1話『電車』
僕、加古川敬太の通う学校…霞浦高等学校には全校生徒だけでなく教師陣すらも魅了するほどの美貌をもった生徒が存在する。
彼女の名前は天野日和、僕と同じ3年生で生徒会会長も務めるまさに才色兼備な優等生だ。
登校時、休み時間、下校時にいたるまで取り巻きに囲まれた彼女が移動する光景は圧巻で、遠目から見ても今学校のどこに天野さんがいるのか一目瞭然なほどだった。
そしてもちろんそんな彼女に告白しようとする男子も後をたたないが、1年生から数えて2年と1ヶ月…今現在まで告白が成功したという情報が出回ることは無かった。
「うぅ…眠い。」
いつも通りの時間の電車に揺られながら流れる景色を見る。
「もうそろそろか……嫌だなあ……」
学校の最寄り駅まであと3駅、時間にして約15分ほどの場所で我が校のアイドル天野さんが大量の取り巻きを引き連れて乗り込んでくるのでこの車両だけおかしいほど混む。
ドアが開いて、颯爽と電車に乗った天野さんは真っ直ぐいつも座る席へと向かい腰を下ろした。
「おはようございます。加古川君。」
「おはよう……天野さん。」
鋭い目つきで僕を睨む取り巻き達に苦笑いを浮かべながら天野さんに挨拶を返す。
そう、彼女が座った席というのは今まさに僕が座っている隣だった。