雪の降る晩に
初めて童話を書きました。拙い文章かもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
「マッチはいりませんか?」
彼女は今日もここでマッチを売るつもりなんだろうか?昨日も売れなかったのに?そんなに薄い上着で大丈夫なはずがないのに…今日は雪が降る。そんな天気なのに
「マッチは、マッチはいかがですか?」
私は彼女を見つめた。
手元にはお金なんてものはない。
「あなたも寒いでしょう。
私はもう、ダメみたいです。
また、明日…生きていたら会いましょう。」
ただ、私は彼女に惹かれていた。一心に頑張ろうとする姿に家族に押し付けられた役目を必死にこなす小さな身体に。そして、その優しい心に。
足元におかれたマッチ…たかがマッチだ。しかし、この箱の中には彼女の優しさがつまっている。
雪が舞い、地面を白く染めるけれど…彼女は粗末な上着とスカートを整えて立ち上がり、その裸足の足を踏み出していく。
その背中は酷く小さく見えた。
…助けねば
「やりましょう!」「あぁ、やるしかないだろう!」「行きましょう!」「彼女の優しさに報いるべきです!」「何をすればいい」
もぞり、もぞり
ぼぁさぁああっ!!!
雪を退かして立ち上がる
(((よし、やるぞ!)))
チリーン、チリーン
杖の音を響かせて
ずしん、ずしんっ
足音を踏み鳴らし
六人は歩き出す。
救済のために
懐に入っているお金は駆けずり回ってもらってきたものだ。泥臭いかもしれない、だからなんだと言われるかもしれない。
ずしんっ、ずしんっ
それでも我々は止まらない。
ずしんっずしん、ずしんっ
近所にいる仲間達に声をかけ、話を聞いた。
このままだと年が明けてしまうだろう。
ずしん、ずしんっずしん…
進め、進め
ずしん、ずしんずしん
味方を増やした大行列
ずしん、ずしんずしん
町中の仲間を集めて
ずしん、ずしんずしんずしん
となり町の仲間を集めて
ずしんっずしんずしん
月明かりが彼女の家を照らしている
ずしんっずしんずしんずしんずしん!!!
我々は
駆け出した。
ずんずんずんずんずんずんっ!!!!
質量は…武器だ。
ずんずんずんずん…ずどぉおおおんっ!!!!
木製の扉など、木っ端微塵にできる。
「そこまでだ!」
私は叫んだ。
老婆が彼女に突きつけていた棒を素手で弾き飛ばし、杖を老婆の首筋に突きつける
チリーーン
「何だ、なんなんだお前達は!?」
ヒステリックな声でわめく老婆を取り囲む灰色の影。町中から集まって来た仲間達だ。
背が高いもの、低いもの、苔のついたもの、家を囲むもの、出口を塞ぐもの…。
「「「地蔵だよ!」」」
「…はぇ!?」
驚く老婆。彼女も彼女なりの理由があってこの少女をいじめていたのだろう。まぁ、纏っている黒い靄が原因だろう。老婆に見えるこの女性は驚くことに少女の年の離れた姉だと言うのだから相当質の悪い悪魔に憑かれたに違いない。
「「なむなむなむなむ」」
「な、なんだぁ…うっ!」
知っている。彼女は元々は優しい人間だった。彼女も昔、あの場所でティッシュを配っていた。炎天下の中、汗を流しながら“てぃっしゅはいりませんか”と声をかけながら必死に配っていたのだ
「「なむなむなむなむなむ」」
全ての人を救わねば
「「「なむなむなむなむなむなむ」」」
彼女の身体を返しなさい!
「「「なむなむなむなむなむなむなむなむ」」」
救済は悪人にも善人にも聖人にも下朗にも全ての人間に平等に与えなければなりません。
「「「「なーむなむなむなむなむなむなむなむっ!!!」」」」
弱った女性に取り憑いて狂わせる悪魔など、この手でねじ伏せてくれようぞ。
「ぅあ、あああ…」
彼女の口から黒い靄が出てきて老婆の形に変わる
「よ゛く゛も゛や゛っ゛て゛く゛れ゛た゛な゛ぁ゛っ!!!」
「黙れ、下朗!」「逃げ道はどこにもないぞ。おとなしく元いた場所に戻りなさい!」「そうだそうだ!」「帰れ帰れ!」
「くそぉ、くそくそくそぉっ!!!
