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45話 高尾山の遠足(2)


「───ということで津田先生はケーブルカーで一足早く麓に下山させたわ」


「……駅までかなりの道のりがありますが、大丈夫でしょうか」


「男性の石井先生を見送りに行かせたから途中で倒れても大丈夫でしょ。他にも具合の悪い生徒たちがいたから津田先生はその子たちと一緒に麓で待機ね」



 津田先生の扱いを話し合う緊急会議から戻った篠原先生が、疲れた顔で俺に会議の結論を教えてくれた。かなり雑な感じだが一応問題は解決したみたいなので、俺もようやく昼飯が食える。津田先生には悪いが、俺のことを待っていてくれるクラスメイトたちはまだ弁当お預け状態なのだ。みんなに礼と謝罪をしてから“いただきます”をする。



「わぁっ!姫宮さんのお弁当すんごい美味しそう!」


「手鞠寿司に……何このコロッケ、カニのハサミが付いてる!」


「食べていい!?ねぇこれ食べていいよね、アリスちゃん!?」


「はい、どうぞお好きに召し上がってください」


『やったぁぁ!!』



 俺渾身の“美味そうな弁当”にクラスの視線は釘付けだ。手鞠寿司は飾りつけに30分近くかけただけあってとても華やかに仕上がっている。みっちゃんが1個だけと自重してくれたおかげでクラスのみんなにちゃんと人数分行き渡りそうだ。小さいおにぎりみたいなものだから味見感覚で手軽に食べられる。

 だから自分の弁当箱に仕舞うな、食え。ナマモノだぞ。


 みっちゃんなっちゃん以外誰も食べてくれないので常識人枠の篠原先生の方に目を向ける。先生は一口齧ったカニ爪コロッケを何やら熱心に見つめていた。美味しいだろ、それ?揚げたてはもっと美味かったけどな!



「姫宮さん、貴女このカニのハサミのコロッケ……もしかして手作りなの?」


「え、あ、はい、おっしゃるとおりです。冷凍の既製品は添加物が少し不安でしたので」



 清楚系完璧美少女メインヒロインが冷凍食品を自分の弁当に仕込む訳ないだろ。安心と信頼の愛情手作り弁当です。ノベルゲーの常識である。

 まあ冷凍の方が普通は美味いし、最近は体にいいのも増えて来てるんだけどね。



「……貴女ウチに嫁に来ない?」


「はい?」



 コロッケをあげた三十路女性から突然プロポーズされた。



「なっ!ずるい篠原先生!アリスちゃんは誰にも渡さないんだから!」


「美奈のでもないでしょうが!愛莉珠はあたしの嫁よ!」


「わたしも!わたしも姫宮さんの旦那さん立候補していいですか!?」


「あの、私は同性愛者では無いのですが……」



 いつの間にかクラスの嫁になっていた愛莉珠ちゃん12歳。あと若干1名えらく真剣に食いついて来るロリ美少女がいるんで、怖いから少し離れた席に移動しますね。コソコソ……


 しかしこうしてみるとやはり男女の食事風景って結構違うな。女子がスキンシップを取りたがるのは今までに身をもって覚えたけど、紫藤広樹時代の同姓の同級生とは絶対に出来ない付き合い方だ。この姿になってほとんど縁が無かった男子の食事風景を見てもその違いがよくわかる。

 姦しい少女たちの壁の隙間から、奥の男子グループをぼんやりと眺める。こうして同じピクニックシートの上で飯を食うほど異性の同級生たちとの物理的距離が近付いたのは初めてかもしれない。特に最近は女子勢のガードがキツくて俺の周りから男の存在がほぼ消滅しているのだ。今も俺の周囲を20人近い女子たちが取り囲んでいるし。

 目の前の男子中学生たちの年齢は12、3歳。流石にまだガキと言っていい年齢だ。記憶にある男子高校生の昼食風景とは全く違う。あの懐かしい男臭さもしないし、何よりテンションが軽いというか活発な感じがする。忙しなくて、とにかくじっとしていられず、すぐ席を立ってウロウロし始めている。動物園のサルと変わらんわ、アレ。

