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12話 『姫宮さんありがと~』と試験の結果

「あっ、お~い!アリスちゃ~ん!おはよう!………………アリスちゃん?」



 まずい事になった。あの感じ、パパン絶対に何か俺の────というか愛莉珠の変化に気付いている。しまったな、パーフェクトヒロインを目指すあまり本来のアイツの姿を、身近な人間相手の前で再現することをすっかり忘れてしまっていた。

 


 昨夜の記憶が曖昧な、あのクッキーを焼いてうとうとしていた時間の後に絶対何かあったんだ。夜にパパンと一体何の話をしたんだ?ベッドに男が居た事実とか……パパンのダンディー男前な仕草に翻弄されて、あの時もう何話したのかさえ詳しく思い出せねぇ。家のドアが開いたトコまでは覚えてるんだが…………





「ぎゅうぅぅぅぅっ!」


「ッやぁっ!」



 な、何だ何だ!?

 何だいきなり!誰だ俺のこの美少女ボディに気安く抱きついてくる不届き者は!?

 おまけになんか俺、今凄い可愛い声出たぞ!?無意識とはいい感じに美少女に成り切っているぜ!


 いや待て!そもそもお前は何奴!




 ……いや、この慣れ親しんだ匂いと平坦な胸は────────あぁ……




「アリスちゃん!ぎゅ~の刑だよ、ぎゅぅぅぅ~」


「お、おはようございます。みっちゃん。きょ、今日も元気ね……」



 案の定、抱きついてきたのは我が桜台中学が誇る“永遠のレッドクリフ”、みっちゃんだ。俺もこの愛莉珠ボディにもそろそろ第二次性徴が来るだろうと色々ネットで予習していた時に、『女性の胸は遺伝と性徴期に摂取した栄養素が大きく関わってくる』って読んだから、まだみっちゃんだってきぼーはあるぞ!ポーカーでエースのスリーカードからワンペアぐらいにはなれるかもな!点数下がってるけど!


 外見的に何か違いはあるのかって?ボクちん将来Eカップなのでわかりましぇ~んwwww!




「そ、それで。どうかされまして?」


「“どうかされまして”って、アリスちゃんまた顔真っ青にして俯いてたじゃない!こっちのセリフだよ!」


「え?あ、ああ……」



 あ、やべぇ何て誤魔化そう……?顔青くしてたのは多分パパンのこと考えてた時だろうけど、さっきまで考えてたのはみっちゃんの、その、カードの手札と言いますか……



「……いいえ、何でもありません。顔色は……少し貧血気味だからでしょうか?」



 うん、やっぱ最強の言い訳『貧血』で逃げよう!体はめっちゃ元気だけどな!今日一日中はなんとなく気だるい雰囲気を醸し出し続けるように気をつけよう。



「えっ、大丈夫?昨日あの後作業多くて寝てないとか……?」


「え、ええ。そうかもしれませんね。父が久しぶりに帰宅して夜遅くまで雑談に花が咲きましたし────」


「お、お父さん帰ってきたんだ!!」



 お、おう?どうしたみっちゃん、えらく食い付きがいいな────っハッ!ま、まさかッ!?

 だ、ダメだぞ!イケメンダンディーな愛莉珠パパンは俺のパパンなんだ!だっ、誰にもあげないゾ!



「ぼっ……僕のだぞっ!」


「は?僕……?いやそんなことより、あの後アリスちゃんのお父さん久しぶりに帰って来たんだね!どうだった!?いっぱいお話出来た!?」


「……え?あ、え、ええ。みっちゃんと作ったクッキーを一緒に焼いてくれたわ。今朝もラッピングを手伝ってくれたし、とても楽しい時間でした」



 全く覚えてないけどな!



「そうだったんだ!よかったぁ……」


「……?」



 何故にみっちゃんが安堵する……?ただ家に一人で居るときが多いっつっただけなんすけど。何かヘンに心配されてるのか、俺?


 ……い、いや。今はパパンに俺の頭のことを心配されてるんだけど。むしろそっちの心配の方が深刻で俺、精神病院連れてかれそうになってるんですよ、みっちゃん……。

 お、俺、一応まともな中身DKだよね……?ね?

 外見は愛莉珠ちゃん12歳のパーフェクト美少女だけど。



 あ、そうだ。



「みっちゃん、はい。これを」


「あ、えっ、何?って、うわぁ!これ昨日のクッキー!?すっごい可愛いぃぃぃ!」



 俺は手に持っていた高そうな絹っぽい生地の風呂敷の中からクッキー袋を一つ、みっちゃんに手渡した。手伝ってくれた助っ人だし、クラス最初の受け取り手は彼女以外ありえない。


 まあ最初に食べたのは俺とパパンだけど。家族だからね!



