この状態の信濃がタダでは止まらないことを。
目尻に涙を浮かべた小さな少女の名は、信濃 恋花
僕と由良も所属…いや、強制的に所属させられている彼女が放課後暇をつぶすための学校非公認部活動、オカルト研究部の部長である。
そして
「お、お前は私の許嫁なんだから!他の女にうつつを抜かすんじゃない!」
僕と信濃がまだ赤ん坊の時に親同士が決めた結婚の約束を、今も一途に守ろうとしている幼馴染でもある。
「いや、信濃?お前が真面目なのはわかるけどそんな親同士の酒の席で交わされた約束を律儀に守る必要は無いんだぞ?」
「なっ…そ、そんなに私と結婚するのが嫌?」
「嫌とかじゃなくてだなあ…」
「……もん…」
「ん?」
「私はァ!!絶対加古川と結婚するもーーーん!!!!」
大きく振りかぶった小さな拳が再び僕に向けられる。
先程は二人の身長差もあって溝うちにヒットしたが、今彼女が振り抜いた拳は膝をついた僕の顔面にクリティカルヒットをくらわせた。