カップルIN廃病院。
「ねぇねぇ、もっと奥に行ってみようよ?」
普通のひとならばあまりの暗さに ── というか。
辺りから醸し出される雰囲気に呑まれてしまい、後退りしてしまうだろう。
ただ、彼女はまったくそんなことはお構い無しに屈強な男性の腕を引っ張ってゆく。
「いやいやいやいや……もう、じゅうぶんじゃネ?」
そう言ったのは、見た目一流のプロレスラーにも匹敵するほどがたいの良い男子高校生。
最早、お腹が一杯になるほど写真撮影に付き合ってきた。
その一枚一枚を入念にチェックしたが何ら奇妙なモノなど写っていない。
だからこそなのか、イイネが欲しい彼女はぐいぐいと奥へと突き進んでいった。
今時の女子校生。 JKは。
正直、付き合いきれなかったのだろう。
「ここってさ、もう……何十年って放置されてるんだって」
ふたつの瞳を爛々と輝かせて彼女は、下半身が浸かるぐらいの水溜まりをものともせずにジャブジャブと行った。
一般的な女子校生ならばまずあり得ない。
好奇心旺盛などいう言葉では言い表せない。
「ちょっと……なにしてんのよ? ほら!!」
ぐいっと腕を引っ張られた。
「そろそろ帰ろうよ~」
まだ彼は常識人だったのかその先に行くのを躊躇した。
もうじき社会人としてのデビューを控えているのだから。
特に何も起こらなかったとはいえ、面倒なことには関わりたくはない。
だが恋人とのひとときは何時まで経っても残るアルバム。
「ったく……わぁ~ったよ!」
まだ陽も高く、真っ昼間であったからこそ恐怖心など懐かずにいたのだ。
「そうこなくっちゃ♡」
端からすれば、ただのカップルがイチャイチャしていたかのように見えただろう。
しかし、その場所は紋白蝶がひらひらと飛び交う花畑などではない。
何十人もの死者を出した曰く付きの廃墟 ── 病院。
どうして取り壊されていないのか。
疑問はつきない。
そしてツアーは途絶えることがない。
「あ、また……。 も~引くわぁ……」
大抵廃墟というモノには何者かが来たという痕跡が残されている。
例えば何処かで見たことのあるネズミのシルエット、そして架空のメールアドレスなどなど。
心霊ツアーと称してトンネルの壁にあったのは若気の至りであったことが数多い。
更に、気になる染みの殆どは大概ペンキの跡である。
それは最早廃墟と化していた病院でも例外ではなかった。
「ねぇ? なんで不良ってさぁ、こんなことしたがるの??」
「いや~……、そういわれても……」
正直、答えに戸惑う。
もしかしたら、彼らも怖がりだったのではないだろうか。
紛らすために、ノリで描いたともされる。
「も~~~……。 アレ? ナンだろ?」
「ん。 ナニナニ??」
ふと何かに気付いた彼女は導くようにして人差し指を示す。
とっくの昔に起動するのを諦めた看板。 チカチカと、不規則な点滅。
── 手術室 ──
「え。 これって……」
ふたつの身体は台に並ぶ。
夢を見ていた。
突き刺さる痛みを忘れようとして。
また、訪れる者を待ちわびて。