 面白いのがそんなサルに混じって何人か静かに弁当を食べている子がいて、側ではしゃぐ同級生を睥睨しながらワザとらしく鼻で笑ったりしているのだ。おまけにそういうニヒルな子に限って横目で俺のことをコソコソ見てくる。あ、今も俺に目を向けて来た。

 わかる。俺にはわかるぞ。あれは我々中学生が患いやすい“あの”精神病の兆候だ。少し大人びた子供が周りのガキ臭い同級生と自分との精神的成熟度の差に気がついて優越感を感じてしまうことから始まる、例のアレである。そしてその優越感が“他のガキとは違う俺ってカッコいい”の勘違いにつながり、ついかわいい女子の前とかでクールぶってしまうのだ。イカンな、あそこまで症状が進んではもう早期治療は不可能だ……


 そんな俺の哀れみの籠った視線を感じ取ったのか、クール(笑)少年こと鈴木君がこっちを振り向いた。一瞬驚いた顔をしてバッと顔を逸らしたクール・鈴木は赤面のホット・鈴木になっていた。何か見てはいけないモノを見てしまった気分になった俺はちらちらこちらに目を向けてくるホット・鈴木に、たっぷりの同情心と先達としての忠告を込めた苦笑を返した。


 ───少年、聞こえますか?今あなたの心に呼びかけています。一匹狼は実は全くモテないのです。モテてもそれは“*ただしイケメンに限る”が付きます。手遅れになる前に社交性を見に付けるのです。

 身嗜みに気を使い、笑顔を心がけ、常に優しくしてあげれば、普通の女子は余程あなたが顔面ブルドーザーでない限りは好意を持ってくれます。特にその子に“だけ”は特別優しくしてあげると高確率で相手もあなたのことを気にするようになるでしょう。共通の知り合いの女子に勇気を出して恋愛相談をすれば、いずれ彼女もその知人を介してあなたの想いに気が付くでしょう。相手が自分に好意を持っているという事実は、その子の心を大いに揺さぶるはずです。後はデートにでも誘って告白すれば大体成功します。

 ただクールぶっているだけではダメなのです。ニヒルはもっとダメです。クールだけど優しい。そんなギャップがある男子は特にモテます。クールぶりながらもモテたいなら、女子に優しくなりなさい。女子に優しくなりなさい───



 そんな想いの籠った俺の苦笑を見た瞬間、赤い顔のホット・鈴木は息を呑んだまま固まった。自分の箸から美味そうな唐揚げが零れ落ちても全く気付かず、リンゴみたいな顔で俺をガン見したままフリーズしている。どうやらこちらに見惚れているだけで、俺の同情心と忠告は伝わっていないらしい。

 お前、この愛莉珠ちゃん美少女フェイスに見惚れてる暇があったら隣で水筒開けようと悪戦苦闘してる女子を助けろよ。ほら、俺が手本を見せてやる。



「矢沢さん、水筒や瓶物はフタを軽く叩くと空気が入って開けやすくなりますわ。お借りしても?」


「ふえっ?あ、は、はいっ!」



 傷が付かないようにハンカチで側に落ちてたみっちゃんのステンレス製スプーンを包み、水筒のフタを叩く。そして力を込めて回すとカポッと開いた。小さく感嘆の声を上げるY△ZAWAに水筒と一緒にパーフェクトヒロイン美少女スマイルを返す。



「ん……っ。はい、どうぞ」


「あっ、ありがとうございますっ!」



 ほらな、クール・鈴木よ。君と同じくらい真っ赤な顔をしたYAZ△WAを見たまえ。優しさと笑顔は同姓であっても効果的なのだよ。

 ……お前にこれが出来ていれば近い将来、元巨乳アイドルの娘が彼女になっていたかもしれないのに。逃がした矢沢さかなを遠くから指くわえて見てるだけの暗い青春でいいのか?このまま“クールな俺、カッコいい”なんて錯覚したままだとただのネクラ野郎になるぞ?





