キャラメイキング・プロローグ
はいさっそくですが、俺は現代社会において死んだらしい。死因?『孤独死』だと目の前にいる女神が微笑みながら恐ろしいことを言っていた。俺が孤独死?真逆だろ。言い換えて欲しいな、『孤独愛好死』と。
「あなたは若くして亡くなられました。その不安なことは私も大変いたたまれない気持ちでいっぱいです。」
いや知らない。俺の死を誰かにとやかく言われる筋合いはない。特に同情などでは。
「あなたにはこれから三つの選択肢がございます。」
いやいいから。俺天国でも地獄でもいいから。そんなわかりきったこと聞かなくていいからさ。
「あなたには、娯楽などは存在しないゆるい天国、あるいは拷問ばかり受ける地獄の二つが有力候補でしょう。」
と女神が申すが、要はどっちも娯楽ないだろ。どっちも地獄じゃん。
「そして、異世界に転生し、新たな人生を歩むかです。」
そして王道だ。いやそんなファンタジー要素いいから、ほのぼのした天国くらいでいいか––––
「ちょっと待て! 今さらっと聞き飛ばしたが、あんた今『天国か地獄か』って言ったか?」
「はい、言いました。」
「いや普通、閻魔様とか偉い人がそう言うのを強制するだろ!?」
「いえ、どうせ転生しても悪行をまた起こすので、いっそ自己申告でいいかと言うのが今の死後の摂理です。」
驚いた。まさかどうにもならない末の『ゆとり』的道を選んだのか。意外とゆるいな。
「では、天国でよろしいですか? 後でも変更は出来ますが。」
「変更効くのかよ!? ほんと親切プランだな。」
いや本当にありえない。よく悪さする子に諭す意味でも言い伝えられた『天国と地獄』は、こんなにもゆるいとは。
「・・・・・・。」
しかしだ。そんなにゆるいのなら、異世界転生した方が少しはやる気が出るのではないか?要は天国と地獄の狭間みたいなことだ。苦もあり楽あり、刺激に満ちた世界の可能性がある。こんなゆるいと分かった天国と地獄より、異世界転生が正解ではないだろうか。
「・・・異世界で。」
「受諾しました。では、何か一つあなたの願いを叶えましょう。」
「あ、そんなのもあるのか。」
本当に親切設計だことで。
「はい。あなたはその地に持ち込みたい物、あるいは能力が選べます。もちろん何かしら力を必要とする道具等は全て『魔力』を消費することで使用できます。」
「つまり『魔法』が使える、と?」
「はい。そして転生者にはあらかじめあらゆるパラメーターが常人以上になるため、『筋力強化』等の身体強化はあまり意味を発揮しないことでしょう。」
「ちなみに、頼んだのはなんでも強いのか?」
「はい。その世界において誰よりも優れ、誰にも負けないものとなることでしょう。」
俺は悩んだ。さて、この『キャラメイキング』は今後の展開を左右するだろう。おそらく『魔王討伐』やら『帝国壊滅』やらの、常人に成し得ないことをする世界なのだろうから!
「あ、言い忘れてました。この転生において魔王は存在しますし帝国も存在しますが、特に何かと言うと命は存在しません。純粋に異世界を楽しんでもらうプランです。」
「どこまでゆとりだよ!?」
「ひゃい?!」
とうとう声に出てしまった。いや仕方あるまい。明らかにどう考えてもゆるすぎる。
「い、いえその、『魔王討伐』なんて事をあなたの前の人までは言っていたのですよ。しかしどうも勝てないようで、あっさり死に、こちらに戻ってくるのでもういいかなと」
「あんた女神だろ! 悪に屈してどうすんだ!?」
「全くもってその通りです!」
女神は涙目だった。つまりここはゆとりなんてものじゃない、ただの『怠惰な死後の世界』だろう。
ひとまずこれにて目標は絞れた。要は『魔王討伐』を最終的目標にすればいいのだろう。怠惰に暮らすこともできる世界ではあるのだろうが、別に危機がないわけじゃないだろう。むしろいつ牙を剥くかわからない世界なのだろう。
「・・・・・・さてと。」
俺は胡座をかいて座る。正直どんな魔王なのか把握できない以上、誰が効果的かがわからない。そうなると様々な状況下において対応可能な能力、あるいは物がいいだろう。
しかしだ。もしそこで『物』を、仮に『エクスカリバー』とかの王道武器を手にしたとしよう。そうなれば確かに英雄感はあるし、どんな奴らからも慕われたり、リーダーにされたりするだろう。でも、それってあくまで『武器』じゃん。俺より凄腕の剣豪なんて奴に渡したらそいつの方が英雄感はあるし、俺がいらなくなる。又は、その剣を盗賊なんかに奪われてみろ、大抵の話では必ず取り返せるが、いくらゆるい世界でもそこまで優しくないだろうし、そもそも返ってくる保証ないじゃん。つーかよくそういう間に合う主人公が剣取り返しているとか読むとすっげー運の強い奴思いつつイライラする。
という点からして、『物』は確実に却下だ。無くしたら元も子もない。それなら身体強化だろう。あくまで物理系は意味ないと言っていただけだし・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
「ど、どうされました、顎に手を当ててかなり悩んでいるようですが?」
「・・・決めた。いやー、それは盲点だったわ。」
俺は頭のモヤモヤが晴れ、清々しい気分で彼女に『とある能力』を頼んだ。