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07話 衝撃の事実と、よくあるクラスのあの空気

 カリカリカリ


 途中でHRに入ってヘンに注目を集めるのを避け、俺たちは担任の津田先生が教室から出てきたところを捕まえて事情を説明した。

 どうやらレズこと宮沢妹が一部始終を目撃していたようで、先ほどの女子グループも一緒にすでに先生に説明してくれていたらしい。

 あとで礼を言っておこう。


 “姫宮さんのところが空席だったなんて、先生教室間違えちゃったのかと思いました”なんて教師として色々ヤバいことを、にへら~っと照れくさそうに笑いながら言う新人教師の津田先生。

 大丈夫か、この人……



 で、今カリカリ記入している紙は、例の特進・一般クラス分け試験の解答用紙だ。他の生徒達がまるで受験のように机に噛り付く姿は大変微笑ましいのだが、流石は中学受験を勝ち抜いてきた秀才たち。みんなスラスラと解いて行く。



 対する俺は……





 あれ、これ結構ムズくね?

 い、いや解けないって訳じゃないんだよ?実際もう全部終って確認作業に入ってるし。

 ただいくつか自信を持てない問題があったり、小学高学年特有のくっそダルいケタの多い算数問題とか解くのにすげぇ時間掛かってしまったり。昔の受験を思い出す、あの乱数暗号解読のような計算問題集を解いてるようで色々とトラウマが……


 だぁ~っ、もう!

 ここんとこの計算また違うしぃ!。




 全然話関係ないけど、人間で最も脳の記憶力と学習意欲のバランスが取れている年齢は大体10歳から13歳くらいなんだそうだ。日本で言うと小4から中2くらいまで。日本人の高給取りはこの期間から熱心に勉強を頑張り始めたヤツが多いらしい。


 特に算数は小学5・6年の頃に、東大理3卒でもうんざりするようなレベルにまで急に難易度が跳ね上がり、どれほど授業について行けたかが後の数学を学ぶ際の肝になる。

 女子に数学嫌いが多いのもこの黄金(?)の数年間と、心身共に大きな変化があり何かとストレスが溜まりやすい第二次性徴期が被ってしまってるせいで、小学5・6年時の算数の集大成と、中学1年時の数学の導入部の勉強について行けない状況になりやすいからだとか。


 みっちゃんは早々に算数は脱落してしまったと嘆いていたので、俺にとっては割と身近な現象だ。女子ってマジで大変だよ。


 俺も今は女子なんだけど……






 キーン コーン カーン コーン


「はーい、そこまで。後ろの人回収お願いしまーす」




 これ、満点取れなかったら俺、中1以下の高校2年生ってことになるのよね……




***




「ああぁぁぁ……。終ったよぉぉぉ……」


 左斜め前の席でみっちゃんが寛いでいる。電車の車内忘れ物ショックは消えたみたいだ。

 よかったぜ、心配したんだからな?


「おつかれさまです、みっちゃん。難しかったわね、受験の頃を思い出しちゃった……」


「ホントだよぉぉぉ……。……でもあのアホならドヤ顔で解きそうだと思ったら、何が何でも解いてやろうってマジになれて……。たまにはアホも役に立つ」




 ……




 ……ねぇ、みっちゃん?


 その“あのアホ”って、一体誰のことか、聞いてもいいかしら?


 ワタシ、とても気になります!




「……その方は、みっちゃんのお友達ですか?」



 友達……友達?

 腐れ縁?



「───ッッ!?い、いや!違うの!全然、アリスちゃんには関係ないからね!?もう、全然、全く、絶ッッ対!関係ないからね!?何が何でもアイツの毒牙から、アリスちゃんを守ってあげるから!!安心して!ね!?」


「えっと……落ち着いて?みっちゃん」



 おい!毒牙って何だよ!その“あのアホ”って、もう確定でこの俺のことだろ絶対!ドンだけ過剰反応してんだよ!俺のこと嫌い過ぎんだろてめぇ!


 ふざけんな!あのしおらしい可愛い笑顔のみっちゃんを返せ!何かこの世界のお前、いつもとイメージと違うから優しくしてやったのにぃ……。これじゃあ“帰ってきたみっちゃん”じゃねぇか、おい!


