Append ACE 5
突然現れたハルさんに、ユウは驚きを隠せなかった。
聞きたい事や、話たい事が山ほどあるのに..
いざとなったら動揺して、声が出なかった───。
ツバサ『ステラ、あなたの役目は終わりました。』
ツバサ『刀をお納めなさい。』
ステラ『で..ですが、ツバサ様!』
ツバサ『問答無用です。 ..お気持ちはわかりますが、先程上層部より通達がありました』
ツバサ『今回の件においては、我々Team.Venusは直ちに撤退。』
ツバサ『そして──』
ツバサ『今、この時をもって予選は終了するものと致します。』
─────すると、
『カーン! カーン! カーン! カーン!』
マップ全域にに鐘の音が鳴り響く。そして、アナウンスがかかった。
アナウンス『皆様、お疲れ様でした。只今をもって後半戦は終了致します。』
アナウンス『今、この場に生き残った参加者様全てが、予選通過と致します。』
アナウンス『本戦は一週間後。再びこの場所で執り行います。』
アナウンス『皆様、直ちにログアウトの後、速やかにお帰り下さいませ。』
─────────。
テラ『..あ、終わりました!』
ナオト『最後はなんか、あっけなかったな。というか、中途半端な気が..』
カイト『まぁ、ともあれ、俺達はみんな予選通過ってわけだ』
カイト『..一人を除いて..だかな』
シン『あいつ、大丈夫かな? きっと落ち込んでるな』
テラ『戻ったら、皆で励ましてあげましょ!』
シン『そうだな。そうしてもらえると、あいつも喜ぶよ』
ナオト『んじゃ、そうと決まったらとっとと元の世界へもどりますかね』
カイト『そうだな』
カイト達は、終了の合図と共にスマホに映し出された手順通りにログアウトを行った。
─────────。
ステラ『くっ..』
ステラ『..命拾いしたな、Team.Aceのリーダー。』
ステラ『本戦は一週間後だ。その時は、我々Team.Venusもお前等と同様、一般選手として大会に出る』
ステラ『今までと違って、本戦では手加減は無しだ!』
ステラ『首洗って待っていろ!』
そういうと、ステラもログアウトをし、その場から消えた。
ミヤカ『ふぅ..』
ミヤカ『一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったね♪』
ミヤカがため息をついた後、ユウに笑顔で話かけた。
──すると、それを見たツバサがユウ達の元へ降りてきた。
ツバサ『ミヤカさん、それにユウ、この度は大変申し訳ありませんでした。』
ツバサが頭を下げた。
ミヤカ『あ、いえいえ、ツバサさんが頭を下げる事じゃないですよ!』
ミヤカ『あのステラって奴は気に入らないけど..』
ミヤカ『Team.Venusも、みんなが悪い奴ってわけでもないですしね♪』
ツバサ『いいえ、チームの責任は私の責任です。大変な失礼と、ご迷惑をおかけしました。』
ミヤカ『でも実際、あのステラって子は何が目的だったの?』
ツバサ『それは話すと長くなりますが..』
ツバサ『ただ今言える事は、Team.Venusは、それぞれがそれぞれの考えのもとで目的を遂行しようとしています』
ツバサ『あの子のやり方も、間違っているわけではないんです』
ツバサ『ただ..』
ツバサは言葉を濁した。
『じゃぁ、鬼ってなんなんだ?』
────ユウがようやく口を開いた。
ユウ『鬼システムって、いったいなんなんだ!?』
ユウ『あんた達は、鬼を殲滅する事が、目的なんだろ!?』
ユウ『その鬼を、各チームごとに背負わせているのは何故なんだ!? Team.Venusの、本当の目的ってのはなんなんた!?』
気が付くと、興奮して怒鳴り口調になっていた。
ツバサ『───それは..』
ツバサが言葉を詰まらせた。
ミヤカ『ま..まぁ、今回は結果的には私達は無事だったわけだし、それでよしって事で..』