「アぁリぃスぅちゃぁぁぁん?」


「ッきゃ、い、いきなり何ですかみっちゃん!」



 クール・鈴木の灰色の未来に涙していたら突然視界が短髪糸目の少女の顔でいっぱいになった。ちょ、近い近い近い!あとほっぺにご飯粒付いてる!お前はもう少し女子力を磨け!



「ナツミちゃん、左プリーズ」


「愛莉珠、ちょ~っといいかな?すぐ済むから一緒に来て?」


「え、あの、なっちゃん?」



 狼狽えている隙に今度は宮沢妹に俺の左肩をがっしり掴まれた。右は既にみっちゃんがホールドしている。

 何だこれ。



「美奈、さっさとこのスケコマシを奥に連れてくよ」


「うん。さぁアリスちゃん、いっぱいお話しましょーねー?」


「え、あ、ちょ……」



 JC2人にドナドナされるという男冥利に尽きるイベントを甘んじて受ける、外見清楚系パーフェクトメインヒロインの俺くん17歳。みっちゃんなっちゃんはどうやら俺に直接意見を言える人間としてクラス内でそれなりの地位を確保しているらしく、クラスメイトは誰も2人に逆らってまで俺を助けようとしてくれない。かといって俺が2人に抵抗すると絵面的に築き上げて来たイメージに反して見苦しくなりそうなので、素直に従うことにする。


 後ろから篠原先生のあきれた声が聞こえた。



「アレは将来男に刺されるわね……」



 何だと、俺はいつでも俺に一途だろ!

 フィロソフィー!







***






「───さて、アリスちゃん」


「は、はい」


「物分りの悪い貴女に3度目の注意をしましょう」


「4度目よ、美奈」


「では4度目ということで」


「は、はぁ……」



 売店の外壁に詰め寄られて女子中学生2人に壁ドンを受けている超絶美少女がいる。他ならぬ俺のことだ。

 いや、確かに状況は壁ドンに間違いないのだが、している2人が両方とも俺より背が低いので圧迫感が皆無だ。宮沢妹に至っては俺の肩までしか伸長が無い。そんなロリ美少女にジト目で見つめられているのだ。ついその柔らかそうな髪をした頭を撫でてしまったのは不可抗力である。


 なでなで……



「んに゛ゃっ!?にゃ、にゃにするのよっ!」


「んなっ!ア、アリスちゃん!?」


「あ、あら、ごめんなさい。母性本能?をくすぐられたと申しますか……」


「なっ、こっ、子供扱いするにゃぁ!」


「ずるっ、ずるい!わたしも撫でてアリスちゃん!」


「えっ」



 左には猫化して暴れる赤面ロリ、右には頭突きを繰り出して“頭を撫でろ”と言って来る猛獣。流石は桜台動物園。津田先生抜きでもこれほどのカオスが出来上がるとは。

 とりあえず右のパキケファロサウルスを大人しくさせるために頭を撫でてあげる。左の猫と違って髪が少しごわごわしている。おい、女子ならちゃんと手入れしろみっちゃん。え、してこれなの?そ、そうなんだ、ごめん……



