Append ACE 8
急いで外に飛び出すと、誰もが騒ぎ立て、何かを討論している者もいる。
────空気がざわざわしていた。
『ゆうか、戻ったんだな!』
聞き慣れた海人の声だ。
海人『ゆう、どうだった? 勝てたか?』
ゆう『あぁ、2回戦終わったら、またこっちに戻された。』
海人『おぉ、さすがだな。 2回戦立ち上がったものは、一旦休憩を挟むらしい』
ゆう『そうか、それはよかったが..この騒ぎはなんだ!?』
海人『実は──。』
海人『Team.Venusのツバサが、戦いに敗れただけでなく、そのチームから脱退すると宣言したらしい。』
ゆう『なんだって!?』
ゆう『いったい、何がどうして─!?』
海人『詳しくはわからないが..ツバサと、あともう一人脱退が決まったらしい。』
ゆう『それは?』
海人『シャロって奴だ。』
ゆう『脱退って.. ツバサさんが戦った奴は、そんなに強いのか!?』
海人『どうやら今回の大会とは関係なく、規格外でバトルがあったらしい。相手は、このゲーム関係者らしいけど..』
ゆう『でもTeam.Venusだって、このゲームの監視役であり、指導者。言わば関係者だろ?』
海人『だから、いろんな所で総論になっているんだ。 それ以上詳しい事は、まだわからない。』
ゆう『そんな..』
海人『ツバサって人、お前の知り合いなんだろ? お前こそ何か聞いてないのか?』
ゆう『いや、俺は何も..』
───いや、待て。 ハルさんに最後に会ったとき、ハルさんの様子はどうだった?
以前と同様、いたって普通な、ありのままのハルさんだった。
可能性があるとすれば..俺が話した、誠司さんの失踪の件か?
ノルンの話からすると、失踪したのは誠司さんだけではなく、他にもいるらしい。
だとすると、責任を感じたハルさんが、ゲーム内で何かしたのか?
でも、あのハルさんの使うツバサというキャラは、Team.Venusでも一目置かれていて、チーム内でも最強のハズ。
俺が微動だに相手出来なかったツクヨミちゃんが言ってた。
────絶対的に神にも等しい存在だと。
だとしたら、どうして負けたんだ? 相手はどんな奴なんだ。
────いてもたってもいられず、ゆうはハルさんに連絡を取ろうとした。
──だが、LINEも電話も、応答はなかった。
海人『無駄だと思うぜ。そのツバサと、それからシャロのプレーヤーなら、この大会の間際、病院に搬送されたらしいからな』
ゆう『病院!? ゲームで病院送りになるのか!?』
海人『このゲームは普通じゃない。そんなのは、とっくに分かってた事だろ?』
海人『少し落ち着いてくれ! 今ここで焦ったって、俺達には何にも出来やしない』
ゆう『.....たしかに、そうだな。わるい..すまなかった』
海人『リーダーなら、まずは他人の心配より、仲間の心配だろ? 向こうで美弥花達が、お前が目覚めるのを待ってたぜ。』
ゆう『......そうか、わかった。すぐに向かう』
そしてゆう達は、美弥花達の元へ向かった。
ゆう『遅くなってすまない。みんな無事か?』
美弥花『あ!ゆうだ。お疲れさま~。』
ゆう『お疲れ。どうやらみんな、無事のようだな。』
美弥花『無事っていうか....う~ん..』
ゆう『ん?どうした? まさか、どこか痛むのか?』
美弥花『そういうのじゃ..無いんだけど..』
海人『それについては、俺から話そう。ミヤカ初戦敗退。それからシンが、2回戦目敗退だ。』
海人『いずれも運悪く、Team.Venusにあたったらしい』
ゆう『マジか..それぞれ誰にあたったんだ?』
────美弥花が俯きだした。何も答えたくないと言わんばかりだった。
結奈『美弥花さんは、Team.Venusの中でも最も敵視していたステラって人にあたりました。』
信司『私はミクって方です。開始早々、ものの2、3分で勝負が着きました。』