ユウ『──いいわけないだろ!?』
ユウ『俺達はゲームとはいえ、恐い思いもしたし、何より痛み、苦しんだ..血を流して、仲間が死ぬところを目の当たりにして、それでゲームだからって、一言で片付く話じゃないんだよ!!』
ユウ『これは本当にゲームなのか? あんた達がやっている事は、その全てが間違いじゃないって、胸張って言えるのか!?』
────ユウは思いの丈を全てツバサにぶつけていた。
それまでの恐怖と絶望を思い出し、マジギレしていた。
ツバサ『..本当に申し訳ありません。』
ツバサ『このゲームの全貌を、全てをお話する事は出来ませんが..』
ツバサ『.......』
ツバサ『鬼については、私の知る限りの全てをお話致します』
──そして、ツバサはこのゲームの鬼について語り出した。
─────────。
ツバサ『鬼..それは、人口的に作りあげた人型の戦闘兵器です。 この世界のモンスターと、プレーヤーが独自に作り上げたキャラクターを元に、掛け合わせで創造された..いわば新種の生命体です。』
ツバサ『上層部の目的としては、その鬼を、プレーヤー自身で制御し、コントロール出来るだけの逸材を捜すこと』
ツバサ『今回の大会でプレーヤーを召集した本当の目的がそれです』
ツバサ『より強いプレーヤーを、より強いキャラクターを厳選して、各チームごとに1名、鬼の役割を背負わせ実験する事が目的だったのです』
ツバサ『..ただ、大会前に既に鬼と確定されたプレーヤーも、中にはおりました。』
ツバサ『それがTeam.Aceのリーダー、ユウ。あなたです。』
ツバサ『だから、どうしてもユウさんには参加していただきたかった』
ツバサ『..ですが、信じて下さい。私が最初にあなたに接触したのは、あくまで個人としてで、途中まではあなたが、このゲームのプレーヤーだって事すら、全く知る由もありませんでした』
ツバサ『私はネットでユウさんと知り合うだいぶ前からTeam.Venusのリーダーとして務めて参りました』
ツバサ『今回の任務においてのTeam.Venusとしての役割は、鬼の殲滅。』
ツバサ『それは、鬼と化したプレーヤーが完全に自己を失い、心身共にモンスターに浸食されてしまい、暴走。..言うなれば、失敗作の殲滅でした。』
ツバサ『今回の実験の結果としては、鬼と化したプレーヤーのほぼ全てが、暴走。よって殲滅。といった結果になってしまいました。』
ツバサ『それは我々の予想を覆すものでもあり、絶望しました』
ツバサ『..それはユウ、あなたも例外ではありません』
ツバサ『あなたは、結果的には今、こうして人の姿を保っていられますが..それには仲間といった、かけがえのない存在があったからこそなのです』
ツバサ『正直、仲間の存在が無ければ、あなたも失敗作とみなされ、排除されていた事でしょう』
ツバサ『鬼が失敗作とみなされ、排除される理由としては、実は大きく分けて二つあります』
ツバサ『まず一つは、先程話したのと同様、鬼が自らを制御出来ずに暴走した場合、失敗作とみなし、殲滅します』
ツバサ『そして二つ目、何より大前提として、鬼に任命された者が、本大会中に鬼化する事が見られなければ、それも失敗作とみなされ、我々Team.Venusの誰かの手によって、排除されます』
ツバサ『ユウさん..あなたの場合、仲間がいなければ、そのどちらにも当てはまるところでした..』
ツバサ『あなた方が最終、最後まで苦戦していたあのロボットは、実はテラさんの一撃で本当は既に、完全に機能は停止しておりました』
ツバサ『もし、あの時、それで終わってしまえば、あなたは鬼化する事なく、我々の手によって排除されていた事でしょう』
ツバサ『あのロボットが再起動して、再び動き出した本当の理由は、死んだ仲間が犠牲となって悪役を買って出たのがきっかけで、結果、あなたにとっての救いとなりました。』
─────!?
