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19話 ボキッ……!


 さて、この愛莉珠ちゃん12歳ボディに憑依してようやく1週間が経ったばかりという驚愕の事実は置いといて、改めてこれまでの衝撃的過ぎる日常を振り返ってみた。


 状況確認にまず3日。

 学校では入学初日にみっちゃんと接触するのに成功し、続いて宮沢兄妹と有馬女子グループ連中、入学3日目には天下のYAZAW△とブレイヴ3の清水・但馬先輩、その他にも津田・篠原先生教師陣とも昨日の男鹿少年事件で親しくなれた。何気に保険医さんともお近づきだ。クラスではほぼ想定通りのパーフェクトヒロインを演じられているはずだ。クッキーで多少は近寄りやすい空気も作れたはずだし、先生たちからの信頼も厚い。クラス分けも全て満点の特進クラスだし、愛想もちゃんと振りまけている。このまま行けば傍目はかなり俺の理想の美少女に近付くことが出来そうだ。

 学外ではお筝教室の受付の和服お姉さんとそのマッマの山本親子と知り合えたのが一番デカいかな。昨夜は山本お姉さんの手ほどきと俺のマジ過ぎる練習量のおかげもあって、パパンに“3日でこれは凄い”、と言わせられそうなレベルにはなったはずだ。



 また愛莉珠のビッチ化フラグ回避も順調だ。


 正直アイツの秘密主義のせいで、実際の過去と俺がヒャッハーしてる今の世界がどこまで違っているのかわからん。だが現時点で想像出来るものは全て警戒できている。

 筆頭が愛莉珠の家庭問題だ。

 この孤独な家での生活は、親の愛情を既に十二分に貰って育った俺こと紫藤広樹の人並みに頑丈な人格のおかげで、本来の愛莉珠ちゃん12歳の人格の時よりは苦痛じゃないはずだ。実際1週間経った今でも時々寂しいと感じる程度で乗り切っている。パパンも酒が入ってなかった昨日の朝は普通にカッコいい父親だったし、愛莉珠のこの家庭問題はもうビッチ化フラグにはならないだろう。

 他に考えられるのは誰か第三者の悪人と関わってしまうことぐらいだが……ぶっちゃけ俺の正常(?)な精神でそういう連中と関わろうと思う訳がない。俺の理想は清楚系正統派のパーフェクトメインヒロインな美少女なのだ。この輝く美貌とスタイル(将来)を持っているのに、何故わざわざ社会的に生きるのが大変そうなビッチになる必要がある?俺は美容に勉強にピアノにお筝に作法教育(予定)と自分磨きに忙しいのだ。そんな何人もの男共と関わっている余裕はありませんわ!おほほ!


 …うん、順調な1週間だったんじゃないか?




 パパンの精神科イベントさえ無ければ。




 昨日の朝、会社の車っぽい黒塗りのセンチュリ○に送ってもらった際に後ろから投げかけられたあのパパンの頼みごとは“近日中に行こう”、ってことだったはずだ。一応昨日は流石に2日連続で家に帰ってくることはないだろうなって思いながらも晩飯のポトフは残しておいたんだけど、結局それも今日の朝飯になった。

 なのでlin○トークでこっちの不安を伝えたら、“来月頭の水曜日に有名医の病院に予約を入れた”と帰ってきた。仕事が早ぇっすよパパン。業界で名の知れた医者に診てもらうとか本格的過ぎてマジで大事になってるんじゃないかと不安でならねぇ。

 

 いや娘の中身が別人になってるって普通に超が付く一大事か。

 そうか。

 そうだな。

 当然か。




 そして、俺にとって超重要なもう一つの問題。


 そう、この世界における俺こと紫藤広樹とどう接触するか。


 一週間が経った今、俺の超絶美少女としての土台は出来つつある。欲を言えばお筝スキルとパパン紹介の作法教師に礼儀作法スキルを伝授してもらい、双方共にある程度上達してからからにしたかったが、そろそろ真剣にこの世界の俺のことが気になってきた。



 あれはつい昨日の話だ。忘れもしない…

 みっちゃんがクラス分け試験の後に、悩める俺にさらなるダメージを与えるべく俺の痴態を有馬の女子グループに暴露しやがった時のことだ……

 ヤツは言った。俺が俺(愛莉珠)のことを美人だと知ってから、“いつ愛莉珠をお前ん家に呼ぶのか”と熱心に尋ねてきたと。


 俺は驚愕した。なんと言う猿!盛りの付いた猫!健全な男子中学生!

 いくら俺でも流石にそこまで酷い訳がない。絶対に何かの間違いだ。みっちゃんの陰謀だ。そうに決まってる。俺は絶対に信じない。



 だが……

 だがもし、もしヤツの言うことが全て本当なのだとしたら……


 俺(愛莉珠)はこの世界の俺を教育し直さなくてはならない。

 そう、余計な黒歴史を生産する前に……!



