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メガネ探偵とコンタクト助手

作者: しいたけ

推理ものは初めてです。難しい……!!

 築50年の木造平屋1階建て。ここが僕の職場だ。


「……う~ん…………」


 掘りごたつに入り手鏡を見ながらうんうん唸っているのが、僕の雇い主である。


「先生、さっきからどうしました?」

「いやねワトソン君。メガネ壊れたから思い切ってコンタクトにしたんだが、違和感が拭えなくて……」


「僕も最初は慣れませんでしたが、そのうち慣れますよ。けれど僕の事『ワトソン君』って呼ぶのは慣れないので止めて下さい」

「え~っ……だって探偵の助手=ワトソン君じゃない?」


「何が探偵ですか……単なる何でも屋が良いところです。最近は迷子猫しかやってませんよ!」

「どんな依頼でも熟すのが、私のポリシーだよ。ワトソン君♪」


 僕は呆れた顔で溜息をついたが、先生には効かない様だ。

 猫ばかりじゃ儲けが少ない。このオンボロ小屋が良い証拠だ。僕の給料ももしかしたらコンビニでバイトした方が見入りが良いかもしれない……。


 ―――ピンポーン!


「むむ! 久方振りのお客様だ!」

 先生が駆け足で玄関まで出迎える。

「お待ちくださいね! 今開けますから!」

 玄関の扉は立て付けが悪く、開き方にコツがいる。つまり誰かが出迎えないと開けられないのだ。流石築50年。


 ―――ギギ……ガラガラ!


「お待たせ致しました! ようこそ我が事務所へ!」

 先生はお客さん?を上機嫌で迎え入れた。


「おーい! お客様にミネラルウォーターをお出しして! そうそう、井戸からジャンジャン出るやつね!」

「あ、お構いなく……」

「おーい! お茶菓子も要らないそうだ! やったな!」

 先生はキッチンの僕に大声で話し掛けた。お客さんにそんな事言って良いのかなぁ……?




「それで、本日はどうしましたか?」

「掘りごたつである探偵事務所って初めてです」

「でしょ?」

 先生には皮肉が通じない。


 依頼主は明るい茶髪の若い女性だった。薄手のワンピースに日よけ用の腕までくる白い手袋をしていた。

 何やら恋人が急に音信不通になったらしい。アパートに行っても反応が無く、大家は旅行中で居ないそうだ。因みに合鍵も貰っていない。


「恋人の特徴は何かありますか?」

「同い年で大学が同じだったんです。黒髪で普通の人です。昨日は無地のTシャツにデニムを着てました」

「最後に会ったのは?」

「昨日の昼です。毎日来る電話もSNSも今日は何も無かったんです…………」


 ……あ、先生が固まったぞ。別にそう言う日があってもいい気がすると思うけど、依頼主の顔は真剣そのものだ。


「携帯を無くした、とかは?」

「こちらから電話を掛けたらちゃんとなりましたし、昨日は一緒にお酒を飲んだので、出掛けていない筈です」

「寝てるとか?」

「昨日は特に何も無い普通の日でした」


 時計の時刻は午後3時を過ぎたところだ。流石にまだ寝てるとしたら相当だろう……。


「わかりました。とりあえず彼氏さんのアパートへ行ってみましょう」


 僕たちは、その恋人が住んでいるアパートへと向かった。

 単なる杞憂だと思うが、先生は金になれば何でもいいみたい。だから『何でも屋』だと思うんだけどなぁ……。





「ココが彼の部屋です」

 そこは至って普通のアパートだった。


 安めの一人暮らし向けアパートのポストにはチラシが大量に入っていた。

「あまりマメな方では無いみたいですね……」

「ええ……」


 先生が彼の住む『102』号室のドアノブに手を回す。


  ―――ガチャ……


「あれ? 開きましたよ?」


 意外や意外。閉まっていると思われた扉はすんなりと開き、僕たちは不思議な顔でお互いを見合わせた。しかし、彼女の顔は依然として浮かないままだ。


「お邪魔しますね~」

 勝手知ったる他人の家。先生はズカズカと部屋へ入っていく。

「ヒロく~ん?」

 彼女も部屋へと続く。


 キッチンには洗い物が溜まっており、汚く光るコンロからは脂の酸化した匂いが漂う。ゴミは至る所に落ちており、一人暮らし故散らかり方も半端ではない。


「うげぇ……酷い有様。カップ麺の容器だらけ……」

「あ、そこは気を付け―――」


 ガラガラ! バタン!!


