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カルキの御子   作者: SCA
1/1

プロローグ

世界は滅びていた。

世界は壊れていた。

人々は死んでいた。

人々は嘆いていた。

救世主は破壊を望んだ。

救世主は再生を望んだ。


自分は戻りたかった。

ただあの時に戻りたかった。



パンッパンッ


銃声の音が聞こえる。


「ひぃいいっぃ!」


 自然と悲鳴なのかよく分からない肺から無理くり空気をひねり出したような声が出ていた。


「いだああああああ!」


「助け……助けてぇええ! 助けてぇええええ! いやああ!」


「お、お願いだ! 助けてくれぇ!」


 周りの人間は助けを求めているが振り返る余裕も気にかける余裕も無い。


 ここは地獄だ、地獄になった。

 誰が悪いのか、何が悪かったのか、何をしたのかは分からない。


 男も女も関係なく殺された。

 老若男女関係なく喰われた。


 「ひっ……ひっ……」


 高校のクラスメートも喰われた。

 親も喰われた。

 見知らぬ人々も喰われている。


 建物も地面も自然も朽ちていく。


 「ハッ……ハッ……!」


 これが世界の終わりなら、これがこの世の終焉なら今までこの世界は何の為にあったのだ。


 「ハッ! ハッ! ハッーーーーーッ!」


 終わるために有ったのか?


 「ハッ……ハッ……はぁっ……はぁ……」


 力つきてその場に膝末いてしまう。

 この地獄を脱出していないのに。

 このままでは追いつかれてしまう。

 化け物どもに喰われてしまう。

 それだけはいやだ、死にたくない死にたくない。


 嗚呼、追いつかれてしまう。

 

 走らなければ、いや立たなくては、進まなくてはならない。

 

 「ヒッ……ヒッ……」


 這ってでも「ゴァァッァァァぁ」 

 

 水の詰まった革袋を潰したらこのような音になるのだろう。

 そんな音が轟音とともに聞こえた。

 何かがつぶれたような音が聞こえた、とても近くから聞こえた。

 何が潰されたのか、そんなものはすぐに分かった。


 歩けなくなった、足が無くなった。

 無残にも巨大な質量に潰されて

 

 「嗚呼嗚呼ああああああァァァ!?」


 未だにこんなに声が出せるなんて、なんて言う考えが浮かんでしまっているほど恐怖を感じなかった。

 どちらかというと驚きの方が多かったからだ。

 

 あまりにもいろんな事が起こりすぎていたせいでもう思考が一周回って冷静になったのだろう。


 嗚呼、なら狂っていた方が良かった。

 

 最後に見たものがカバだかワニだかよく分からない化け物の口の中なんて。



 

 「何なんだよ、これは!?」


 ここはそれなりに大きな部屋だった。

 それでも40人程も人がいれば大分手狭になる。

 そんな人が密集している部屋で大声を出した男がいる。

 恐らく30代ぐらいのいい年をした大人が大声を出して荒げている。 


 「何がおきてるんだよ!」


 本来なら非難の目で見られるだろうが、今は誰もとがめる事が無い。

 それが何の意味も無い八つ当たりの癇癪だとしても。


 「あの化け物は、いったい何なんだ!!」


 なぜなら誰もが彼と同じ気持ちなのだ。

 

 「ちくしょう……」



 

 世界は壊れた。

 経済的に国家が破綻したわけでも、政治的に世界情勢が混乱したわけでも無い

 唐突に現れた化物によってきわめて物理的に破壊された。

 

 化け物によって街は壊され、人工物どころか川も汚染され街路樹さえも腐っていった。

 それも長い時間がかかってでは無い。

 昼頃から、日没頃まで。

 半日足らずでこの世界は崩壊した。


 「この状況は日本だけなんだろうか」


 年若い中高校生ぐらいの少年が誰とも無くつぶやいた。

 美しい少年だった。

 線が細くまるで少女を思わせる顔をしている少年だった。

 

 「……知らねぇよ」


 力なく答えたのは少年の横に座っている同じ制服を着た少年だった。

 制服を着崩していて、髪を茶髪に染めたお世辞にも真面目そうとはいえない少年だった。

 最も、ふざける余裕も無いのか不良性はあまり感じられなかったが。


 「ラジオもテレビも写らないし、まるで状況が分からないな」


 「知りたくもねぇよ! 今の状況なんか!!」


 「無事な所があればそこに逃げれるだろ!?」


 「そんな場所あるわけねぇだろうが!」


 制服を着崩した少年は激昂して立ち上がった。


 「お前も見ただろうが、テレビで自衛隊があっさりと蹴散らされるのを!」


 そう、別段人間も無抵抗だった訳では無い。

 自衛隊や警官隊も怪物に向かって戦いを挑んでいたのだ。

 しかし、銃も戦車も果てはミサイルでも怪物はまるで動じず、傷一つつける事が出来なかった。

 むしろ余波で人が死んだくらいで何の効果も見当たらなかった。


 「無理……もう無理だ、みんな死ぬんだ」


 そう言うと踞って少年は泣いていた。


 「すばる……」


 友人である加藤昴かとうすばるを見ながら少年、六路卓弥(ろくろたくや)は窓の向こうの地獄を見ていた。


 ※


 走る、走る、走る、この身は走らなければならない。

 この足は止めてはならない。


 「この身は王のために」


 私は生まれる前から走り続けると決まっていた。

 私は滅ぼすために、王のために走ると決まっていた。


 「この身は美しい世界のために」


 そして、私はそれでもいいと思っている。

 美しい世界、正しい世界のために私は頑張りたい。


 「たとえこの身が地獄に落ちようと」

  

 そして、地獄を巡る。

 助けてくれと、手を伸ばす人を無視して。

 泣いている人を見捨てて。

 亡骸を踏みつぶして。

 

 私は王のために走らなければならない。

 何としてでも、何をしてでも。

 




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