ゆう『そうなのか..やはりTeam.Venusは、それ程までに強いんだな..』
ゆう『他はどうだった? 海人と直樹、あと結奈ちゃんは?』
結奈『私は、なんとか2回戦突破出来ました。』
ゆう『凄いじゃん。ただでさえ、遠距離支援攻撃タイプのテラだったら、不利かと思っていたんだが』
結奈『たまたま運がよかっただけです。でも、次の戦いは、ホント絶望的です..』
ゆう『次?次の対戦相手がわかるのか?』
海人『2回戦突破したものは、次からのトーナメントがフロアに貼り出されているぞ』
ゆう『そうなのか..後で見に行ってみよう。んで、その次の結奈ちゃんの相手は?』
そうゆうが聞くと、珍しく大人しい直樹が黙って手を上げた。
ゆう『お前か!?』
直樹『うん、そうだ..せっかく勝ち上がって来たのに、とんだ采配だよ』
直樹『結奈ちゃんと、どう戦えっていうんだよ~』
ゆう『何というか..トーナメントだからな。勝ち上がれば、いずれ必ずこの中の誰かとあたる。それは避けられないからな~』
直樹『あ~ぁ。海人やゆうだったら、遠慮なくぶちのめせるんだけどな~(笑)』
ゆう『おい!それはどういう事だ(笑)?』
直樹『それに..次の対戦相手で言えば、お前達もかなりヤバいぜ。』
ゆう『俺達の相手を見てきたのか?』
直樹『あぁ。さっきトーナメント表を確認したら、ゆうの相手はTeam.Venusのニコって奴だったぜ?』
ゆう『ニコか..直接会った事があるのは..たしか美弥花だったな』
美弥花『..........』
ゆう『...んで、海人の相手は?』
海人『俺の相手は..ツクヨミって奴だ。』
ゆう『なるほど..とうとう、Team.Venusと正目衝突ってわけだな。』
海人『ゆう、次にお前が仮にニコに勝てたとして、その次の相手は俺かもしくは、そのツクヨミだ。』
ゆう『なんだって!? もはや絶望的だな』
海人『あぁ。ともかく俺達はまず、Team.Venusを倒そう!それだけを考えるんだ』
ゆう『おう!燃えてきたぜ!』
直樹『あ!ちなみに3回戦には、もうひと組、面白い組み合わせがあるぜ。』
ゆう『それは?』
直樹『美弥花と信司さんが負けた、ステラとミクの大勝負だ。どちらが強いんだろうな~』
ゆう『それは見物だな。と言っても、見ることは出来ないが..』
信司『まぁ、その後の経緯については、私達が見てお伝えします。』
信司『当然、皆さんの事は全力で応援しています!頑張って下さい!』
ゆう、海人『おう!』
結奈『はい。』
信司『それと..』
信司『誠司の事、何か少しでもわかったら..よろしくお願いします。』
ゆう『うん、任された。』
─────。
直樹『さてと、それじゃ時間もまだあるし、腹ごしらえしようぜ?』
ゆう『そうだな。売店で何か買ってこようか』
信司『あぁ、それなら私が行きます。どうせ私はこのあと出番ありませんし..皆さんは、ゆっくり休んでて下さい』
結奈『あ!じゃ、私達はちょっとトイレ寄ってから、飲み物でも買って来ますね。 美弥花さん、行きましょう!』
そう言うと、結奈ちゃんと美弥花は、颯爽と姿を消した。
しばらくして───。
『ゆうさん、南エリアの休憩所まで急いで来て下さい!』
──と、結奈ちゃんからLINEが来た。
ゆうが急いで向かうと、そこには結奈ちゃんの姿はなく、美弥花だけが、ベンチに一人ポツンと座っていた。
声をかけようかと思ったその時、再度、結奈ちゃんからのLINEが来た。
『美弥花さん、今日初戦でTeam.Venusと当たって負けた事、凄いショックだったみたいです。どうか、元気づけてあげて下さい』
....結奈ちゃん、どこかで見ているのだろうか?
とはいえ、それは俺も勘づいてはいた。
──ただ、なんて言ってやったらいいか、わからなかったんだ。
────────とにかく、勢いに任せてテンション上げて..