ユウ『..ちょっとまて、それはどういう..!?』
ツバサ『──そして、その際にミヤカさんを一度殺しました』
ユウ『.........』
ツバサ『それが引き金となって、あなたの鬼化は成功。』
ツバサ『そして、ミヤカさんが復活の間際、自身の能力の開花によって目覚めた技により、あなたは再び人の姿に戻る事が出来たのです』
ツバサ『よって、あなたは唯一、鬼システムをクリアした存在となりました』
ツバサ『....ただ』
ツバサ『あなたの中の鬼は、完全に消え去った訳ではありません』
ツバサ『今はただ鎮静され、眠りについただけです』
ツバサ『いずれ再び、鬼が目覚める時が来るでしょう』
ツバサ『そして、それをあなた自身で乗り越え、制御する事が出来るその時まで、我々Team.Venusは、あなたを監視し続ける事でしょう』
ツバサ『そう、全ては──』
ツバサ『──その全ては、計算上の理論的な導きによるものではなく──』
ツバサ『───運命の導きのままに。』
─────。
ユウ『──なるほど。その話が全部本当なら、ずいぶん出来過ぎた話だな..』
ユウ『最後に一つ教えてくれ!』
ユウ『死んだ仲間が悪役を買って出たって..どういう事た?』
ツバサ『...それは』
ツバサ『ゼロさんの事です』
ユウ『..........』
ユウは感情的にならないよう、一度深呼吸をして、落ち着いて対応した。
ユウ『...すまない..続けてくれ』
ツバサ『ゼロさんはあの時、勝ち目のないあのロボットを前に、自らの命を落とす事で、ロボットを倒す賭けにでた』
ツバサ『..ですが、それは叶わなかった』
ツバサ『ゼロさんは絶望しました。そして、仲間の命が危険にさらされている事を知って、彼はある決断をしました』
ツバサ『彼は..あなたを助ける一つの手段として、その最後の残りわずかな命をロボットに捧げたのです』
ツバサ『自らがロボットを支配する事で、そのロボットを操り、仲間を危険から遠ざけようとしたのです』
ユウ『───それは嘘だ!!』
ユウ『だったら、なぜゼロはミヤカを攻撃したんだ!』
ユウ『そんな事をしなくても、俺達が助かる方法は、他にいくらでもあったはずだ!』
ツバサ『あなたは彼がロボットを支配し、再起動されなければ、やがて鬼に浸食され、死に至っていました』
ユウ『──────!?』
ツバサ『彼は、その引き金を引いただけです』
ツバサ『彼はあの時、ミヤカさんを攻撃する事で、あなたの中の鬼を解放し、鬼化を成功させた』
ツバサ『そして、そのミヤカさんが死の淵から舞い戻ってくる事で、あなたは人の姿に戻り、鬼システムを攻略する事に成功した』
ツバサ『───この一連の流れのその全てが、運命の導きによるものです』
ツバサ『....とはいえ、たしかに裏で我々Team.Venusが動いていたのは事実であり、あなた方に多くの恐怖と絶望を与えてしまいました』
ツバサ『──ですが..全ては、あなたの為にやった事。それだけは信じて下さい!』
ユウ『..それは実験の為..だろ!?』
ユウ『あんたらは、実験の結果が絶望的になる事を恐れ、半強制的に、鬼システムを成功させただけだろ?』
ツバサ『.......』
ユウ『俺達をなんだと思ってるんだ!』
ユウ『俺には、ゲームをこじつけに人体実験されているようにしか思えない!』
一度抑えた感情が、今にも爆発しそうだった。
─────これは、ゲーム。
あくまでそう言い張るのであれば、今この場で全てをぶち壊してやろうかと思った。
──その時。
『ドクン、ドクン!!』
──!? ..この感じ ───まさか!?
