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プロローグ 謎の美少女の正体は誰だ

初投稿です、宜しくお願い致します。


読者さまよりアドバイスをいただきまして、プロローグを作りました。

お楽しみいただければ幸いです。


「つっ、つつ付き合ってください!姫宮ひめみやさんっ!」



 斜陽の光を受け、燃えさかる炎のように紅く輝く錆びだらけの焼却炉。

 使われなくなった鉄の箱のみが見守る人気ひとけの少ないこの場所は、かつてより男女の逢瀬の場として代々学園に通う生徒たちに広く伝わっている。ここに想い人を呼び出す少年も、呼ばれる少女も、皆共に自分の心に灯ってしまった初々しい想いをぶつけ合う。


 ある男女は夕日に照らされ長く伸びた2つの影をひとつにし、またある者はその謝罪の言葉を己の甘酸っぱい思い出として後生大事に胸の内に飾っておく。




 旧校舎裏の焼却炉。


 良家の子女たちも通う私立桜台さくらだい学院・中等部の恋の女神が宿る、生徒たちのスクールラブの聖地だ。



 そして今日もまた、女神の審判を受けに一組の男女がその地を訪れる────




「……申し訳ございません。黒神くんのお気持ちにお答えすることは出来ません」


「────っぁ……」




 ……どうやら此度の少年少女にとってはほろ苦い思い出になりそうだ。




 陳謝に下げた頭を起した少女の顔は、美しかった。


 艶やかに輝く長い黒髪は鴉の濡れ羽色。大きな紺碧の双眸は真夏の青空よりも深い蒼。白磁の如く透き通った柔肌は羞恥ゆえか、はたまた沈む太陽に照らされたか、淡く朱に染まっている。


 麗しく清楚な乙女がその美貌に浮かべているのは、精一杯の謝意の表情。申し訳なさそうに俯き首を竦め、薄い両眉を山形やまなりに傾斜させるその儚げな美少女は、例えいかなる罪を犯したとしても許されてしまうだろう。


 事実、一世一代の勇気を砕かれた目の前の少年も、彼女のその顔に万感の思いで見惚れている。自分のこれまでの葛藤がとても些細なものに思えてしまうほどに、彼が独占している目の前の、夕日の中の美しい少女の姿は、自身の心のアルバムに飾られる大切な宝物になるだろう。



「っあ、ああ、い、いえっ!だっ、大丈夫です!僕なんかが姫宮さんと、その……。たっ、ただどうしても押さえ切れなくて……伝えて、しまっただけですから……」



 その言葉に少女はその潤んだ目元を再度、詫びるように伏せた。告白してくれた彼に何と声をかけたらいいか迷っているのだろう。

 心の底から彼女の虜になっている少年は、そんな悲しむ少女にいつもの柔らかな笑顔を取り戻して欲しくて、何とか自身の貧弱な語彙を総動員して彼女を慰めようとする。


 ある意味最初と全く真逆な立場になってしまった初心な2人がそこにいた。



「……それほどまでに私のことを想ってくださったのですね……。ッ、ごめんなさい……こういう時にどのように陳謝すれば良いか────」


「っうぇっ!?あっ、ああっ、べっ、別に姫宮さんが謝ることなんて……!ぼ、僕の勝手な気持ちっていうか!ぎゃ、逆に迷惑かけちゃって、ごっ、ごめんなさい!」


「黒髪────黒神くろがみくん……」



 だが少年の慰めは両者の間に気まずい空気を作るだけで、ついには旧校舎裏の焼却炉に木霊する人声は無くなってしまった。初心な2人は沈黙し俯いたまま、少しずつ水平線の向こうに沈んで行く斜陽の闇に飲み込まれて行く。

