なんでもない、静かな夜に思うこと。
ーーー人が死ぬことは当たり前のこと
どんなに偉くてお金持ちな人も、すごく貧乏な人でもみんな平等。それを覆すことなんてできない。
だから、誰かに対してどんなに死んで欲しくないと思ったところでどうすることも出来はしない。
当たり前でありながら、信じたくはないその事実に、今日も1人ひっそりと涙を零す。
(みんながずっと元気でありますように。 )
そんなお願いを聞いてくれる神様がいるのなら、世界中のどこへだって探しに行くのに。
自分の愛する人達がいつか死んでしまうのなら、いっそ……
(その人たちの前に死んでしまおうか。 )
そんな考えがふと頭をよぎる。
そんな理由で死ぬなんてバカバカしいと思うだろう。でも、私にとって、大切な人の死は乗り越えられるものではないような気がしてならない。
こんなことを考える日には、いつもあの日の夢を思いだす。
お仏壇の前で、じっと誰かの遺影を見つめる自分の姿。その顔は正直ゾッとするほど無表情であった。
あんなふうに抜け殻みたいに生きていくなんてまっぴらゴメンだ。
ふと、ペン立てに立つカッターナイフが目に入る。それをペン立てからそっと引き抜くき、握りしめる。かたいプラスチックの感触が掌に伝わってくる。カチカチと刃を出してみるとその尖端は少しだけ黒ずんでいる。試しに自分の手首に添えてみる。あとは、力を込めるだけ。たったそれだけだ。それなのに、そんな簡単なことが自分にはできないであろうことを自分が一番よく知っている。
カッターナイフを机の上に投げ出し、椅子にだらりともたれ掛かる。
生きていくことは辛いことばかりだ。でも、「だったら本当に死のう」なんていう根性も結局持ち合わせていないのだ。
僅かにぼんやりとした頭で考えてみる。人間はどうして死にたいなんて思うのか。
生き物にとって、「生きたい」と思うことこそが本能であるはずだ。「死にたい」と思うのはせいぜい人間ぐらいなものだろう。本能に逆行する生き物、それが人間なのかもしれない。
そうだとするならば、人間はきっと頭が良くなりすぎたのだ。
「頭がよくなりすぎたから、生きたいと思えなくなるなんて皮肉なことだなぁ」
静かな夜、自分の声だけがはっきりと耳に届いた。