身体中が熱くなっていき、次第に意識が遠のいていった──。
──────────。
────。
『あ! ゆう起きた!』
ゆう『.....ミヤカか?』
ミヤカ『当たり!』
ゆう『..このシチュエーション、何度目だ?』
ミヤカ『あはは、もうわかんない(笑)』
─────目を覚ますと、元の世界へ戻っていた。
外は既に真っ暗で、会場の外にいた。
美弥花『みんなで、ゆうを担いでここまで運んで来たんだよ』
美弥花『もう閉まるって言うのに、全然起きてくれないんだもん』
ゆう『そっか、迷惑かけたな』
──すると、見知らぬスーツ姿のイケメンが話かけてきた。
『ゆうさん、はじめまして。 やっとこうして、実際にお会いする事が出来ました』
ゆう『?』
『私、シンです。 本名は信司と言います』
ゆう『おぉ! はじめまして。 やっとお目見えする事が出来ましたね』
信司『その節は、大変申し訳ありません。なかなか合流出来なくて』
ゆう『まぁ、仕方ないですよ。 こうしてお会い出来ただけでも幸いです』
ゆう『ところで..ゼロさんは? たしか、弟さんでしたよね?』
信司『それが..私達がログアウトした頃には、既にいなくて..』
信司『きっと、あいつ先にやられちまったもんだから、恥ずかしくて先に帰ったんだと思います』
ゆう『連絡は?』
信司『ありません..ですが、先ほど通りかかった小さな女の子が、それらしき人物が出て行くのを見た。って聞きました』
信司『あいつは私と違って、一世代前の不良のような、凄くわかりやすい格好してましたから、恐らく間違いありません』
ゆう『そうですか』
信司『..ただ、若い女性と一緒に出て行ったらしいのですが..彼女でも迎えに来たのかな? 今、同棲してるらしくて..』
ゆう『なるほど。会えないのは、少し残念ですね』
信司『まぁ、あいつは自由きままなタイプですから、また会う機会はいくらでもありますよ』
ゆう『そうですね、ちなみに名前はなんて?』
信司『弟は誠司といいます』
ゆう『なるほど、誠司さんに信司さん、これからよろしくお願いしますね』
信司『こちらこそ』
─────そうしてしばらくダベったあと、メンバーは解散した。
信司さんは直人と駅へ向かい、海人は結奈ちゃんを家まで送り届けるとの事だ。
俺はコンビニで夕飯でも買って帰ろうとしたんだが──。
ゆう『そう言えば美弥花はどうするの? 迎えでもくるの?』
しばらく大人しくしていた美弥花が、何かをためらいながら呟いた。
美弥花『ねぇ、少し時間ある? ちょっと話しない?』
──ゲームとはいえ、さっきあんな体験をした後だ。
いろいろ不安になるのも無理はない。
ゆう『..構わないよ。それなら、どっかで飯でも食べながら話そうか?』
美弥花『ううん、あまり人の多いところには行きたくない。』
美弥花『あそこ、あの公園のベンチじゃダメかな?』
何か思い詰めた顔をしている。 ──話しにくい内容かな?
───もしかして、チームの脱退。 はたまた、ゲーム事態を辞めるつもりだろうか?
とにかく、話を聞いてみよう。
───美弥花の提案通り、俺達は公園のベンチに腰掛けた。
ゆう『........』
ゆう『..美弥花どうした? ジュースでも飲む?』
──しばらく続いた沈黙に絶えきれず、声をかけた。
..すると、美弥花が重い口を開いた。
美弥花『ねえ、ゆうどう思う? 今日のその..出来事。』
ゆう『..たしかゲーム中に言ったの、聞いてたと思うけど..』
ゆう『あのゲームは普通じゃない。非人道的とさえ、思うよ』
ゆう『美弥花はどう? やっぱり恐い?』
美弥花『..そりゃ、もちろん恐い。出来るなら、もう関わりたくはない..かも』
ゆう『やっぱりそうだよな。俺でさえ、散々恐い思いしたんだから、女の子には余計に辛いよな』
ゆう『やっぱり..辞めたいって思う?』
美弥花『............』
ゆう『もし辞めたいって思うなら、無理しないで辞めちゃっていいんだよ。俺達に気を遣ってるのなら、それは間違いだよ』
ゆう『これは..どうせただのゲームなんだし、恐い思いまでしてやる事じゃないしね』
美弥花『.....』
美弥花『..私、まだ誰にも言ってないんだ』
ゆう『何を?』
美弥花『ツバサさんが言ってたこと。..鬼システムの意味とか....』
ゆう『そうなんだ』
ゆう『みんなそれ聞いて、どう思うかな?』
ゆう『俺みたいに、ふざけるな、やってられるか!ってなるか、もしくはそんな得体の知れない謎めいたものになんか、関わりたくない!ってなるかの、どっちかかな?』
ゆう『いずれにしても。って感じだね』
美弥花『ゆうはどう思ったの!?』
───!? 美弥花が急に顔を近づけてきて、思わずドキッとしてしまった。
ゆう『お..俺は..やっぱり、妙な組織には関わりたくないって感じだよ。 次は何されるか..わかんないし..』
美弥花『そっか..やっぱそうだよね。』
ゆう『ただ俺は、リーダーだしな。みんなが辞めたいって言うなら、もちろん止めはせず、俺も一緒に辞めるけど..』
ゆう『もし一人でも続けたいって言うなら、俺も一緒に、この大会を最後まで見届けようかなって..思ってる』
美弥花『──!?』
美弥花が、ハッとした表情で俺をみた。
美弥花『じゃ..じゃぁ、もしみんな辞めて、私一人だけが残っても、それでもゆうは一緒にいてくれる?』
ゆう『そりゃ、もちろんだ』
ゆう『特に美弥花は、そそっかしいし、落ち着きないし、常に見てないと心配でたまらなくなるからな(笑)』
美弥花の言葉に、照れ隠しで答えた。
────────すると!?