 脅迫魔とか要らねぇんだよ!お前、俺の幼馴染キャラじゃねぇか!幼馴染ポジはなぁ!唯一無二の大切な存在何だぞぉ!もうちょっと頑張れよ!


 あと俺のシコシコ脅迫フラグ、全然折れてねぇんですけど!






 いや、まあ、しかし。

 これでようやくこの世界での俺の存在が確認できた訳だが。


 何だろう、この感覚。ちょっと嬉しいような、恥ずかしいような、ワクワクするような……



 中1の頃の俺か……


 ま、まあ?

 イケメンなのは当然だとして?

 愛莉珠に出会う前の俺だからな、色々と初心で可愛いだろうし?

 未来の俺としては、可愛がってやるのもやぶさかではないというか?


 ちょ、ちょっと会いに行くのは、恥ずかしいな……




 って、あ!


 ちょっと待て!

 つかこれ重大な分岐点じゃね!?


 俺と愛莉珠の出会いはコイツが俺の通う青嵐学園に高等科から編入してきたときだ。

 普通に、今隣で俺のことガン見してくる黒髪男子みたいに、愛莉珠に一目惚れして、何とかアイツに振り向いて欲しいと頑張ってジェントルマンスキルを磨いてアプローチしたんだった。高1の夏、思い切ってデートに誘って、日が暮れても“もう少し一緒にいていい?”なんてくっそ可愛いこと言われて舞い上がってそのままの勢いで告白したんだよな。


 今思えば、あの時のアイツの言葉は多分、独りきりの自宅のマンションに帰りたくなかったってのもあったんだろうな……



 嫌がるアイツを強引に追い詰めてでも家庭や本人の問題を聞きだしてれば、あんな、あの時の学校の屋上での出来事みたいな結末にはならなかったのかな……





 まあ済んだ話は置いておこう。

 つまり、今俺がこの世界での俺こと紫藤広樹に会いに行ってしまうと、あの俺の一世一代の告白イベントが無くなってしまうことになる。

 い、いや別にあの時の俺を愛莉珠視点で見てみたいとか、ちょっとだけ思っただけで!

 恥ずかしいような、楽しみなような。

 ちょっとだけ期待してたりするけど……




 それはさておき、一度落ち着いて考えるんだ、俺。

 まず、今この世界の俺に会うメリットとデメリット、そして高校まで会うのを控えた際のそれぞれを整理する。


 まあ後者のメリット・デメリットはわかりやすいな。普通に俺の記憶をなぞり、そのとおりに行動して、この世界での俺の告白を待つこと。受動的でいられて、比較的ゴールまでの道筋が見えているのと、ヘンに過去に介入しない安全性がメリットだ。

 どうせ愛莉珠にベタ惚れなんだ。もしイベントが起きなくても、ちょっと勇気を出せるように俺がガードを緩くしてやればすぐ理解して別の形で告白してくれるだろう。少し惜しいが、新たな俺の告白にも興味があるし、中々楽しみだ。


 デメリットは愛莉珠のビッチ化フラグがどうなるか全くわからないということだ。そもそも愛莉珠が5年前の今に中身高校生男子になってる時点で相当フラグは潰せたはずだが、もし家庭の問題やらに関わる第三者による(エロゲ的な)脅迫とかがフラグだった場合、マジでどうしようもない。

 あと俺自身がこんなヘンな状況になってるんだ。男女の肉体や精神的な違いとか、何か今の状況に新たな変化が起きた場合、心身バランスの乱れ的な何かで最悪俺の男の人格ごと壊されかねない。


 大げさか?

 外ではあんなに清楚で悩みなんてなさそうな表情を維持していた愛莉珠が、屋上で問い詰められた時はあんな風に支離滅裂な嘘を言い始めたりパニクったりしてたんだぞ?