 僕はうっかり手を引っ掛け、テレビの隣りに置いてあった小物入れを棚の上から落としてしまった。落ちた衝撃で小物入れから、時計やピアス等の装飾品が零れてしまう。


「こらこらワトソン君ったら……」

「すみません!!」

 先生と僕が装飾品を急いで拾い上げる。

 その時屈んだ先生の胸元から普段の言動に似つかわしくない、たわわな誘惑が僕を刺激した。よく見たら普段と違うコンタクトの先生が幾分綺麗に見えるぞ……。


「ワトソン君……」


 僕は先生の呼び声で我に返った。慌てて手にしていた時計を先生に渡す。

 あれ……依頼主の彼女の姿が見えないけど……。


「ワトソン君……まずいぞ…………」

 その時、隣の部屋から先生の神妙な声色が―――


「キャー!! 泥棒ーーーー!!」

 さらに女性の甲高い叫び声も……え? 泥棒?


 僕が慌てて外に出ると、近隣住民や野次馬、更には巡回の警察官までもが押し寄せていた!


「警察だ!! そこで何をしている!!」

「おまわりさん助けて下さい! 彼の部屋に来たら中に泥棒が!!」

「なにぃ! おい小僧! そこを動くなよ! 逮捕だ!」


 警察がジリジリと僕へ詰め寄る。何故だ!?どうして彼女は―――!?

「先生!!」

 慌てて先生の居る隣の部屋に入った僕は信じられない光景を目の当たりにする。


 血染めのベッドの上に仰向けで横たわる眼鏡の男。

 胸には刃物が深々と突き刺さり、既に死に絶えている事が容易に想像出来た。カーテンの隙間から差す夕陽が男の血を僅かに柔らかく映し出してくれていた…………。



「こ、これは!?」

「ワトソン君。今度は何処も触るなよ? そして大人しく警察に事情を説明するんだ。素直にありのままをな……。けどこの男、何か変だな」


「変……?」

 確かに、1つ気になると言えば、この男の着ているTシャツが裏表反対という点だろう。裁縫部分が丸見えだ。


「ま、先ずは警察に連れてかれよう。あまり不審だとより怪しまれる」


 程なくして警察へ連れて行かれた。不法

侵入やら強盗やら殺人罪まで色々と話が出たが、僕は一貫して否定した。彼女と供述が食い違う部分に関しては酷く問い詰められた。しかし僕はありのままを話し、その度に威圧的な眼光を向けられ僕は徐々に疲弊しつつあった。


 結局、僕が解放されたのは次の日だった……。




「ワトソン君遅いぞ~」

 先生は既に解放されており、その顔はいつものおちゃらけた感じだった。

「……酷い目に遭いましたね。先生は無事でしたか?」

「はっはっ! 私は顔が広いからね! すぐに大丈夫だったよ♪」

 先生は自分の頬を両手で横へ伸ばし顔をビロンビロンとさせていた。疲れた体に先生の冗談が重しの様にのし掛かり辛い……。


「……これからどうするんですか?」

「当然真犯人を捜すさ。それに彼氏を見つけた成功報酬も貰ってないしな」

「え? でも彼女の連絡先が……」

「ふふ、()()()犬のお巡りさんが教えてくれたよ」

 と、住所と電話番号の書かれた一枚のメモ書きを僕に見せた。相変わらず先生は謎に恐ろしい……。




「1つ気になる事があってね。先ずはアパートへ戻ろうか」


 しかし、被害者のアパートは警察により立ち入りが禁止されており、とても調べられる雰囲気では無かった。当然と言えば当然だろう。


「窓から、っと…………」

 先生は目をゴシゴシと擦った。

「まだ慣れませんか?」

「ああ」

「最初は見え方も変わりますからね。大変でしょうがすぐに落ち着きますよ…………先生?」


 先生は窓からは見えない室内を覗いたまま固まっていた。


「見え方が……変わる…………?」

 突如先生は動き出し、被害者の部屋の入口に居た警察官に話し掛け―――え? 警察官が凄い顔で僕の方へ来たぞ?