 ただ時間だけが過ぎて行く。


 そんな無音の空間に彩りを与えたのは、少女の鈴の音のように美しい声で────紡がれたのは少年にとってあまりにも残酷な一言だった。




「……私には、将来を約束した殿方がおります」




 ……ぇ


 一瞬、少年は少女の小さな桜色の唇から零れたその言葉を理解出来なかった。そして先ほどの一言を脳内で反芻するたびに、序々に心に、頭に染み渡るように理解が追いて行く。



「…………ぁ」



 思わず、といった風に少年の口から会心の声が漏れた。



「そっ、それってつまり……こっ、婚約者が居るってこと……ですか……?」


「……いえ、婚約者ではございません」


「……えっ?じゃ、じゃあ好きな人……ってこと、ですか?」



 少女はその問いには答えない。だが少年には彼女のその沈黙が何よりの答えだった。



『学園のアイドル、姫宮ひめみやに想い人が居る』



 その事実に少年は────黒神くろがみタカシは驚愕した。




 姫宮愛莉珠。


 中学1年生にして学園中の────中等部どころか校舎まで異なる高等部の生徒たちまで魅了する、絶世の美少女。輝かんばかりの美貌と、年不相応なほどの豊満で女性的な躯体、礼儀正しい口調に良家のお嬢様然とした瀟洒な物腰。音楽、運動、勉学に至るまで一切の隙はなく、全ての試験で満点を固持している完璧な人間。そんな絵に描いたような清楚なご令嬢である彼女は、世界に冠たるPRINCESSグループの主力部門である化粧品類部門を牽引する若き御曹司、姫宮慶一の一人娘だ。

 “桜台の生徒は誰もが一度は彼女に恋に落ちる”、とまで言われる姫宮愛莉珠にはその知名度とは裏腹に、これまで一度たりとも浮ついた噂が流れたことがなかった。彼女を女神の如く崇める女子生徒たちの手によって、数多の男たちが阻まれてはその想いを心の内に押さえ込まれていたのだ。


 そんな男を知らない姫宮愛莉珠が、密かに想いを寄せていた異性が居ただなんて……



「……は、昔……に酷いことをしてしまいました」


「……ぇ?」



 突然、愛莉珠が遠くを見つめながら話し始めた。



「私は彼に、幸せになってもらいたいのです」


「あ……の、それは……どういう────」


「……意味はわかってくださらなくて結構です」


「えっ……?」



 少年は、黒神タカシは困惑するばかり。先の発言は自分に伝えたかったことではないのだろうか。独り言、独白のようなものなのだろうか。



「……黒神くんはクラスメイトですし、席が隣同士で何かとお世話になっております。私のために何度もプリントを教卓から取って来てくださったことも感謝しておりますし、今もこれほど大きな想いをいただいてしまいました」


「えっ、あ、あの……」


「ですので、せめてそのお気持ちにお答え出来ない理由は申し上げるべきかと思いまして……」


「…………ぁ」



 愛莉珠の目は真剣だった。タカシはその眼差しに射抜かれて、ようやく彼女の言わんとしていることを理解する。



 彼女は他に想い人が居るから他の男と付き合うことは出来ない



 そのことに、少年は密かに安堵する。

 彼は自分が何か他人より秀でているものがあるとは夢見ていない。平凡な顔つき。平凡な学力。英数理社国5教科全てで特進クラスを受講し、ピアノにおこと、テニスまで上手なスーパーガールな愛莉珠とは真逆の存在。端から彼女の心を射止められるとは思っていなかった。


 彼女は、タカシの人となりは決して拒絶しなかった。


 何も出来ない貴方とは付き合えない!

 貴方は私には相応しくない!


 そんな残酷な言葉で拒絶された訳ではなかったのだ。


 自分の最低限の矜持は守られた。そうタカシは安堵し、優しい愛莉珠に礼を言った。



「あの……僕なんかに秘密を打ち明けてくれて……あ、ありがとうございます」


「……いえ、こちらこそ……黒神くんのお心を傷つけてしまい、申し訳ございません……」


「そっ、そんな!ぼ、僕の勝手な想いですからっ!」



 辛そうに顔を伏せる彼女に見惚れるそうになる邪な気持ちを追い払い、タカシは最後に自分の惚れた少女に良いトコロを見せようと、格好良く見栄を張った。



「えと、その……よ、余計なお世話かもですけど────そ、その好きな人と……その人に姫宮さんの想いが伝わるといいですね!」


「えっ」


「ぼ、僕っ!応援してます!それじゃあまた明日!」


「あっ────」



 自分から誘っといて勝手に帰るのはまずいかな、と思いながらも、やはり男が去るときは相手に自分の背中を見てもらいたいものなのだ。少年はそんな精一杯のプライドを胸に、今日の自分だけが知る姫宮愛莉珠の秘密と────夕日の中の美しい彼女の姿を、自分の大切な思い出として心の奥に仕舞い込んだ。