 みっちゃんだって中学校でいじめられてたとき、マジで別人みたいに性格変わってたし。

 人間の心なんて追い詰められると簡単にぶっ壊れたりするもんだ。俺が中身男だからとか、そういう根拠の無い安心感はこの際全て捨てるべきだ。


 ……特に最近は女というか、完璧な美少女で居ることを意識しすぎて自分でも色々混乱してたりする時があるからな。

 でも今更やめられねぇし……




 さて戻って前者の“中1時点でこの世界の俺と出会う”場合だ。こっちの方はデメリットがわかりやすい。俺の記憶がほとんど当てにならなくなることだ。



 それに……

 既にみっちゃんと友達になって、アイツの口から愛莉珠のことがこの世界の俺に伝わっている可能性があるのだ。これ以上この世界の紫藤広樹の人生が変化してしまったら、俺が俺じゃなくなってしまうかもしれねぇ。


 俺は愛莉珠に出会って、確かに考え方や人格が変化した自覚がある。その時の心理状態での新たな出会い、別れ、再会……。色んな内的・外的要素で人間の性格だの考えだのはコロコロ変わるモンだ。

 俺が俺でなくなったら、どうなるんだろう……


 それに、只でさえこんな意味不明な愛莉珠乗り移り現象に加えて過去へのタイムリープまで起きてるのだ



 もしかしたら、明日にでもこの愛莉珠ボディから追い出される可能性だってある。


 そうしたら、俺は………………俺は?






 そうだよ。


 もしこの体から追い出されたら、俺は一体どうなるんだ?

 この世界から意識ごと消えるのか?あの愛莉珠との屋上での口論の場面に切り替わるのか?階段から落下したんだ、下手したら死んでるかもしれない。




 俺が、死ぬ?




 今、こんなにピンピンしてるのに?

 いやそもそも俺はこの体から出て行けるのか?


 出て行けるのなら……



 いや不安しかねぇけどさ。






 出て行けないのなら……



 俺は、この世界の俺と恋人として付き合って幸せな日々を……









 ……ん?






 って!


 もしこのまま何事もなく俺の思い通りに展開が進んだら、俺、この世界の俺に抱かれないといけないってことか!?


 いや待て待て待て待て!

 そ、それは流石に色々とキツいぞ!?いくら俺がイケメン正義だとしても、自分にキスされたり抱かれたりって!



 や、やべぇ……

 どうしよう……


 俺の、ビッチ化を防いでパーフェクト清楚系正統派ヒロインになった愛莉珠をもう一度彼女にしてウハウハ計画が、最初から詰んでいたなんて……




 マジで、今気付くとか……



 俺……












「──────ぃす……ちゃ……!アリスちゃん!」


「だ、大丈夫、ですか!?あっ、あのっ!ひっ、姫宮しゃ、さん!」


「姫宮さん!」





 …………あ?




 塞ぎこんでいた視界が急に開け、目の前にみっちゃんと隣の黒髪男子がこちらを覗き込んでいるのが見えた。よく見るとその更に置くに何人も女子がいる。

 HR前に話してたあの女子グループ+宮沢妹だ。



「──────っあ」



 そ、そうだった。俺みっちゃんとこの世界の俺について話してた途中だった。

 やべぇマジで意識飛んでたわ……



「アリスちゃん!?よかった、気が付いた?」


「ひっ姫宮しゃっ、さん、あの───」


「大丈夫姫宮さん?顔色真っ青だけど……」


「どこか具合が悪いんじゃ……」



 女性陣が噛みまくりな黒髪少年をガン無視して口々に俺を心配する言葉を捲くし立ててくる。

 い、いや心配してくれて嬉しいんだけど、少年が……



「あのアリスちゃんにこんな顔をさせるなんて……。何と言う祟り神、執念のエロ野郎……ッ!あのアホ、今日会ったら股間に永遠に不能になるようにサマーソルト決めてやる!」


「“あのアホ?”」


「あっ、ウチの近所のエロガキなんだけどね?さっきソイツの話をアリスちゃんとしてたら急に青ざめ始めて……」


「……えっ、ちょ───」


「そ、そんなに酷い人なの……?」



 おいみっちゃん!?何言っちゃってんのおおおお!?

 それ、俺ぇ!この世界の俺のことぉ!



「もうホンッッット年中発情期みたいなヤツでね!?昨日会ったときなんてちょっとアリスちゃんの話をしたらすぅぐ食いついて来て“いつお前ん家に呼ぶんだ?”とか聞いて来て!」


「えっ!?いや、そん───」


「あー……」


「うん、めっちゃわかる……ってか今朝もウチのアホアニキが姫宮さんにだらしない顔しながら話しかけてたし」


「つか今朝の3年の先輩たちも──────」



 お、俺の……

 俺のイケメン正義が……

 やめろ……

 やめてくれ……


 ちゅ、中学1年だろぉ!