「父が思いのほか手先が器用で、2人で張り合っていたらここまで本格的になってしまい……。でも可愛らしくてステキでしょう?」


「へぇ~アリスちゃんのお父さんこんなの出来るんだぁ……!かんわいいぃ~……!あっ、こ、このラッピングも教えてもらっちゃっていいかな!?ぜひ参考にしたいんだけど」


「元々一つはクラスメイトのみっちゃんの物ですよ?あと幾つか余分に作ってあるので、みっちゃんのご家族やご友人にもどうぞ」


「わぁっ……。嬉しい……あ、でもわたし材料買いに行って分量量っただけだけど、いいの?」



 ん?あれ……?そういえばコイツ、俺ん家で和菓子食ってただけで買出し以外ほとんど何もしてなくね?俺が指示した分量量るのと作るのを見学してただけで……


 ま、まあ俺も極端なこと言えば“ただ量られた材料を混ぜただけ”って感じになるし……。レシピは俺のモノ使っただけだから分量教えるのは俺の仕事で……



 う、うん。あまり考えないようにしよう。



「それを言えば私なんてただ材料を混ぜるミキサーですよ。気にせず持って行ってくださいな」


「えっ、そんなことは無いけど……うん、凄く美味しそうだしくれるだけ貰うよ?」


「ふふっ、みっちゃんは甘いもの好きですからね」



 和菓子ももう冷蔵庫のものはほとんどお前の腹の中だ。



「ぅえっ!?あ、ふ、ふんだ!アリスちゃんだって“女の子は甘いものは別腹”なんでしょ?むふふ」


「────ッ、そ、それは」



 な、なんだと!?反撃された……っ!?

 ちくしょう、みっちゃんめ。だんだんこの愛莉珠ボディに遠慮がなくなってきたな。これはキレみっちゃんへの覚醒も近いか……


 これからは気を引き締めてコイツを監視しなくては……っ!



「わーい、わーい、アリスちゃんが照れた~」


「────ッ、小学生ですか貴女は……っ」


「数ヶ月前までは小学生でしたよーだ、むふふ~」


「全く……急ぎますよ。クラスの皆さんが取りやすいように、クッキー籠を教室の後ろのロッカーの上に置かないと」


「えっ、手渡ししたほうが確実じゃない?」



 手渡しとか、お前は一体何を言っているんだ?HR直前だかにみんなに一つずつ机を回って渡すのかよ。学校のプリントじゃないんだから、ンな押し付けがましいことしたら一気に白けるぞ、絶対。

 こういうのは渡し方も作り手の印象を左右する大事なファクターなのだ!


 何故英語で言った、俺?




「出されたら受け取らなくてはならなくなりますもの。甘いものがお嫌いな男子には逆に失礼に当たります」



 こういうとき見栄を張り他がるヤツが絶対に何人かはいるモンだ。中1だぞ?女の子の体や心に興味を抱いてしまう自分を認めたくなくて、ついそっけない対応をしてしまったり。意地悪してしまったり。逆に恥ずかしさから、ついぶっきらぼうな対応をしてしまったり。とかな。


 男子にも色々あんだよ、言わせんな恥ずかしい!



「……アリスちゃんのクッキーを受け取らない男子は自分のくだらない見栄なんかよりよほどヒドい、ホモ疑惑とか付きそうなんだけど……。女子の間で」


「く、くだらないって……」



 お、お前!それは男子に一番言ってはいけないことだっつぅの!

 いいんだよ!見栄を張らせてやれよ!たとえ周りからバレバレでも、男の子は少しでも周りの、特に女子の前ではカッコつけたがるモンなんだよぉ!ゆる~いチャラ男より硬派でクールな方が何となく手が届き辛いレアキャラっぽい感じするだろ?そういう“特別な男”に男子はみんななりたがるモンなんだよぉ!


 たとえ内心ではめちゃくちゃ女の子に興味深々でも!


 たとえくだらない見栄張って女子と仲良くなれる大チャンスを棒に振ったとしても!



 男には守らねばならない“矜持”ってのがあるんだよぉぉ!





 あ、俺?普通に女の方から寄って来ましたが何か?









「とにかく、私は男子に手渡しなんて出来ません」


「ぶっちゃけただ男子と話すのが恥ずかしいだけでしょアリスちゃん……」


「……」






 舐め回されるようなあの視線が苦手なだけです。





***





『クッキーです。内訳は袋の左から順にプレーン・ココアのチェック・レーズンです。食後にクッキー袋をお一人お一つどうぞ────────』


「えぇ~何か味気ないなぁ。もっと可愛くハートとか描いてデコったら?」


「……では皆さんにお願いしてもよろしいでしょうか」


「はーい」



 本鈴30分前にクラスに付いたのに、すでに半数以上の生徒たちが教室に入っていた。俺の持つ風呂敷にその全員の視線が集中する。お前ら期待しすぎぃ!


