11話『良かった』
昼休み、いつも通り購買へ行こうと思い教室を出たところでとある人物に声をかけられた。
「敬太君…。」
「ん?どうした紀ノさん。早くしないと全部売り切れちゃうからできれば手短に…」
「わ、私のお弁当をあげるので…少し付き合ってください。」
紀ノさんが図書室以外で話しかけてくるなんて珍しいな、なにか急用だろうか?
「いや、弁当はもらうわけにはいかないけど……とりあえず移動しよう。」
「はい。」
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「それで?委員会とかの用かな?」
自動販売機でジュースだけ買った僕は、紀ノさんに連れられて今朝由良とも来た踊り場にやって来た。
あれ?もしやこの展開は…
「け、敬太君…天野さんとは…その…つ、付き合っているんですか?」
やっぱりか〜……
しかし紀ノさんがこんなことを聞いてくるのは意外だったな…
「い、いや!付き合ってはない!」
「本当?」
「ほんとほんと!」
「そ、そうなんですね…よ、良かった……」
紀ノさんは露骨に安堵の表情を見せる
……そうか!もしかして紀ノさんも天野さんのファンのひとりで僕が天野さんを独り占めするんじゃないかと不安になったんだな!
うんうん、天野さん男女問わず人気だしきっとそうに違いないぞ〜
「あ!敬太君お昼ジュースだけだとお腹空きますよね…じ、実はお弁当作りすぎちゃったので…その…よければこれ…どうぞ。」
そう言って紀ノさんは手提げ袋の中からお弁当を二つ取り出して大きい方を僕に手渡す。
なんだ、お弁当をあげるってのは作りすぎた分をってことだったのか
「うん!それならお言葉に甘えていただこうかな。」
「…はい!」
僕と天野さんが付き合っていないことが分かったからなのか、紀ノさんの表情はとても明るいものだった。