 女の子に興味を持ってしまうのはあたりまえじゃないかよぉ!

 そんな……そんなゴミを見るような目で俺のことを語らないでくれぇ……

 中1女子たちの輪のど真ん中でそんな陰口を聞かせないでくれぇ……




 みっちゃん……ヒドいよぉ……


 そんなに俺が憎いかよぉ……



 小学時代。

 お前の部屋にあったくまさんパンツにヒゲの落書きしたからか?

 お前の手握ってクラスの前で“俺たち付き合ってるから”って嘘付いて他の女子の反応楽しんでたからか?

 お前の初失恋を思いっきり爆笑したから……ってこれはまだこの世界では起きてないな、時系列的に。




 あれ、もしかして小学時代の俺、ただのクズ?


 あれ、もしかして俺、自業自得?




 あれ?







 俺は泣きそうになる自分を叱咤し、何とか笑顔を作ってみんなに礼を返す。



「ごめんなさい、皆さん。ご心配をおかけしてしまったみたいで……」


「えっ、あっ、その」


「は、はい!こちらこそ勝手に騒いじゃったりして、その……」


「こ、困ったときはお互い様だし、っあ、で、ですし!ね!」


「う、うん!ひっ、姫宮さんが元気になってくれて、私、そのっ、よかったです!」



 思いっきりドモりまくる女子グループ。


 ああ、まだ言い残してたことがあった……



「それに、今朝のHRの時にも席を立った事情を先生に説明してくださって、ありがとうございます。お礼が送れて申し訳ございません……」


「い、いいんですよ別に!大したことじゃないですし!」



 また口々に騒ぎ立て、逆に俺に礼を言ってくる女子諸君。会話が成り立たないのでこのヘンな上下関係を何とかしないといけないのに、傷心で気分が乗らねぇ……


 早くお家に帰ってお筝教室で練習するんだ……俺………



「あ、ねぇ姫宮さん!よかったらウチらとお昼食べに学食行かない?」


「ああ、いいね!桜台の学食美味しいって人気だし!」


「てかウチらもう桜台の生徒だけどね」


「あはは。姫宮さんも、その、一緒にどうですか……?」



 ごめんよ……今日は、もう……俺、真っ白に燃え尽きちまったぜ……

 それに和服お姉さんの山本師範(元)に、お稽古前に教室の空き部屋でお筝練習する許可貰ってるからご飯行けないって言お……



「お気持ちはとても嬉しいです。ですが……今日は習い事の予定がありまして……」


「あ……」


「申し訳ございません、折角お誘いいただきましたのに……。もしよろしければ明日、ご一緒してもよろしいですか……?」


「あ、うん。うん!もちろん!!嬉しい、また明日誘うね!」


「ありがとうございます!何か食後に皆さんで召し上がれるクッキーでも焼いて来ますね!」


「わぁっ!!ひっ、姫宮さんのクッキー!?」







『えっ!姫宮さんのクッキー!?』


『何だって!?』



 ざわっ、とクラス中が戦慄する感じがした。全員が俺の顔を見ている。

 いや元からチラチラ見られてたけど。


 つか、おい宮沢妹!声がでけぇよ馬鹿!このレズ!

 この空気、ヒロくん知ってるよ!特別扱いされなかった子が永遠に根に持って仲良くしてくれなくなるやつでしょ!全員に焼かないといけなくなるやつだよね!

 わーい、ヒロくん、みんなに期待されて、嬉しいなぁ!


 半分くらい自業自得だけどさぁ!



 くそっ、もうこうなったらとことんこの空気を利用してやる!ピンチをチャンスにだ!


 俺は空気を読んで立ち上がり、鈴の音のような美少女声に、自慢の必殺技、パーフェクト美少女ヒロインスマイルを発動した。


 あれ、パーフェクトヒロイン美少女スマイルだっけ?

 まあ効果は同じだ。




「折角ですので、お近づきの印に1年4組の皆さんにクッキーを焼いて参りたいと思うのですが……明日の昼食後にレーズンクッキーなどいかがでしょうか?」




 ……




 完全なる沈黙。


 あ、あれ?

 もしかして俺、自意識過剰だった……?



 すると──────







『っうわああああああああぁぁぁぁぁっ!!!』



 ファァァァァッ!?

 なっ何なんだ一体!?声、声でけぇから!動物園かここは!?