「ふぁぁ……アリスちゃんのお手々、優し~……」


「なっ、ちょ、ちょっと美奈!」


「───ッはっ!ち、違うの!頭撫でて欲しくて3人きりになったんじゃないのぉ!」


「あら、そうでしたの?“ずるい”とおっしゃられてたので私はてっきり……」


「っだああぁ、もうっ!話進まない!」


「そっ、そうだよ!だからアリスちゃん!聞きなさい!」


「……最初から拝聴しておりますが?」



 すったもんだの騒ぎの後、目の前の少女たちの上がった息も落ち着き、ようやく2人は話し出す。もっとも、その内容は話というよりは叱咤に近かったが。



「あのね、アリスちゃん。前にわたしたち、アリスちゃんがどれだけ美人でかわいいか話したよね?」


「え、ええ。とても嬉しかったわ、ありがとう」


「っ、そっ、そうだけどっ!いやそうじゃなくて!」


「……ねぇ、聞いて愛莉珠。あたしたちは愛莉珠のガードがまた緩んでるって伝えたくて人の少ないココに呼んだの」


「はぁ……」



 ガードが緩んでいるとは不本意極まりない。全くの誤解である。

 俺が一日のうちに男子と会話する回数は多くて3回。英語や理科などのグループワークでも個人的な話題は何一つ出していない。せいぜいが席が近い遠足班員の黒髪少年や、上級生の宮沢兄ことブレイヴ先輩たちと世間話をする程度だ。愛想だって親しい友達以外はほぼ平等に振舞っている。特別な感情を想起させる態度や会話、ボディコンタクトなどは一切していない。男子の憧れる“誰にも優しい完璧美少女”を演じ切れている自負が俺にはある。

 通学時も防犯グッズ完備に加え、みんながかわいさを求めて丈を短くするなか、俺一人だけ痴漢対策のフルスペック状態である膝下丈のセミロングスカートに黒タイツを穿いているのだ。まあこれは○ら孫の羽衣狐さまっぽくてかわいいからいいんだけど、俺だけ制服おしゃれの幅が少ないのは悲しいんだぞ?何せ今の俺の姿は我が初恋の超絶美少女のもの。周囲の有象無象に存分に見せびらかして自慢したい心を抑えるのは大変なのだ。

 それにおしゃれ抜きでも、暑い夏に折角の女子の特権であるミニスカートが穿けないのはあまりにも不公平であると俺は考える。みっちゃんも他の女友達も夏の涼しさこそ女子制服の真価だと言っていた。この愛莉珠の体で真夏にミニスカなんて穿いたら怖くて電車なんてとてもじゃないが乗れる気がしない。

 ……何か痴漢と制服のグチになってしまった。


 まあ要するに俺に過失は一切ないってことを言いたかった。



「……紫藤くんに助けて頂いた件でお2方のおっしゃられていたことは身を持って理解致しました。もうあのようなことは決して起きないようにと常に気をつけております」


「いやそんなに胸張って言うほどのことじゃないっていうか、女子として当たり前っていうか……」


「なぁんかアリスちゃんって自分に対して根拠のない自信を持ってるんだよね。“私は何があっても大丈夫”って無意識に信じきってるっていうか」


「それもあるし……媚びてる感じじゃないんだけど、愛莉珠って誰にでも笑顔で優しいから勘違いする男子の数がヤバいのよ」


「あ!あと男子の好きな話題に詳しいのもちょっとダメだと思いますっ!」


「そうそれ!外見も内面も全く釣り合わない高嶺の花なのに、そういう親しみやすい数少ない隙がやけに致命的で大きいのよ。愛莉珠は」


「はぁ……」



 い、いや俺って元男子だし、男子の話題に詳しいのは当然っていうか……。それにこの超絶美少女がモテるのは最早常識だし、一々気にしてたら俺がストレスでマッハだ。

 まあ、あのナンパ兄ちゃんたちの件以前は自分が男に襲われるとか正直想像出来なかったけど、最近はテニスやってる時とかで自分の身体的限界をよく理解したぞ。もうあんな無様に尻もち付いて震えるままの俺じゃねぇよ。大正義防犯グッズ。



「お家も一人暮らしみたいなモンだし、“何でも自分で出来る”って思っちゃうんだろうけどさぁ。実際男に無防備ってコト以外は完璧だし」


「そうそう、愛莉珠って凄い頭いいから逆にこういう、らしくない隙が余計目立つのよ。家庭の事情で大人びててしっかりしてるから、そこだけ妙に不自然なの」


「はぁ……」



 何やら好き勝手の俺の精神構造を分析している12歳児2人。まあ俺の中身が紫藤広樹くん17歳であることを悟られなければ何でもいいよ。あと俺のイメージを崩すようなこと以外。


