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「初めまして。早速ですが、あなたの運命を私にくれませんか?」
朝目が覚めると、その言葉が頭に残っていた。
隼人は頭を2,3回掻きながら、ベットから降りる。
夢の内容があまり覚えていない。
不思議な感覚のまま制服に着替え、1階へと降りていく。
リビングにはすでに朝ごはんが並べられている。
「隼にぃ遅すぎ」
椅子に座ると同時に、マーガリンたっぷり付けた食パンを食べながら妹の愛理が隼人を呆れた顔で見てくる。
「遅くはないだろう愛理。お前は朝練だが隼人は朝練なしでこの時間帯だぞ?」
キッチンの方に立っていた、兄の司が話す。
「今何時…」
「まだ寝ぼけてるな…牛乳じゃなくてココア入れてやるから座って朝ごはん食べときな」
「ありがとう司兄さん」
「司にぃは隼にぃに甘すぎ」
食パンを食べきった愛理が牛乳を飲みながら隼人に話かける。
口の周りに牛乳の後が残っているのは黙っておこう。
「今日も杏里ちゃん家?」
「あーそうだね…」
「ラブラブですなー」
「そんなんじゃないよ」
呆れた声でマーガリンを少量塗り食パンを食べる。
愛理はまたまたーとか言いながら牛乳を飲み干す。
まだ口の周りは気付いていない。
「杏里ちゃん一人暮らしなら一緒に飯食べていけばいいのにな。ほいココア」
「ありがとう」
司がキッチンからリビングに戻ってきて、一緒に朝ごはんを食べる。
これが我が家の食卓風景。
両親は共働きでいつも多忙で、出張や帰りが遅いそして朝も早い。
休みが取れているのか不安だが本人たち曰く、たまに帰ってきて子どもの笑顔見れればいいといつも話している。
そのおかげが子どもたちで家事全般を任されている。
司兄さんは大学4年生で非常に優秀ですでに内定も決まっている。
愛理は高校1年。1年ながらもう部活のレギュラーを取っている。
二人とも優秀で、自慢の兄妹だ。
それに比べ俺は…。
「どうした隼人?食パン腐ってたか?」
「なっ…!司にぃ腐ったパン用意したの!?」
「冗談だよ」
俺が答える前に愛理が怒っている。
暗い顔をしていた俺を察してくれたのか、司兄さんが冗談を言ってくれる。
俺には自慢できる兄妹いるだけで十分だ。
たぶん暗い顔をしていたのは今日の夢の事だ。
「じゃあ私はそろそろ行くね。隼にぃまた学校でねー」
「いってらっしゃい」
「車には気を付けるんだよ愛理」
「わかってますよー」
元気よく妹を送り出し、俺もそろそろ杏里の所に向かおうと朝食を食べきる。
今日も絶妙な焼き加減の目玉焼きと食パンだった。
「じゃあ俺もそろそろ…」
「そうだ隼人。今日は寄り道せずに帰ってきな」
「なんかあったっけ?」
「あぁ…たまには杏里ちゃんも呼んで4人で晩御飯食べようと思ってな。だから早く帰ってきな」
「珍しいね…。分かった杏里にも言っとくよ」
「俺今日は休みだから豪勢な晩御飯作っとくから楽しみにしとけ!」
「兄さんの料理はいつも豪勢だよ」
俺はそう言い笑いながら鞄を取りに部屋に戻った。
昨日のうちに今日必要な物は用意してたからそのまま鞄を持ち上げまた1階へ降りる。
そこにはお弁当を持った司兄さんが立っていた。
今日も二人分。
「ほい弁当。杏里ちゃんの分もな」
「ありがとう」
「車には気を付けるんだぞ」
「はーい。行ってきます」
家の扉を開けて外に出る。
学校までは20分ほど歩いて着くが、幼馴染の杏里を起こすために少し寄り道。
杏里が住んでいるのは二軒跨いだアパートに住んでいる。
両親を亡くし、親戚の家に引き取られる予定だったのにそれを蹴ってまで一人暮らしを選んだ杏里。
俺には想像もつかない選択だった。
当時杏里は中学2年。
親戚も嫌な顔をしてたらしく、好きにしろと突き放したらしい。
それを見かねたうちの親が、なら私たちが養子として引き取りますと言ったらしい。
らしいと言ってるのは全部の事は知らないからだ。
そんな杏里はうちの親に頭が上がらなく、高校卒業後は就職してお金を返していくと豪語している。
本当に俺には想像もつかない選択だ…。
周りの人間は俺とは違う何かを持っていてそれを妬んでいるのかもしれない
そう考えているといつの間にか杏里の部屋に着いた。
合鍵で扉を開け部屋へと入っていく。
いわゆる1DKの部屋で手前がキッチン。奥が7畳の部屋になっている。
「おい杏里起きろ」
「遅い!!」
いきなり怒鳴られる。
杏里はすでに起きていて腕を組み仁王立ちで部屋の真ん中にいた。
部屋にはベットと小さなテーブルとパソコンとタンスが置いてあるだけである。
実にシンプルであり、必要最低限のものしか置いてないのが分かる。
「遅くはないだろ…と言うかそんな早く起きてるならこっちの家に来いよ…司兄さんいつも朝食一緒に食べたいねって言ってるのに」
「司さんには迷惑かけたくないの!」
杏里はそう言って自分の鞄を持ち、部屋を出ようとする。
それに続いて俺も外に出る。
鍵を閉め、一緒に登校する。これがいつもの日常だ。