 いや、つか流石にねぇよな…?この世界の俺よ。

 まだ見ぬ幼馴染の美人な友達を想い発情するって。おまけにみっちゃんに本人の予定を恥も知らずに訊いて来るとか、一世一代レベルの痴態じゃねぇか!

 い、いくら近所の幼馴染にナニってるところを動画で撮影された残念な中学時代の俺だとは言え、流石に将来の恋人との馴れ初めをガッツリ把握されるとか。俺もう一生みっちゃんに足向けて寝れなくなっちまう。

 俺の部屋、寝る時もろアイツの家の方角に足裏が向いちゃうんですけどね!不可抗力!



 ど、どうしよう。なんかめっちゃ不安になって来た。


 え、流石に大丈夫だよね?俺そんな恥知らずじゃないよね?ちょ、ちょーっと軽度な中二病ってだけだよね?

 ね?




 ま、まあそんな訳で愛莉珠のビッチ化フラグ以上に、精神科とか、現在絶賛黒歴史製造中のこの世界の俺のこととか、まだまだ悩みは尽きない可哀相な愛莉珠ちゃん12歳の旅はまだまだ続く……







***







 ポンポン、と電車の中で誰かに肩を叩かれた。んだよ今、日課の電車内お筝イメトレに忙しかったのに……

 俺はイアホンを耳から外して振り向いた。



「おはよ!アリスちゃん!」



 なんだみっちゃんか。またどこぞの野郎に絡まれたのかと。

 い、いやブレイヴ先輩はいい出会いだったんだけどね?ほら、初対面時の印象がただのチャラ男だったからさ。



「おはようございます、みっちゃん。昨日は大変お世話になりました」


「むふふ~アリスちゃん。昨日の勝負、ウチのお母さんの電話の方が早かったみたいだったよ!ナツミちゃんに会ったら全力でドヤ顔してやるんだ~」


「勝負……?」



 何のこと?



「あっ、い、いや何でもないの。わたしの親友としてのプライドってやつよ!どやっ!」


「……?」



 何言ってるのかさっぱりわからん。

 まあコイツは元の世界でもここの世界でも、どこか頭のネジが飛んでて普通じゃなかったからな。無理して事情を聞いても逆にわからなくなるだけだ。宮沢妹との身内ネタとかならヘンに首突っ込まないほうが双方の心の平穏のために良いだろう。


 ただな、みっちゃんよ。宮沢妹は特殊な性癖を持っているぞ?そんな“どやっ!”とか可愛いことヤツの前でしてると危ないぞ?



 でもそうか、親友と言い切るか。中々あのレズと仲良くなったみたいだな。

 宮沢妹は選民思想を親に仕込まれそうになってるって自分で言ってたんだが。みっちゃん、中学受験の時にそういうガチ勢の社会に振り回されたからアイツとあんま気ぃ合わなさそうだったけど、よかったじゃねぇか。


 ……将来“恋人”とか言い出さないでくれよ?




「そうですか。宮沢さんと“ほどほどに”、仲良くしてくださって私も嬉しいです」


「───ッ!?ほ、“ほどほどに”って……っ!そっ、それってアリスちゃん!まさか───嫉妬……!?嫉妬なの!?ねぇねぇねぇ!」




 ……んん?


 嫉妬……?嫉妬ってどゆこと?


 何故か顔を高揚させて俺にずずいっと迫ってくるみっちゃん。なんか笑顔がとてもウザい。この顔をしてる時のコイツは大抵碌なことを考えてない。思わずぶん殴りたくなる衝動を俺の美少女力で押さえ込む。


 つか文の主語が抜け落ちててどういう意図で言ってんのか全然わからん。

 何故にその文脈で“嫉妬”、なんて単語が出て───あ、なるほど。



「大丈夫ですよ。みっちゃんは優しくて優秀なステキな人ですもの。他人と比較などしなくても、そのままの貴女で十分魅力的だわ」


「───ッうぇっ!?みっ、みりょ……っ!?」



 ……わかるぞ、宮沢妹は勉強出来るし顔も可愛いからな。おまけにあの発言についても俺だけじゃなく、わざわざお前にまで謝りに行くような良いヤツだし。ちょっとくらい嫉妬しちゃっても仕方が無いよ、うんうん。


 で、でもみっちゃんだって、その……しっ、親しみやすい感じだしな!

 顔も、その、ブ、ブスって訳じゃないけど……ほ、ほら!あ、愛嬌?とかがあるし!

