Append ACE 6
ハルさんからのLINE──。
こちらからは、あえて連絡をしないでいた。
誠司さんの件もあったが、
月夜ちゃんと同様、同じTeam.Venusであっても、今回の件にはハルさんは関わっていない。
関わっているのは深雪って人であって、ハルさんは関係ない。
────そう、思いたかった。
いや、そうであると信じたい。
───────────。
俺はハルさんと連絡取り合い、仕事を早めに終わらせ、待ち合わせ場所へと急いだ。
────。
ハル『あ、ごめんなさい。私が呼び出したのに遅れてしまいました。』
ゆう『いえ、俺もさっき来たばかりですので。』
ハル『でも、来てくれてよかった。本当は来てくれないんじゃないかって心配しました。』
ゆう『そんな訳ないじゃないですか。それに実は私も、いろいろとお聞きしたい事もありましたし』
ハル『うん、そうだよね。いろいろ気になるところ、あるよね』
ハル『不安なところだってあるよね..』
ハル『それだけの事を、私はしたんだから──。』
ゆう『..........』
ゆう『..まぁ、ところで、ハルさん夕飯食べました?』
ゆう『よかったら、食事しながらでも話しませんか?』
───以前、ゲーム内でハルさん、というよりツバサに対して怒鳴りつけた事もあったので、正直、居心地が悪かった。
重々しくなる空気に耐えられそうになかったので、まずは本題を避け、この空気をどうにかしたかった。
────────。
ハル『おいしい。こんなお店があるなんて知らなかった』
ゆう『俺もまだ1回しか来たことなかったですが、どうやら穴場らしいです』
ハル『そうなんだ。教えてくれて、ありがとう』
どうやら、元気になってもらえたようだ。
さっきはなんか、思い詰めた顔をしていたから───。
─────。
やがて食事が終わると、ハルさんの方から、話を切り出した。
ハル『ゆうくんは、あのゲームの事どう思ってる?』
ハル『やっぱり、不安..だよね?』
ハル『もし辞めるつもりなら、それでも仕方ないって私は思ってる。』
ゆう『───それは..』
ハル『もし仮に、ゆうくんがあのゲーム辞めちゃっても、私は──。』
ハル『..私は、もしゆうくんさえよければ、またこうして会って、お互いの関係を築いていければって思ってる』
ハル『今日はそれが言いたくて..』
ハル『だから..』
ハル『だから今日は、Team.Venusだとか、そういう話は一切なしにして──』
ハル『..ただハルとして、今日ゆうくんに会いに来た』
ハルさんは潤んだ瞳で、真っ直ぐに俺を見つめた。
ゆう『..俺は、辞めるつもりはありませんよ』
ゆう『それに俺だって、ハルさんとの関係を終わりにしたくはないですから。』
────やっぱり、そうだ。
この人は、ハルさんは今回の件には何も関わっていない。
もし、ハルさんが関わっていたとして、それをずっと黙っていたり、嘘をついたり出来る人じゃない!