ゆう『よう、美弥花! こんな所で何やってたんだ?』
美弥花『あぁ..ゆうか.. お疲れ様。』
ゆう『お疲れ様。 いつものような元気が見えないけど..大丈夫?』
美弥花『ううん、ごめん。そんな事ないよ..』
──────────。
会話が途切れてしまった..。 いつもなら、美弥花相手だと楽しくて何でも話せるのに..。 こんな時に限って、気の利いたセリフの一つも出てこない。
──このままだと息が詰まるので、後の事を考えるのは辞めにして、直球で問いかけた。
ゆう『もしかして、ステラに負けたの..悔やんでいるの?』
美弥花は黙ったまま、そのままコクりと頷いた。
ゆう『そんなの気にしなくても..相手が悪かったんだし、美弥花じゃなくても、そう簡単には誰も適わないよ!』
美弥花『..うん、でも予選ではいい線いってると思ったのに..』
美弥花『気が付いたら、あっさり負けてた..』
ゆう『でも、美弥花は頑張ったんだろ? 何も悔やむ必要なんてないよ。』
ゆう『.....ごめん、上手く言えなくて。』
美弥花『でも、....でも、私、何も頑張ってない! 頑張る隙も無かった。 始まってすぐ、ボロボロになった。一撃も与えてやれなかった..』
美弥花が感情昂ぶって、泣きながら答えた。
美弥花『私、みんなと約束したのに..勝ち上がって、誠司さんを救おうって、みんなで..約束したのに..』
ゆう『....いや、美弥花は頑張った。美弥花は、このゲームの恐怖に打ち勝って、一緒にここまで来てくれたんだ!』
ゆう『誠司さんの事は、残った俺達でなんとかする。』
ゆう『..美弥花の仇は、俺が打ってやる。何も心配しなくていい! 今の..美弥花の感じてる悔しさの全てを、俺にぶつけてくれないか? 俺がその何倍も、アイツらにぶつけてきてやる』
勢い任せに、思ったことをそのまま全て吐き出した。
どう反応が返ってくるか..不安ではあったが───。
美弥花『..フフっ』
美弥花『..何言ってんの(笑)? いいの?遠慮しないよ?』
美弥花がちょっと笑った──。
ゆう『いいさ、ドーンと来い!』
そして、美弥花は拳を構え、真っ直ぐにゆうの胸元に正拳突きをかました!
─────ドン!
ゆう『うっ!』
女の子とはいえ、本気のパンチは..正直、かなり効いた。
美弥花『ゆう! ごめん、痛かった..よね?大丈夫?』
ゆう『だ..大丈夫! 大丈夫! 問題ない。』
美弥花『そうは見えないけどなぁ..。』
ゆう『でもこれで、美弥花の想いは、しかと受け取ったから。』
ゆう『あとは、任せてくれ!』
美弥花『うーん..ちょっと心配かも(笑)』
ゆう『こういう時くらい、カッコつけさせてくれよ(笑)』
美弥花『まぁ、ちょっとだけね。格好良かった(笑)』
美弥花『ありがと。』
美弥花に笑顔が戻った。──やっぱり美弥花は、この顔が一番似合ってる。
─────────。
そして、やがて食事を済ませると、いよいよ時間がやってきた。
司会『それでは皆様、時間になりましたので、各カプセルに戻り、再ログインを行って下さい。』
────そして、
今度は、薄暗い洞窟のようなステージ。
けれど、至る所にマグマが流れ、赤く淡い光で覆われている。
『なるほど、あんたがユウね。まずはここまで辿り着けた事を、誉めておくべきかしら?』
ユウ『そういうあんたが、ニコか。思っていたより、ずいぶん小さいんだな』
ニコ『もしかして、ナメてる? 余裕かましてると、一瞬であの世行きよ。 死の恐怖を脳裏に焼き付ける事になるわ』
ユウ『まさか。 Team.Venus相手に、余裕なんて一欠片もないね。 ただ───。』
ユウ『..ただ、戦えるのが楽しみで武者震いしてるだけさ。』
ニコ『そう───。それはよかったわね。』
ニコ『そのテンション、いつまで続くかしら!』
ニコがユウを目がけて、真っ直ぐに突っ込み、懐に右ストレートをかました。
あまりのスピードに、その目で捉える事が出来なかったが、なんとかガードに成功した。
───だが、剣で受けた衝撃に、両腕が痺れ、痙攣を起こしていた。
ユウ『なるほど..君は、そのグローブで、近距離かつ速攻タイプか..』
少し強がって見せたが、次第に恐怖に呑まれていく───。
──うそ..だろ!? こんな攻撃、あと2、3発もくらえば、もう立っていられる自信がない。 ホント、一瞬にしてゲームオーバーだ───。
ユウ『.............』
ニコ『悪かったわね。私、今いろいろあって虫の居所が悪いの』
ニコ『次の一撃で、あんたはもう、戦えなくなるわ』
恐らく、ハッタリではない。 今のが本気でないとすれば..
次の一撃で、仕留めに来る気だ──。
もちろん、まともにくらうつもりはない──。
だが、植え付けられた恐怖心から、身体が硬直している。
ニコ『行くよ!』
──────ズドーン!!