 それは初夏の肌寒い夕方の、旧校舎裏の焼却炉で描かれた3恋の一頁だった。







***







「だぁぁぁ……づがれだぁぁぁ……」




 都心のハブ駅を見下ろす摩天楼。その大きなマンションの一室にあるフレンチカントリー風の可愛らしい家具に囲まれたベッドにつっぷしているのは、桜台中学のワインレッドの制服を身に纏った一人の少女。



 先ほどの旧校舎裏にて男子の告白を受けていた────姫宮愛莉珠その人である。



 彼女はその幼さの残る蟲惑的な身体を惜しげもなくベッドに放り、倒れ付した。

 ぽふっ、とベッドのスプリングの上で跳ねるその華奢な姿からは想像も出来ないほどの品のない声が漏れ出ている。


 先ほどの可憐な乙女は一体どこに消えたのだろう。





「……なあんて、この姿を見た人間は誰でもそう考えるんだろうな」



 ベッドの上で寝返りをうった俺は天井のおしゃれなランプを見つめながらぼんやりとそう口にする。

 視界に入るように持ち上げた両腕は手折れそうなほどに華奢だ。毎日鏡で見るこの体も顔も、どこからどう見ても女の子の、それも飛びっきりの美少女のものである。

 こんな清楚で瀟洒なパーフェクトメインヒロイン娘の中身がこの“俺”だなんて誰も気付かない。我ながら完璧な擬態だ。




「さて────」




 やぁみんな!


 俺はしがない、どこにでも居ない唯一無二の完璧美少女!

 名前はひめみやだ、よろしくな!


 ついさっき、いつも俺のことをHRの隣の席から鼻息荒くガン見して来る黒髪の少年から、ついに告白されてしまったんだ。びっくりだ、今までてっきりそんな勇気なんか無いチェリーボーイかと思ってたからな。ガードを堅くして無言の拒絶オーラを漂わせてたつもりなのにまさか突破してくるとは、意外と将来化けるかもな!

 次の恋を応援してるぜ、黒髪────黒神くん!



 まあ不憫な彼のことはいい。まずは自己紹介だ。



 俺の本名は紫藤しとう広樹ひろき


 この姫宮愛莉珠の体の本当の持ち主の────元恋人だ。

 年はコイツと同じ17。愛莉珠があと”3年後の将来”に通うことになる、青嵐せいらん学園・高等部のクラスメイトで、交際機関はそろそろ1年になるところだった。


 そんな時に2人の関係を木っ端微塵にした愛莉珠のある裏切り事件が起きて、気付いたらこの体にすっぽり入っていたのだ。俗に言う“トランス状態”または“憑依”ってやつだろう、と俺は勝手に判断している。

 そんなファンタジーな体験を現在満喫中なのだ。


 ただどうやら俺の入れ替わりというか、成り代わりというか、転生というか、憑依みたいなものはどうやら少しだけ変わっている。


 実は俺、赤ん坊とか同じ時間の彼女に成り代わったのではなく、どうやら5年前の過去の愛莉珠の体に乗り移っちまったらしい。

 元の世界では同級生だった俺と愛莉珠は、今や精神体(?)の俺とは5年も年に差がある。当然か、過去に居るんだから。


 おまけにちゃっかり、この世界にも愛莉珠と同い年の“俺”自身が存在してる訳で、最初は大混乱だった。


 だが男子3日会わずんばなんちゃらかんちゃらとも言うではないか。数日したらすぐに慣れて状況を整理することが出来たぜ。ようは愛莉珠の人生を俺が自由気ままに生きればいいのだ。こんな勝ち組美少女なんだ。この外見だからこそ到達出来る、全男子の理想の女の子になってやろうではないか!



 もっとも、ただ我侭に行動することは出来ない。


 何故、こんなことが起きたのか。

 何故、5年前の過去の愛莉珠の体に憑依したのか。


 そして────何故、愛莉珠はあんな簡単に彼氏の俺を裏切る“ビッチ”になったのか。


 謎は多い。

 だが例えどんな理由があったとしても、俺のやることは変わらない。


 裏切り者の恋人を過去から乗っ取って、その外見に相応しい清楚系正統派パーフェクトメインヒロインな美少女として俺の好きなようにに育て上げるのだ!




 さあ待っていろ、この世界の俺くん12歳よ!


 この超絶美少女が、絶対に裏切らないお前の理想の女になって、今度こそアナタの理想の恋人になって差し上げますわ!



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