正直、少しでも疑った自分が情けなくて───。
──それにどうやらハルさんは、あの大会の直後に人が失踪したという事すら、知らないようだった。
ゆう『それはそうとハルさん、深雪って人、ご存知ですか?』
ハル『深雪..あ!そうか、ユキの事か』
ゆう『もしよかったら、その深雪って人、それから他のメンバーの方々が、それぞれどんな方か教えてもらってもいいですか?』
ゆう『..わかる範囲で構わないので。』
ハル『どんな方って言われてもなぁ..。』
ハル『深雪さんは..正直、あまりよく知らないの』
ハル『実はあの時、予選大会で会ったのが初めてで、実はまだ連絡先すら知らない』
ゆう『!?──そうなんですか』
ハル『でも実際、深雪さんだけじゃなくて、あの時初見だった人は他にもいるの』
ハル『ステラの娘やミクの人、あとは..ツクヨミちゃんかな』
ハル『でも、ツクヨミちゃんは可愛いんだよ♪』
ハル『実際は中学生の女の子で、本名は月夜ちゃんって言うの♪』
ゆう『中学生なんですね、それは凄いです』
つい先日会ったばかりだが、経緯とかいろいろ説明すると、結果的にハルさんにいらぬ心配をかけてしまいそうだったので、今回は誤魔化しておいた────。
ハル『本当凄いよね。見た目はあんなに小さくて可愛いのに、ものすごく頭良くて、それでいて強い..』
ハル『初めて会った時は緊張しててガクガクだったんだけど、それもまた可愛くって、声をかけたら、すぐ仲良くなっちゃった』
ゆう『なるほど..』
ハル『あとは..あゆむと、仁奈だね』
ハル『うちのチームのシャロって子があゆむで、ニコって子が仁奈だよ』
ハル『2人は元々仲良しで、あゆむが同級生。仁奈が大学生。』
ハル『まずあゆむは、穏やかで、弟妹が多いから面倒見のいい子だけど、ちょっとドンクサイかな....長女なのにね(笑)』
ハル『んでもって仁奈は、チームの中でも一際ガッツある子で、男勝り。照れ屋なところもあるけど(笑)』
ハル『2人ともゲーム始めたころからの仲間で、付き合いも長い。───けど、』
ハル『それを聞いて、ゆうくんはどうするのかな?』
ハルさんは笑顔で問いかけた。───それに対し、
ゆう『敵状視察ってやつですよ。言わばTeam.Venusはエリート集団って感じですしね』
────と、答えた。
ハル『なるほど、参考になったかしら?』
ゆう『ええ、とても。』
───────。
ゆう『・・・・・・・』
ハル『どうしたの? 何か落ち着かない様子だけど..』
ゆう『やっぱり・・・話すべきだと思うので、お話します』
ゆう『実は────。』
その後、誠司さんの失踪の件についてハルさんに話した。
本当はなるべく心配かけたくなかったのだが、人1人がいなくなったのだから、話さない訳にはいかない。
それに、Team.Venusが関わっているのであれば、いずれわかることだ。
─────────。
ハルさんは、驚きを隠せないといった様子でゆうの話を聞いていた。
その後しばらく黙った後、ハルさんはこう言った。
ハル『その件については、早急にこちらでも調べてみます』
ハル『何かわかったら、すぐ連絡しますので。』
ゆう『よろしくお願いします!』
───そして、その日は解散した。
────誠司さんの件に関しては、ほとんど得られる情報は何もなかったが、ただ一つわかった事は、
恐らく、深雪って人は単独で行動し、誠司さんに接触した可能性が高いって事だ。
もしくは、裏で指揮をとっているゲームの関係者、つまり第三者が関わっているという可能性も捨て切れなかった。
以前、ツバサ(ハルさん)が言っていた上層部の可能性。
その上層部っていうのが、いったい何者でTeam.Venusにどう関わっているのか、それはハルさんでも、詳しい事はわからないようだった....。
────そして時は流れ、本戦当日を迎えた。
─────本戦。
それは予選と同会場で行われた。
予選を生き抜いたものだけが参加する事を許された場所で、前回とは違い、人がごった返す程の参加はなかった。
予選で、どれだけの人数が脱落したのか..
