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登校中ふと昨日の事を思い出した。
噂の転校生の事だ。
杏里にその事を話そうとすると、隣で大きな欠伸をしている。
「また夜のバイト?」
「ん?そうだよ…と言っても警備関係のバイトだったけど…」
「へー…徹夜じゃないの?」
「二時間寝たから大丈夫だよ…それより隼人何かあった?いつもより顔が気持ち悪い」
「ひどいなおい」
あっはっはと笑う杏里。
幼馴染だからこそ言える冗談なのかもしれない。
今日見た夢のせいだろうか…だがそんな話しても杏里に笑われるだけか
「そう言えば杏里。今日バイトあるのか?ないなら司兄さんが晩御飯作ってるから来いってさ」
「えっ!?ほんと!?行く行く!」
目をキラキラさせながら杏里がはしゃいでいる。
こう言う時にあっ女の子なんだって思ってしまう。
失礼すぎて本人には言えない。
当の本人は食べたい物をずっと呟いている。
「今日司兄さん休みって言ってたから食べたいものあったら伝えられるけど」
「オムライス!!」
即答。
杏里の一番好きな食べ物。
それはまた昔話になってしまうので省略。
司兄さんもそれは知ってるから今日の献立に入っているとは思うが、俺は了承し、スマホを取り出す。
「オムライスだけでいいの?」
「あとはお任せで」
オムライスだけでも結構な量だとは思うが、まだ食べる気なのか
俺はスマホから司兄さんにメールを送っておく。
ポンと言うメールを送信した音が聞こえたと同時に、異変が起きた。
隣にいたはずの杏里が居ない。
それどころか人のいる気配がない。
「は…!?」
周りを見渡す。
景色は同じなはずなのに誰もいない。
この時間にいつもいるおじいちゃんも、旦那を見送る奥様も居ない。
散歩しているお姉さんもいないし、そのお姉さんとお近づきになりたいがために毎朝ランニングしているお兄さんもいない。
「…杏里!!杏里!」
名前を呼ぶが返事はない。
自分の声が木霊するだけだ。
そしてもう一つの異変に気付いた。
「空が…暗い…?」
さっきまで快晴だった空は、いきなり夜に変わったかのような黒。
不気味な赤い月が街を照らしている。
こんなおかしい事が起こるなんてまるで夢のような事が起きている。
「夢のような…?」
「そう夢です」
後ろから声が聞こえた。
振り向いて声の持ち主の姿を認識する。
きれいな長い金髪の髪。澄んだ碧眼。
白い日傘を差し、ゴシックな白い服で身を包んでいる少女。
身長は俺より低く、愛理よりも低い。
150㎝ぐらいだろうか…。
「…誰だ」
「もう忘れてしまったのかしら…悲しい」
「この声…今日の夢の…」
「答えはイエスです。あなたの運命を貰いにきた者…と言えばおわかりですか?」
「あれは俺の夢の中での話だろ…今は俺の夢じゃないはずだ!俺の夢は白い世界だったはずだ!」
少女はあらまと言葉を発し、くすくすと笑っている。
何がおかしい…。最近見ていた夢は無限に続く白の世界だ。
こんな暗く、ましてやいつも見ている風景なんてなかった。
「確かに…この夢はいつもと違います。なぜなら、私がいるから」
「お前が居たからこんな世界になるのか」
「言ったでしょう運命を貰いに来たと。だからあなたの夢は私の主導権になっているのです。この世界はあなたの無意識の世界の風景と私の世界が交わった世界です」
何を言ってるか意味が分からない。
俺とあんたの交わった世界?とんだファンタジーだな
「まぁ夢ですから」
少女はそう言って日傘をくるくると回す。
そして一歩一歩俺に近づいてくる。
「私の名前はアリス。夢を渡る者。どうです?かっこいいでしょ?」
「その夢を渡る人が俺に何の用だ…しかもこんな朝っぱらから」
「私はあなたが勝手に起きたからこうしてやってきたのに失礼ですね」
「いいから早く要件だけ言ってくれ。俺は幼馴染が心配なんだ」
むすっとした顔をしたアリスと名乗る少女は、俺の目の前までやってくる。
続いて顔を近づけてくる。
その距離10cm。
「気を付けてください。これからあなたの世界は歪みによって破壊されていくことでしょう。そうなったら私を呼んでください。私はあなたの味方です」
アリスがぐいっと顔を更に近付け隼人と唇を合わせる。
その瞬間ガラスが割れるような音
パリンと何かが壊れる音がした。
「忘れないでください。私はあなたの運命を貰いに来ました。だから味方です。一人ではありません」
隼人の意識がそこで途切れた。