 そんなふうにぼーっと2人の話を聞いていたら天才少女、宮沢夏美がかなり際どい分析をし始めた。



「……ちょっと失礼なこと言っちゃうけどさ……多分愛莉珠はさ、“いい子でいなきゃ”っていつも自分に無理してるんだと思うのよ、あたし」


「っ、そ……れは」



 む、この流れはちょっと拙いか……?パパンや鷹司先生さえ見抜けない俺の完璧な猫かぶりをコイツが看破出来るとは思えないが、精神科医の長井先生の前例もある。

 俺は悟られない程度に警戒レベルを上げた。



「この前読んだ本の登場人物の境遇が愛莉珠に少し似ててさ。父子家庭で子供はホントは悪戯好きの悪い子なんだけど、お父さんが仕事で居なくていつも家で一人なの。それでお父さんに褒めて貰いたくて心機一転して授業とか勉強とか友達付き合いとか沢山頑張るようになってさ」


「はぁ……」



 気持ちが昂ってきたのか、語りと共に身振り手振りを加え始める赤い顔の宮沢妹。その愛らしさに思わずほっこり。警戒レベルを少し下げる。



「でもその八方美人っていうかみんなにいい顔してることが気に食わない同級生に……虐められちゃってさ……。最後は……虐めの問題がお父さんまで行っちゃって……運悪く仕事の失敗で気が立ってたお父さんに見捨てられちゃってさ……」


「そ、そんな……うぅ、可哀想……」


「はぁ……」



 どうやら悲劇物らしい。内容を思い出してグズってる宮沢妹と、釣られて涙目になっているみっちゃん。こんな、その辺に転がっていそうなテンプレ悲劇系ファミリーストーリーに涙出来る女子中学生の脆い精神に驚いている俺である。

 確かに話の流れは俺、というか愛莉珠の境遇に良く似ている。でも俺が完璧メインヒロイン演じてるのは俺の自己満足のためだし、別にその本の登場人物に同情以上の感情は抱かない。本体の方の愛莉珠かパパンなら何か思うところはあっただろうけど。



「あだじ……ぐすっ、あたしこの本読んだときにまるで愛莉珠の自伝を読んでるんじゃないかって思っちゃってさ……」


「はぁ……」


「ううぅぅぅっ、アリズぢゃんはわるいごでもわだじのじんゆうだもぉぉんうわあぁぁん」


「え、えっと……」



 どうしよう、温度差が凄くて俺“はぁ”しか言ってないんだけど……



 しばらく2人を放っておいたら泣きやんだので、俺は出来るだけいい笑顔で自分がいかに幸せかを熱弁し、2人に感謝しながら今後極力男子に無差別笑顔テロをしないことを約束した。

 だが2人はまだ満足しておらず───



「男子にもだけど、女子も危険なんだからね!」


「特に矢沢さんの裏ファンク───グ、グループが最近調子に乗ってるみたいだし」


「えぇ……」



 ───そんな忠告をしてきた。

 そりゃアイツは先月のご家庭お邪魔イベントで元アイドルのYAZAW△ママ共々危険だということは理解してるが。

 女子にまで気を付けるって、俺学校のどこに心休まる場所があるんだよ……






***






 過保護すぎる親友2人の説教からも開放され、そろそろ荷物の準備を始めようかというところで空気を読めないみっちゃんがトイレに行きたがった。仕方が無いので宮沢妹と2人で外で待っていると、ふいに視界の外から黒い塊がにゅぅっと伸びてきた。



「……ん」


「?」



 俺の左胸に小さくすりすりしてくるその黒い固まりは、さらさらした黒髪をポニーテールに束ねた宮沢妹の頭だった。何だこれ、マーキング?



「なっちゃん……?どうなさったのです?」


「……別に……さっきはちょっと驚いただけだし……」


「……あの、もし?」



 問いかける俺に呼応するように、すりすりが早くなる。獣じみたその摩訶不思議な行動にぽかんとしていたら、宮沢妹が焦れたのかマーキングを止めてもぞもぞと顔を上げた。

 少し前までベソをかいていたせいか、涙目になったままのロリ美少女がそこにいた。



「なっ、撫でたかったら……撫でてもいいのよ……?」


「!」





 ……パパン、この猫ウチで飼っていい?



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