また、予選を通過したものの、単純に予定が合わないか、はたまたこのゲームのバトルシステムに恐怖心を抱き、参加を拒絶した人達も少なくはないだろう───。
それは我々のチームも、例外ではない。
様々な想いが交錯する中、それでも参加する事を選んで、決意を固めた人達がこの会場にはいる。
ともあれ、我々Team.Aceは脱落者1名を除いた残り6名、全員参加を選んで、今、ここにいる。
今回も前回と同様、受付にてそれぞれの専用のID入りのカードが渡され、メイン会場へと足を運んだ。
──────。前回より、殺風景な会場だ。
ログインシステム専用機となるカプセル型の装置が、対極的に一列に並び、配置されていた。
以前は、チームごとに一つにまとめられたカプセル装置だっただけに、今回はこの配置から察するに、チーム戦という概念を大きく覆すようなものだった。
そして案の定、一人一人のネームが入った席を確認していくと、
───チームが全員バラバラに指定された席だった。
メンバーは皆、会場に足を踏み入れるやいなや、終始無言だった。
─────────。
指定された席に着き、開始時間を迎えると、前回と全く同じアナウンスの声が会場内に響いた。
アナウンス『皆様、よくぞお集まり下さいました。』
アナウンス『これより、本ゲーム大会の本戦を執り行いたいと思います!』
アナウンス『本戦はトーナメントによる1対1の勝ち越し戦で、最終的に勝ち上がった選手のチームが優勝を飾る事となります。』
───やはり、悪い予感は的中した。
我々Team.ACEはそこそこ名を知られているとはいえ、それはチームの団結力がその功績を讃えるもので、今回のように個人戦ともなると、どちらかというと我々は不向きだ。
でもそれでも、メンバー全員のそれぞれの目は、闘志を失ってはいなかった。
────ところで、深雪って人は来ているだろうか。
ハルさんの姿は、まだ見かけてはいないが──。
アナウンサーの合図で参加者が続々とログインしていく。
今まさに始まろうとしたその時、聞き覚えのある声が隣の席から聞こえた。
『ご無沙汰しております、ゆうさん』
振り向くと、その隣の席には月夜ちゃんがいた。
月夜『今回も、よろしくお願いしますね』
ゆう『こちらこそ、よろしくお願いします。ってかごめん、隣に月夜ちゃんがいるの全く気付かなかった(笑)』
月夜『そんなに緊張しないで下さい。私らのように、近距離戦闘タイプのキャラにとっては、むしろ有利な条件なのですから』
ゆう『そ、そうだね。せいぜい頑張ってみるよ』
月夜ちゃんは、えらく落ち着いていた。
まさか中学生に、言われるとは。 本当に大人びている。
アナウンス『さぁ、それでは始めて下さい。1回戦スタートです!』
───合図とともに、再びゲームの世界へ入っていった。
────────。
───ここは!?
─────そこは、廃墟となった古城だった。
西洋式の城で、所々が破壊されている。
時間帯はわからないが、月明かりがさす夜だった。
目の前に人影が見える。
『そ、そこにいるのは誰ですか!?』
むこうから問いかけてきた。 どうやら、相手も見えてないらしい。
────でもそれは、当然の反応だった。
今回の闘いはトーナメント方式と言うものの、バトルが始まるまで対戦相手がわからないというのだから、相手の情報を探って戦略を練るなど、まず不可能。
戦闘タイプも、姿、形もわからないのだから、戦況が有利になるか不利になるかは、まさに運次第なのである。
なので、最初は相手の出方を探って駆け引きにでる。
恐らく、序盤は膠着状態が続くだろう。
そう、思っていたのだが────。
『もう‥暗いし、何もわからないよ~』
『と..とにかくナツ、GO!!』
───────!?
暗闇の中から、突然猛獣が現れ突進してきた──。
ユウ『うわっ!? なんだ!?』
爪がユウの身体を引っ掻こうとしたが、間一髪で避けた。
獣『んのぉーー。・・避けられた』
獣『すばしっこい奴だなぁ』
───獣が喋った!
よく見てみると・・猛獣..というよりは、大きな兔耳で、少し愛嬌が感じられる可愛い感じの、小さい・・・?