目にも止められない速さで、正拳突きをした。
────美弥花のも速かったが.. これは段違いだ。
それでも、間一髪で回避する事に成功した。
ニコ『あら、ちょっと足りなかったみたいね。』
ニコ『次は、もう少し上げて8割くらいのスピードで行こうかしら..』
ユウ『そうか、まだ本気ではないよな。そりゃそうか..』
恐怖心が抑えきれなかった。回避出来たのも、たまたま運が良かっただけだ──。
恐らく、動揺はニコにも既に気付かれている。
ニコ『あんたがどれだけ足掻こうが、たとえ本気になって鬼化しようが、私には勝てっこない。』
ニコ『というか、鬼化すらさせない。出来っこない!』
ユウ『...それは随分と、なめられたものだな。』
──口では負けじと、反論する。
ユウ『どうやら、鬼化についても随分詳しいらしい。』
ニコ『あなたの鬼化なんて、発動条件さえわかれば簡単に回避出来るわ』
ユウ『────発動..条件?』
ニコ『あんたの鬼化の火種となっている最大の条件は、感情。』
ニコ『憤怒や、悲しみ。極限状態に陥った時の絶望、敗北感。様々あるけど..』
ニコ『どれもこれも、自分では抑えきれない感情そのものが、あんたの鬼化の根源。』
ニコ『私はね、相手の感情を読み取り、それをコントロールする能力を持っているの。』
ユウ『..何だって!? 感情をコントロールする能力?』
ニコ『そう。私達、Team.Venusはそれぞれ、皆違った特殊能力を持っているわ』
ニコ『現にあんたは、怒りを通り越して、恐怖で怯えている』
ユウ『─────!?』
ニコ『ただ恐いっていうだけではない。戦う事すら辞めたがって、逃げようとしている。』
ニコ『確かに絶望的な状況ではあるけど..本当の鬼化を恐れているあんたは、結局、何もしようとせず、戦略や対抗意識すら、考える事も出来ず、ただ、逃げ続けるだけ..』
ユウ『..........』
───完全に読まれている。もはや、言葉も出なくなった。
ニコ『それが、私の狙い通り。──私の能力。』
俺が恐怖に押し潰され、身動き出来ないのは、こいつの能力のせいだって言うのか..!?
ニコ『この前、あんたのとこの女の子に、私の教えた能力の一部を実験台として使わせてもらったわ。』
女の子? それは、もしや美弥花か──?
ニコ『結果としては、予想を上回る程の効果テキメン。あんたはみるみるうちに、鬼化が解けていったわ』
ニコ『あの娘が挑発に乗ってくれたおかげで、鬼の弱点もわかった。 ..それにしても、とても素直で、単純な娘ね。』
ユウ『..........』
ニコ『ま、そのおかけで私があんた達に手助けしたと誤解されちゃって、シャロの次に仕打ちを受けるのは、本当は私のハズだったんだけどね..』
──ん!? シャロの次に仕打ち? 一体、Team.Venusには今、何が起こっているのだ?
ユウ『それは、...どういう....?』
ニコ『──口が滑った。 あんたには、関係ない事ね。』
ニコ『まぁ、とにかく、あんたの感情は既に私の手の中にある。もはや鬼化する事なんて出来やしないわ。』
───今の話、頭の中で整理して、もはや理解する事も出来やしないが..
──ただなんとなく、相手は「鬼化を恐れている」という事はわかった。
すると──────。
─────『人を助けるのに理由なんていらないだろ?』(ユウ)
─────『よろしくお願いします』(ノルン)
─────『誠司の事、よろしくお願いします』(信司)
─────『うん、任された』(ユウ)
─────『美弥花の仇は、俺が打ってやる』(ユウ)
─────『ありがと。』(美弥花)
これまでの仲間達の笑顔や、期待の眼差しが、ユウの頭の中で一気に流れ出す。
────ここで諦めたら、全ての望みが叶わなくなる。
──────これは、俺一人の戦いじゃない。
勝ち負けにこだわってる場合じゃない。
約束を守ろう───。
──────────────。
余計な考えを一切辞めて、それだけを考えた。
感情のコントロールなんて、考え方次第で、どうとでも変わる。
────────────。
恐怖を感じるんじゃなく、あの笑顔を。あの時の、皆のあの笑顔だけを考えよう。
───────────。
───すると、気付けば、だんだん声が出せるようになっていった。
ユウ『監視役..。』
ニコ『───ん?』
ユウ『あんた達Team.Venusは、...鬼を監視し、撃退する事が任務....なんだろ?』
ユウ『それは....言い換えれば、あんた達....』
ユウ『鬼が..恐いんだろ?』
ニコ『────な!?』
ユウ『感情をコントロールされて...身体の動きが鈍ったところで....それだけじゃ..鬼化は、止められないぜ』