 えっと……だから……



 ……ガンバレ。




「えぅぅ……そんなこと言ってぇ…………。逆にこっちが恥ずかしくなっちゃうんですけどぉ……」


「あの……?」


「はぁ、ですよねー………。ったく意味深なこと言ってぇー、もぉー。アリスちゃんのいけず……」


「???」



 “ぶー”、と口を膨らませて拗ねるフグみっちゃん。慰めようとしたら何故か俺の評価が下がった件について。

 拗ねながらも、ちらちらとこっちを窺いながら何かを期待している素振りを見せて来る。問題ない、こういう時のために用意していたものがちゃんと鞄に入っているのだ。みっちゃんのご機嫌取りはこの世界の俺くん12歳の心の安然のためにも大事だからな。


 ほら、エサの時間ですよ~。



「えっと、みっちゃん……?」


「……」


「あの……昨日のクッキー食べます?」


「……食べます」






 ……コイツマジでいつかお菓子くれる知らないおじさんについてったりしないよな?







***







「どぅうぇっへっへぇ~!ナッツミちゃぁぁん?昨日は残念でしたねぇ?」


「くっ……!で、電話とか卑怯だぞ!つか直談判させたあたしの方が絶対効果的だったし!早いモン勝ちなんて無効だ無効!」


「あの、お二方は何を───」


『こっちの話っ!』



 教室に入って顔を合わせた途端、みっちゃんと宮沢妹がじゃれ合い始めた。なんかロリ系の宮沢妹がぷんすかしてるとマジで小学校低学年生みたいだから、桜台の制服がなんかのコスプレみたいに見える。


 いかんな……”コスプレ”って単語を思い浮かべただけで昨日のあのYAZAW△邸での出来事がフラッシュバックする。そして後ろの扉の席付近から感じるねっとりとした視線が大変気持ち悪い。

 

 やだなぁ、近くに行きたくないなぁ……




「……矢沢さん、おはようございます。昨日はお忙しい中色々とお世話になりまして、大変ありがとうございます」


「お、おはようございます!姫宮さんっ!きょ、今日もステキですね……っ!」


「えっ、あ、ありがとうございます……?」



 とりあえず最低限の礼儀として挨拶と昨日の感謝を伝えに行ったら、案の定ただの変態だった。制服の下の俺の身体のラインを想像して、そこに更にあのコスプレ衣装を纏わせる妄想をしているのだろう。この超絶美少女顔と交互に見ながらデュフフフとよだれ気味に気持ち悪い笑みを浮かべている。

 俺のこの愛莉珠ちゃん12歳ボディはまだ発育途中でちょっとBくらいまで胸が出てきた程度なんですけど……


 最終的にボンッ!キュッ!ボンッ!スラッ!になるこの身体を知ってるせいか、今の未熟な状態でヘンなこと妄想されると凄い嫌悪感を覚える。ぜひ止めて欲しい。



 ……つかこの時点で既にみっちゃんの最終形体より恵体なのよね。




「あ、矢沢さん!」


「え、あ、おはよう小西さん、宮沢さん」


「矢沢さんのお母さんはいつ学校行ったの!?何時!?」


「えっ」


「ウチのは5時に電話したもん!」


「ウチのモンペは5時半に直接殴りこみに行ったんだから!」


「えっ、えっ、モ、モンペ……?」



 なんかみっちゃん宮沢妹コンビがYAZ△WAに絡み始めた。

 お前らまだ言い争ってたのかよ。


 つかさっきから言ってたその内容って昨日の保護者学校カチコミ計画のことだったのね。何の話かと思ったわ。

 2人で競争とかしてたのかよ……



 ママンの皆さん、ご、ご迷惑お掛けしてすんませんっした……




「でも結局あの後どうなったの?アリスちゃん」


「お母さんは帰って来た時に“十分言い含めておいたから大丈夫よ”、なんて澄ました顔で言ってたけど」


「そ、それは頼もしい限りで……」



 あの写真の宮沢妹ママには後でお礼した方がいいな、これ。

 絶対怖いわ……



「実は私の父も学校側に働きかけてくれたそうで、その後は全て自分に任せるようにと言われまして……正直私もどのような決着が付いたのかはわかっておりません」


「えっそうなの」


「ええ、宮沢さんと矢沢さんにお礼を申し上げたら職員室まで向かおうと思っていたところですので。これから確認して参りますね」


「あ、ならわたしたちも一緒に行っていい?お母さんにもその後のこと報告しなきゃだし」


「あたしも事の顛末を伝えろって言われてますから」


「で、でしたら私も一緒に行きます!」



 おお、今度は生徒による殴り込みか。いいねいいね、効果が期待出来そうだ。

 

 でも津田先生はなんか心配だから篠原先生来てるといいな……








 その後、津田先生に聞いてもよくわからなかったので本命の篠原先生に聞いたら、どうやらパパンが校長通り越して私立桜台学園の理事長にまで直接話を持ってったらしく、男鹿康雄という生徒は正式に”退学”になったらしい。




 その日から俺のパパンへのご機嫌伺いlin○の回数が激増したのは言うまでも無い……




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