「ひっ姫宮さんのクッキーって……!」


「かっ家宝にしなきゃ……!」


「すっごいおいしそう……!」


「もったいなくて食べられないかも……!」



 口々に勝手なことをぬかすクラスメイト諸君。反応ヤバすぎ。ドンだけ愛莉珠ちゃんのクッキー神聖視してんだよ。家宝にすんな、食え。


 あとこのクラス団結力高すぎんだろ……

 もう試験終ってるのに全員残って俺たちの話に耳を傾けてやがるんだから。



 わかったよ、作ってやるよ……!

 クッキーなら紫藤広樹の体だったときに、甘い物好きの愛莉珠に貢ぐために狂ったように練習したからな。味は保障してやるよ。


 はぁ、お筝の練習時間が……



 これ以上妙なことにならないように俺はそそくさと教室を後にする。

 も、もう、これ以上は、許して、許してクレメンス……





 あ、俺の席に集まってた女子グループに圧迫されてた隣の黒髪少年くんにはあの後ちゃんと心配してくれた礼を言ったよ。厚意には礼で返す、常識。


 顔が水揚げされたイカみたいに赤くなってフリーズして動かなくなったから頭下げて放置撤収したけど。





***




「なんか……大変なことになっちゃったね……」



 そう言いながら慰めてくれるのは、何故か学食をやめて俺と帰宅することを選んだみっちゃんだ。



 ……お前……さっき俺の荒唐無稽な噂をあること無いこと、桜台の生徒達にばら撒きやがって……

 許さねぇからな……



 こ、荒唐無稽っつったら荒唐無稽なんだからな!お、俺が美人って聞いただけで“いつウチに来るの?”なんて恥も知らずにみっちゃんに聞いて来るなんて、あっ、ありえねぇから!

 流石にソコまで盛ってねぇから!




 ねぇよな……?

 中学1年の俺よ……?



 おっと、みっちゃんと会話の途中だった。



「ええ……でも、初日のせいでなんとなく避けられてしまっている現状は何とかしたいと思ってましたし。いい機会かなって」


「ま、まあアレでわたしたちだけが貰うってのも感じ悪いしね………人付き合いって難しいよ……」



 お前、その人付き合いの一貫でさっき俺を売っただろ……!流石脅迫魔みっちゃんだぜ!真横に居ても阻止できなかったんだからよ。



「あの、アリスちゃん……ホントに大丈夫?」


「ええ、あまり大したものは出来ませんが───」


「そっちじゃなくて……いやそっちもだけど、試験後のときだよ」



 おいやめろ。

 お前のせいでおでのごごろはぼどぼどなんだから……



「……いえ、少し考え事をしてしまっただけなの。お話聞き流してしまって、ごめんなさい……」


「それはいいんだけど……ホントに……?無理しちゃやだよ……?クッキー、わたしも手伝おうっか……?」



 ……



 みっちゃん……なんで……



 なんでその優しさを俺にくれないんだよぉ!


 キマシか?キマシだからか!?お前が!

 俺が小学時代に散々お前に意地悪してたからか!?



 あ、謝るチャンスを、くれませんか…?




「あの、アリスちゃん?」


「え、ええ、大丈夫よ。習い事もあるし、待たせてしまっても悪いわ……」


「別に暇だし何なら習い事終るまでその辺ぶらぶら出来るけど……あ!ぶらぶらついでに材料とか買ってくるよ!バターとか食塩無添加のがいいんでしょ?」


「えっ、それは、その……とても助かりますが……」



 謝るどころかパシリ扱いしてるみたいで気が引けるっす、みっちゃん……



「なら決まりだね!あ、材料のリストだけもらっていい?アリスちゃんのクッキーレシピも知りたいし」


「あ、あの、みっちゃん?」


「レーズンクッキーならラム酒につけなきゃだしね!製菓用のお酒なら中学生でも買えるでしょ!」


「えっと……」


「さぁ35人分だぞぉ!ラッピングもこだわりたいし、善は急げだ、おー!」



 あぁ……あの猪突猛進なみっちゃんが帰ってきちゃったよ……



















 この時、俺は知ることが出来なかった。



 この日、昼休みを待たずに帰宅したことで、姫宮愛莉珠にとって最大にして最悪の悪落ちフラグを一時的に回避出来たという幸運を……






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