「大人しくしろ! 痴漢野郎!」

 僕は警察官に腕を押さえられた。僕は先生に説明を求めようとするも、先生の姿は既に消えていた……。




「はい、ご苦労さま」


 僕はまたこっぴどく取り調べを受け、先生が迎えに来てくれた。


「ちゃんと説明して下さいよ……!?」

 僕は今にも怒り出す剣幕で先生に説明を求めた。

「まあまあ、お陰で犯人が分かったぞ。警察のお偉いさんにも話が聞けて裏付けも取れた」


「え!?」

 僕はあまりの事に言葉が続かなかった。

「じゃ、行こうか。依頼主に事件の全貌を報告しに……ね」

 先生は笑いながら鋭く眼を光らせ電話を取り出した―――。




 先生は三度被害者のアパートへ赴いた。

 そこには依頼主の彼女が待っており、険しい表情でこちらを睨みつけていた。

「何ですか? 用事って…………」

 極めて不機嫌な彼女の顔には、下っ端の僕にでも分かるくらいの不満と憎悪が込められていた。


「ささ、入って下さい♪」


 すると先生は被害者の隣の『103』号室の扉を開けた―――



 103号室は被害者の部屋と同じ造りになっており、こちらに関してはとても綺麗に掃除されていた。家具の配置も102とほぼ同じくなっており、物こそは違うが現場の再現という感じになっていた。先生は僕をベッドの部屋へと呼び出し―――


「脱いで♪」

 僕はいきなり上半身を全て脱がされてしまった。

「はい、これ着て」

 クタクタの白いTシャツを手渡された。

「あれ? 先生これ裏表反対ですよ?」

「ん、そのまま着て。そしてベッドに寝て♪」

 僕は渋々シャツに袖を通し、言われるがままベッドへと横たわる。薄暗い部屋にカーテンの隙間から差す夕陽が妙に眩しい……。


「どれ、最後に眼鏡を…………君、中々に眼鏡が似合うね♡」

 先生は僕に眼鏡を掛けて変化を楽しんでいた。

「……可愛い」

 先生は去り際に何かを呟いたが僕には聞き取れなかった。ただ、夕陽に染まる先生の頬が紅いのだけは目に付いた。


「さて、お待たせしました。こちらへどうぞ!」

 陽気な先生と、不機嫌な彼女が僕の居る部屋へと入ってきた。


「これが何か……?」

 彼女はぶっきらぼうに答える。

「見た感じ彼の特徴……どうでしょう?」


「……どうって…………普通じゃ?」

「どの辺りがですか?」

「無地のTシャツに、デニムに、眼鏡……普通では?」


 先生はここぞとばかりにニヤリと笑った。

「実はこのシャツ、裏表反対なんですよ」

「……え?」


 僕のシャツに手をかけると、先生は勢い良く裾をめくった!

「!!」

 本来外側に来るべき表面にはデカデカと英語の文字が印字されていた!


「実際の被害者である彼氏さんも、シャツが裏表反対でした。薄暗い部屋で見たら、無地にしか見えませんし、裏表反対になんか気が付きません。昼間みたいな明るい時間なら見ただけで分かるでしょう。貴女は覚えていないかも知れませんが、最初のお話しの際にも『無地のTシャツ』って言ってましたよね?」


「………………」



「……因みに貴女、昨日の夜……何してました?」

「………………………………」



 その後、彼女は彼氏の殺害を認め、警察に逮捕された―――。

 動機は彼氏の浮気だそうだ。夜に赴き寝ている彼氏を一突きで殺め、僕達を強盗殺人犯に仕立て上げようとした。

 全く女性というのは恐ろしい生き物だ……。





「先生、見事な解決でしたね!一体何処で気が付いたんですか!?」

「教えない」

「え!?」

「予定の()()を大幅に超えているからな。もう〆るぞ?」

「え!? え!?」


「まあ、君の眼鏡が似合っていたのと、私のコンタクト&セクシー姿で問題無かろう?」

「えっ!? 気が付いて…………」

「ああ。ヨダレを垂らす野獣の様な君の眼光が、私の胸に突き刺さってたぞ?」

「そ、そんな~!」



              おしまい♪

読んで頂きまして誠にありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[一言] 推理物~♪ ふふっ。私に解けない謎はな~い!(一度言ってみたい台詞にゃ それにしても警察が不甲斐ない。彼女のことを怪しいと思わないのかな? ……おっと。これは探偵さんが事件を解決するお話で…
[良い点] ふたり仲良しで微笑ましいです。 [気になる点] なぜか犯人が最初から想定できました。登場人物の人数のせいかもしれません。 所定の字数制限があったみたいなので、複雑にもできないでしょうけれど…
[良い点] オチ……探偵さんの正体?の意外性が良かったです! 「眼鏡女子がコンタクトに」という条件がなければ、私はこの探偵さん、男性と思い込みましたから。 香月、推理もの読むの初めてなんです。 だから…
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