 とりあえず風呂敷はみっちゃんの席に置かせてもらって、今俺が昨日の女子グループ+宮沢妹に囲まれて書いているのは、クッキー籠に貼り付けるメモ書き的なヤツだ。教室の後ろにある生徒用のロッカーの上にそっと籠を置いて、あとはこのメモを見て勝手に取ってね作戦だ。バカが一人で5つぐらい取って持って行こうと俺には関係ない。

 むしろ好都合。もし貰えなくて、本当に欲しい子は俺のところまで催促に来るだろう。それが俺にとっての新たな出会いになって、結果その子と仲良くなって友達になるのだ。

 クラス一人ひとりに手渡しするという押し付けがましい行為を避け、逆に貰えなかった間の悪い可哀相な子には予備を後日手渡す。そこには俺の優しさが満ち溢れ、人々は口々に俺の天使っぷりを称えるようになるだろう。


 完璧な作戦だ。



「ふんふんふ~ん」


「……宮沢さん。何ですか、このキラキラしているキャラクターは?」


「えっ、似てない?姫宮さんだけど」


「え、あの、何故私のイラストを……?」


「“作ったのは私!”アピール。ダメ、姫宮さん?」


「……はい、ダメです」


「ぶー、可愛く描けたのに」


「か、代わりにフレームに入れて私の机に飾ってもよろしいでしょうか?大変愛らしいステキなイラストですので……」


「うん、いいよ!全然あげる」



 あ、あぶねぇ。下手したら自分で自分のイラスト描いてるイタいヤツに思われてしまうところだった──────



「みんながクッキー取った後にね!」



 それじゃ意味ねぇよ!






 そんなこんなで俺が教室後ろのロッカーで風呂敷を開放した瞬間、ガタタッっとクラス中が立ち上がりアリのようにクッキー籠に群がり始めた。そして口々に“ありがとう”だの、“家宝にします”だのと言って来た後、籠が空になったのをいつの間にか参加してた津田先生が確認し、彼女の“せーの”の音頭で────


 『姫宮さんありがとー』


 ────の生徒たちの大合唱がクラスに響き渡った。


 こういうのはホント慣れてないので、俺はこのすぐに顔が赤くなる愛莉珠ボディに苦しみながらもなんとか必殺技パーフェクト美少女ヒロインスマイルを最後まで維持し続けられた。一昨日昨日と俺の痴態を見られてしまっているみっちゃんと宮沢妹はちょっぴりニヤニヤが入った生暖かい視線を送って来たので睨み返してやった。

 つかみっちゃん。お前も一応このクッキー手伝ったんだからこの場に立てよ!何が”ひめみやさんありがとー”だ!お前も照れくさいだけだろうが!

 


 何なんだお前らは……?





***





「はーい、それでは特進・一般のクラス分け試験の解答用紙を返却します。小学校の復習と中1の1学期の予習が範囲でしたので、小学校や春休みに熱心に勉強した人とそうでない人の差を最初に明確化出来ました。残念だった人はこれから頑張って追いつけるようになりましょう!楽勝だった人もウカウカしているとドンドン追い越されてしまいますよ!頑張るみんなを先生も応援します!」



 なんてムンッと可愛らしく両手をグーにして気合を入れる津田先生。可愛いです、先生。あとで俺と一緒にモーツアルトのピアノソナタとか弾きませんか?


 でもこの勉強熱心な先生ってこの学校の一般的な教師なのかね。みっちゃんは数学とかの一般クラスはもっと緩いって言ってたけど。




 ……さて、俺の点数は────


 ────姫宮愛莉珠、500/500!



 ふ、FUUUUUUUUUUUU!!!!英数理社国5教科オール満点ですよ奥さん!さっすがぁ俺ぇ!天才!極才!大喝采!


 ふっ、やっぱ一度経験してるし?

 中身高校生としてはこんなトコでミスするなんて恥ずかしいし?

 まあ俺の頭脳的には当然というか?






 ……よかった…………マジで、よかった…………


 俺、中学生に負けずに済んだお……パパン




 だから精神科だけは勘弁してくだしゃい……









 あ、ちなみにオール満点は各クラスに2、3人は居たみたいです。

 みっちゃんも数学以外はほぼ満点だったしね。


 ガッデム!





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