『ガサッ!』
美弥花が急に、抱きついてきた──。
────────!?
美弥花『ごめん、ゆう。 私、今日一日ずっと..恐くて..』
美弥花『みんなの脚引っ張っちゃわないかな?とか、私、本当はチームのみんなに、嫌われてるんじゃないかな?とか..』
美弥花『ずっとずっと..不安で..』
美弥花は泣いていた────。
ゆう『..そ、そんなわけないだろ?』
ゆう『実際俺は、美弥花に助けられてるし..』
ゆう『もし美弥花がいなかったらって考えると..恐いよ』
ゆう『自分がどうなってたか、わからなかったしな』
ゆう『..だから本当にありがとう。美弥花はいつだって頼りになるし、頼りにしてるよ』
────そっと頭を撫でてあげた。
すると美弥花は、大声を上げて泣き出した。
まるで、親に甘えてしがみつく子供のように───。
いつも元気で、プレイ中は全くそんな素振りを一切見せなかった美弥花が、そんな事を思っていたなんて───。
───でも、共にゲームしてた期間は長いとはいえ、今朝初めて会ったばかりのこの俺に、ここまで心を開いてくれて、語ってくれたのは凄く嬉しかった。
────────────。
────予選が終了してから数日。
ツバサさんが話ししていた事。
鬼システムについての実態を、海人に相談した後、メンバーに一斉メールをした。
────海人いわく、
『これでメンバーがそれぞれどうするか、各々で考えて結論を出すだろう..』
『ゆう、お前はそれを受け止め、最終的にどうするか考えるんだ』
────との事。
その2日後に、最初に返信があったのは、信司さんだった。
信司『メールの内容、しかと拝見させていただきました。それにつきましては、検討させていただき、今後どうするかを判断した後、追ってご連絡致します。』
信司『ただ────。』
信司『弟の誠司の行方が、現在不明です。 同棲してる誠司の彼女によると、予選大会が行われたあの日から帰っていないようです』
信司『現在、家族総出で捜索しております。警察にも連絡致しました。何か心当たりがございましたら、何卒ご連絡のほど、よろしくお願い致します。』
───誠司さんが..行方不明!?