──とにかく獣だった。
ユウ『なんだお前、言葉話せるのか? ただのモンスターではないな』
獣『モンスター? そんな奴らと一緒にするな。 我はナツ。パム族の生き残りだぞ。』
ユウ『パム族?』
獣『そんな事も知らないのか。 んのぉー。 知能の低い奴よのぉ』
ユウ『悪かったな。ってか、モンスターでないなら、何故こんな所にいる? お前の目的はなんだ?』
『その子は、私のパートナーです』
暗闇の中から声がした。 またしても、女の子の声だ。
女の子『その子は私のパートナー、一緒に戦ってくれる仲間です』
少しずつ歩いて来る。
やがて、月の光が射すところまで来て、お互いに顔が見えた。
女の子『あっ!? あなたは..』
ユウ『.....ん!?』
その女の子は、月明かりに照らされて凄く綺麗で、とても美しかった。
・・・・・ちょっと見とれてしまった。
───いや、待て待て。今はバトル中だ。
ユウ『.....君はいったい、誰だ?』
女の子『私はノルンと言います。..あなたは、ユウさんですか!?』
ユウ『そうだが..何故知ってる?』
ノルン『あ!いえ、それは....その....な、内緒です!』
彼女は慌てて真っ赤になった顔を隠して誤魔化した。
ネームを見ようとしたが、チーム名まではよく見えなかった。
ユウ『・・・そうか。別にいいけど、君が初戦の相手か?』
ユウ『失礼だが..とても、予選を生き抜いた猛者には見えないな』
ナツ『それはずっと、我がノルンを守ってきたからな。』
ナツ『我はノルンの武器であり、盾だ。..決して、ペットなんかじゃないぞ!』
ユウ『・・って事は、君はつまり、猛獣使いか?』
ノルン『正確には違います。私は、召喚士です』
よほどレベルの高い召喚士なのだろう。
さもなければ、予選のあの大勢のモンスターを前に、生き残れるハズはない。
・・というか、それよりも。
──────どうしよう..!? 戦いづらい。
彼女が武器を持って前線で戦っていたわけではないので、攻撃にためらいが生じる。
ましてや、その綺麗な出で立ちと幼さの残る美しい顔に、傷を付けたくは無い。
とりあえず、ダメ元で聞いてみた。
ユウ『あの、ノルンさん。降参してくれませんか?』
ユウ『なんか、あなたを傷つける気にはなれない..』
ナツ『んのぉーー!! なんだと!? なめられたもんだな。お前なんぞ、ひとひねりだ!』
そういうと、ナツは腕を巨大化し、鋭利な爪で攻撃を仕掛けてきた。
剣で攻撃を受けきり、反撃に出たが、ナツの腕には頑丈な鱗が無数に生えており、いとも簡単にガードされた。
ユウ『なるほど、たしかに強いな。頑丈なだけじゃなく、スピードも速い。』
ナツ『んのぉ。どうだ、凄いだろう!エッヘン!』
見た目とは裏腹に、これは片手間に対処出来る相手ではない。
──しばらくナツの攻撃に反撃を仕掛けながら、攻略法を探っていく。
ナツ『・・んのぉ。なかなかやるな。お前もすばしっこい』
ナツ『ここまで時間がかかったのは、お前が初めてだ。』
ユウ『そりゃ、どうも』
・・なんて、言ってる余裕は本当はなかったが、いつまでも続けていても、体力の限界を感じるので、ここは一発賭に出てみた。
ナツの攻撃を受け流した直後。
ユウ『ラインズストライク』
持てる全力の体力を使って、ナツの背後に回り込み、必殺技をかました。
──ズドーーーーン!!
攻撃は見事命中。ナツはノルンの方へ吹っ飛んだ。
ナツ『いで。いでででででで。』
ノルン『ナツ!!』
ナツ『もう、怒ったもんね!』
そういうとナツは、身体中を真っ赤にして、目つきも変えた。
ナツ『んのぉーーーーー!!』
ユウ『ヤバいな。・・まさか、こっからが本番なんて、さすが獣だ』
ナツは両腕を振り回し、一目散に突進してくる。
直感で身の危険を感じたユウは、攻撃を受けようとせず、剣の推進力と最大限のもてるスピードを使い、これまた間一髪で避けた。
────だが、ナツは突進直後に身体を半回転させると、その遠心力で腕を回し、避けたつもりのユウの頭上に振り下ろした。
『ズガーーーーーーーーーン!!』
爪ではなく硬い鱗の方で、ユウを地面に叩きつけた。