お前らみたいな石ころなんて消し飛ばしてくれるわぁぁ!!、」
悪魔の持つ大型ナイフを杖で防ぎ、全力で弾き返す。
「なむなむなむなむ」「なむなむなむなむ」「なーむなむなむなむっ!」「なぁむなむなむなむっ!!!」
部屋全体が仲間達の溜め込んだ力によって明るくなっていく。
「うぐぁあ!?」
壁に悪魔を叩きつけ、杖を突き刺してそのまま壁に縫い付ける。
「「「「破ぁあああっ!!!」」」」
身体に纏っていた力を悪魔に向かって発射する。
「ぐるぅあぁあぇあああっ!!!」
大ダメージを受けてよろけるが、倒れない。それどころか杖を引き抜き、投げ捨てた。
「く、修行不足か!」
破魔といったら何だ?
炎か!
「うぉおおおお!!!」
暖炉に悪魔を蹴り込み
「今だぁっ!!!」
私はためらいなくマッチを擦り、暖炉に放り込んだ。
ド ゥ ー ンッ!!!
「お、お姉ちゃん?」
あれだけのことをされておきながら姉をするとは…非常に心優しい子なのですね。
「大丈夫、眠っているだけですよ」
老婆のようであった姉の白髪は銀髪に戻り、曲がっていた背中も伸びました。
「あなたは大丈夫でしたか?」
できるだけ優しく微笑みながら少女に手を差し伸べる。
「えぇ、でもお地蔵さんは怪我をしてしまいました…」
「心配しなくてもいいのですよ。こんな傷、唾つけとけばなおります。そんなことより、私たちはマッチを売ってもらいながらお嬢さんにお代を払うのを忘れていました。支払いが遅くなって本当にすみませんでした」
軽く頭を下げつつ、仲間にハンドサインを送る。
ズルズル、ズルズルッ!
「これ、利子もつけておいたので気にしないでくださいね」
「…え?!」
驚き過ぎて口が飽きっぱなしになっている少女を見て笑いそうになる仲間の口を押さえつつ、私自身の笑いをこらえるのにも苦労した。
「それではこの辺で…御仏のご加護のあらんことを」
夜明け前に我々は戻らねばならないことに気づき、帰りは駆け足で戻ることにした。
ずしんっずしんずんずん
走れ走れ夜が明ける
ずしんっずしん、ずんずん
駆けろ駆けろ雪道を
ずしんずしん、ずんずん
「え、あっあの…」
颯爽と去っていったお地蔵様達が持ってきたソリには暖かそうな布団に洋服、金貨にお米…年を越すには充分すぎる品物の数々が積まれていました。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん…私のお姉ちゃん」
私は真っ先に暖かそうな毛布を取りだし、お姉ちゃんが運ばれたベッドに持っていきました。添い寝なんて久しぶりです。
「わぁ、贅沢だなぁ」
月が沈みかけ、真っ赤な空からの日の光が雪に反射して幻想的な風景を醸し出していました。
「お姉ちゃん、大好きっ」
私はどんなお姉ちゃんでも好きだけど、やっぱり“ 普 通 ”のお姉ちゃんが好き。暖かくて、優しくて…そんなお姉ちゃんが帰ってきてくれたのに眠くてしかたがない。
「おやすみ、お姉ちゃん」
そう言って私は目を閉じた。
少女達が眠りにつく頃、地蔵達も途中で何人か転んだが無事に自分の持ち場に戻ることができた。息も切れ切れな彼らではあったが、一種の達成感のようなものを噛み締めていた。
ずしんっずしんずんずん
夜分遅くに
ずしんずしんっずんずん
町中に
ずっしんずしんずんずん
足音が響いていたという
そんな晩は彼らの行列ができていたのかもしれない。もしかしたらパトロールだったのかもしれない。
踏み固められた雪は何も教えてくれないけれど、近くの寺の和尚は言った。
「地蔵さまが荒ぶっておられる…」と
踏み固められた雪は何も語らない。しかし、朝焼けに照らされる雪はとても美しく、神々しいものであったという。
雪降りの元旦、踏み固められた雪は何も語らない。
真夜中に響いた足音の主達だけが物語を知っている。
お読みいただき、ありがとうございました。