無人の召喚Ⅰ
「それでは、無事魔王を倒す者となる事を祈ってあります。」
白銀長髪をなびかせて、彼女は綺麗なお辞儀をした。彼女はだんだんと透けていくが、要は俺が転移を開始したのだろう。
一つ目の瞬きで彼女はうっすらとなり、二つ目の瞬きで消え、三つ目の瞬きで風が吹く広い草原に立っていた。
転移先には誰かいる、のがセオリーなはずだが、やはり現実的にそんな『偶然の出会い』的シチュエーションなどなくただ一人立ち尽くしていた。
いくらか経った後、俺は仕方なく今向いている方角をただひたすら歩いて見た。草原はどんなに歩いても続き、もしかしたら永遠に歩き続けるのではと危惧したが、そのような思考になった頃には一つの道が現れた。そこには御誂え向きの初心者アイテム『どこにでもある少し太めの木の棒』が切り株の上に置かれていた。特に誰か困る訳でもないだろうと思った俺はその棒を手に一本道を道なりに進むことにした。ちなみに長さは俺の腕よりやや短く、少し刀のような反りのある形だった。
しばらくするとモンスターが現れた。よくある最初の敵『スライム』だ。
俺は昔から思うことがある。液体に物理などは効かないはずなのに、どうしてはじめの敵で、しかも木の棒程度でワンパンなのか、と。
俺は現実的にこのスライムがかなり手強いと思いつつ、試しに『木の棒』を振り下ろした。