信司さんはそのメールを一斉送信したらしく、メールが届いた直後、美弥花から電話がかかってきた。
美弥花『ゆう!? 今電話大丈夫!? もし今時間があったら、大会会場まで来て!』
美弥花はそう言うと、俺が返事をする前に、電話を切ってしまった。
────もちろん、すぐに大会会場へと向かった。
会場は、ゲームの本戦が開かれるまでは、特にイベントもなく、その日は祭日だったが、ほとんど人はいなかった。
───会場に着いてすぐ、美弥花と連絡をとって合流した。
美弥花『ゆう!』
ゆう『美弥花。いきなり呼び出して、どうしたんだ?』
美弥花『どうもこうも、誠司さんが行方不明って聞いたでしょ!?』
ゆう『..あぁ。』
美弥花『一緒に探すの!』
ゆう『探すって、いったい何処を? それに、信司さんや他のメンバーは?』
美弥花『連絡したけど、繋がらなかった。たぶん、みんなそれぞれ探してるんだと思う』
ゆう『..いや、みんな仕事中なんだと思うよ(汗)』
美弥花『いいの、とにかくこっち!』
美弥花に連れられるがまま、会場の入口付近へと来た。
美弥花『ここには、まだ本戦の準備してる人たちが何人かいるから、聞き込み開始よ!』
えっ..マジで!? と思いつつ、美弥花に従った。
信司さん達は家族総出で探して、尚且つ、警察まで捜索しているっていうのに、俺達になんか見つかるハズがないと思っていた。
それにしても美弥花、妙にはりきってるなぁ..。
───すると、
美弥花『あ! あの子.. ゆう! こっちに来て!』
美弥花に呼ばれ、着いていくと、そこにはツインテールの小さな女の子が、カウンターのところに腰掛けていた。
美弥花『ねぇねぇ君、あの時の子だよね? 私の事覚えてるかな?』
女の子に話し掛けた。するとその子は、笑顔で答えた。
女の子『ええ、覚えているわ。スーツの人達と一緒にいた人でしょ?』
見た目の割に凄く落ち着いていて、話し方が大人びている。
─────あれ!? この声どっかで──!?
美弥花『こないだ教えてくれた、全身真っ黒な服で、ジャラジャラした飾りをいっぱい付けたお兄ちゃんの事なんだけど..』
──誠司さんって、そんな感じなの!?
まさにゼロ。そのまんまじゃん!!(笑)
美弥花『その人と一緒にいた女の人って、どんな人か覚えてる?』
女の子『もちろん!! だってその人は、私のチームメイトだもの』
─────!?
美弥花『..は? えっと..どういう事かな?お嬢ちゃん?』
女の子『あなた達ならわかるでしょ?』
女の子『たしか..Team.ACE。』
美弥花『..えっ!?』
美弥花『えっ..と、君は一体何者..なのかな?』
美弥花は子供相手に、必死で笑顔を作っているも、驚いて動揺が顔に出てしまっている。
女の子『そっちの人なら、わかるんじゃない?』
女の子『ねぇ♪』
女の子は今度はゆうを見て、ニコッと笑った。
ゆう『えーっと、たしか君は..』
女の子『私、本名は月に夜と書いて月夜といいますの。』
ゆう『─!?』
ゆう『あんたまさか..ツクヨミ!?』
月夜『ええ、お久しぶりです。Team.ACEのリーダー、ゆうさん♪』
たしかに髪の色は違えど、よく見ればツクヨミとそっくりだった。
ゲーム内でも思ったが、まさか実際にプレイしているのも子供だったとは思わなかった───。
ゆう『でも、どうして俺だとわかったんだ?』
月夜『あなた達Team.ACEは有名ですもの。実際のプレイヤーさん達の素顔も、私達のなかではとても有名です。』
ゆう『..そうなのか』
心境はとても複雑だった──。 彼女達のなかでは、俺達は全員素顔まで知られているって事か。
いざとなった時を考えると、より警戒が必要だな。
美弥花『..つまり、あなたもTeam.Venusってわけか。』
月夜『そうです。そういう事です。』
美弥花『でもごめん、今はそれよりも───。』
美弥花『ゼロの居場所を探しているの!』
美弥花『あなた、一緒にいた女性はチームメイトって言ってたわね。それは誰なの!? 二人は何処へ行ったの?』
月夜『それは、深雪ですね。ゲーム内ではユキと名乗っています』
美弥花『その子とゼロは何処へ行ったの? 何処へ行方を眩ませたの!?』
月夜『さぁ..それはわかりかねます。我々はチームと言っても、ただ目的が一緒なだけの集まりで、それぞれが各々の考えの下で行動していますので。』
美弥花『....そっか....ちくしょう』
──以前、ツバサさんが言っていた通りだ。
Team.Venusはそれぞれが、それぞれの考えの下で行動している。
つまりお互いの行動に干渉する事はなく、それどころか団結する気すらないのか────?
月夜『..たぶん』
──月夜が再び口を割った。
月夜『深雪は本戦当日まで、姿を現す事は無いと思います』
月夜『もし、あなた方の言うように、ゼロさんがそれっきり姿を眩ましているのであれば、それに深雪が関わっているのは、まず間違いありません』
月夜『ただ私は、メンバーとはゲーム内でしか交流せず、連絡先を知りません。唯一知っているのは、ハルくらいしか..』
月夜『──とにかく、全てがわかるのは、恐らく本戦当日です』
月夜『──それと、私はゲームに関する以外の事であれば、あなた方に協力するのはやぶさかではありません。』
月夜『何かわかったら、必ず伝えると約束しましょう』
───この子を、本当に信用していいものか、当然不安な部分もあるが、その感じは、とても嘘を付いているようには思えなかった。
────そして俺達は、月夜と連絡先を交換して、会場をあとにした。
───────。
それから数日、誠司さんが見つかったという話は聞かなかった。
だが、信司さんからこんなメールが届いた。
『お疲れさまです。あれからしばらく考えましたが、やはり私も本戦に参加させていただけたらと思います。理由は幾つかありますが、何より誠司の失踪の理由、そして行方、全てはあのゲーム。あの日のイベントが全ての元凶だと考えております。』
『なんの情報も得られない今、最終的に行き着いた結論があの場所です。』
『あの場所、あのゲームには何かあります。ゆうさん、あなたにも出来たらお力添えを頂けたらと思っております。』
『どうか、よろしくお願いします』
─────それは凄く、重みのあるメールだった。
俺はあくまで、ゲームのチームリーダーなだけで、一家族の責任を背負う義理まではない─────。
───────でも。
例え俺がリーダーでなくても、たぶんメンバー全員が口をそろえて言うだろう───。
─────────仲間の為に、全力を尽くすと。
うちのメンバーは、そういったメンツばかりだ。
────そう、
最初は違うネームだった。
でも、その道のエキスパート達が揃い、それなりの信頼関係を築き上げてきた。
ただのゲーム仲間なんて言わせない。
もはやそれだけの関係ではない。
─────だから付けたんだ。
それぞれが主力。
それぞれが切り札。
それぞれが、ACE。
だから俺達は、Team.ACEなのだ!
───俺はもちろん、承諾した。
───────その後、
直樹、そして結奈ちゃんからも連絡が来た。
どうやら信司さんから同じようなメールが届いたらしい。
更に美弥花とも、あの後、幾度かLINEをした。
美弥花『ねぇ、信司さんのメール見た?』
ゆう『見たよ。信司さんも参加らしいな』
美弥花『そう。やっぱりあの日、大会会場でなんかあったよね』
ゆう『うん。やっぱり、あの深雪って人が犯人なのかな?』
美弥花『それはどうかわからないけどね』
美弥花『でも、関わっているのは間違いない』
美弥花『ツッキーも、そう言ってるしね』
ゆう『ツッキー? ..もしかして月夜の事?』
美弥花『そうだよ。あの後何度も電話やLINEしたよ♪』
ゆう『そうなんだ』
───知らないうちに、だいぶ仲良くなっているようだ。
ゆう『それにしても、ツッキーって..(笑)』
美弥花『ツッキー可愛いよね♪ やっぱり最年少らしいよ』
美弥花『まだ中学生で、Team.Venusって凄いよね!』
──中学生だったのか!? いや、あの幼さと体格からして小学生にも見えたが、まさか本当にそうだとは...。
ゆう『たしかに凄いな』
天才少女って、やつか?アニメやマンガによくあるけど。
現実にいるもんだとは思わなかった。
ゆう『話がそれたな、皆は本戦参加するらしいが、美弥花はどうする?』
美弥花『もちろん、参加する。私も、みんなと一緒に闘う!』
美弥花『だから───』
美弥花『絶対勝とうね!』
ゆう『ああ、もちろんだ!』
─────────。
それで一旦LINEが途切れたと思ったが、しばらくして、またLINEがきた。
美弥花が、何か言い残した事でもあるのかな?
──────と、思ったが、
スマホを手にして、俺は驚愕した────。
ハル『ゆうさん、お久しぶりです。もし時間があったら、何時でも構わないので、今晩時間ありますか?』