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8 実戦

「次はBランク魔法よ。うまくいけばいいけど」

 そう言いながらちょっと真剣な顔をしている。

火炎龍ファイヤーストーム

 シルビアの頭上に炎が渦巻いたドラム缶のようなものが現れる。それが真っ直ぐカカシに襲いかかる。カカシは熱にやられて大きくひしゃげ、かなりの部分が溶け落ちていた。


「この位でいい? もう一つ上位の魔法も使えそうなんだけど、練習もしたことが無いからまた今度ね」

 十分凄いことを見せて貰ったのでこの辺にしておく。特にBランク魔法がカカシを襲う様子は見てるだけで恐ろしく、俺は唖然として見ていただけだ。

 魔法の基本はサリー先生に教わったのだと言う。


「この魔法に加えて、あの剣術も持っていることを考えると、もはや勝てる奴はいないんじゃないか?」

「アースにはきっと勝てないわよ」

 シルビアは、そう言って笑っていた。





 そんな強力な魔法を見ていると、俺は魔法攻撃を受けるとどうなってしまうのだろうか?との不安が浮かぶ。

《さすがに唯では済まないような気がしますね》

 俺もそう思う。

 試しておく必要があるな。


「シルビア、俺に魔法で攻撃してみてくれないか?」

「えーっ!」

 何言ってるのこの人はーって目で俺を見ている。

「俺は魔法の攻撃を受けたことが無くて、どの程度耐えられるのかが全く分からないんだ。今後のことも考えて魔法攻撃を受けてみたいんだよ」


 ……


「分かったわ」

 渋々だが頷いてくれた。


「最初は軽くな」

 俺は攻撃に備えて全身にエナを強めに巡回させる。エナで魔力を防御できるとも思えないが。

「じゃあ、まずは体術魔法からね。これは地属性よ。いくわよ」


 シルビアは俺の目の前で掌を俺に向ける。よく分からないが俺は取り敢えず身構えた。


 ……


 あれ? 何も起こらない。

 シルビアもあれ?って顔をしている。

「シルビアどうした?」

「全然掴めない」

「え?」

「普通なら魔力で掴んで投げたり飛ばしたりできるんだけど…… 全部空振りなのよ」

 どういう事だ?

「もしかして、それって?」

「うん、体術魔法はアースに効かないってことね」

 おー、シルビアに無様に投げ飛ばされる心配は無いってことか。なんか少しほっとした気分だ。


「じゃあ、次は火炎矢ファイヤーアローね」

「ああ、頼む」

 シルビアは俺から10mほど離れて準備する。

「お腹を狙うわよ?」

「いつでもいいぞ」

 と言ったものの怖いな。頼むぞ俺の体。

「いくわよ! 火炎矢ファイヤーアロー

 赤い矢が俺に向かって飛んで来るのが見える。着弾する寸前に身構えるが、それが腹に直撃したはずなのに音もなく吸い込まれるように消えた。


 ……


「あれ? どうなった?」

「散っちゃった」

「ん?」

「よく分からないけど、アースに当たった瞬間に魔力が消えていったみたい」


 ……


「てことは?」

「うん、攻撃魔法も効かないのかも。でももう一度やってもいい?」

「ああ」

「次は少し出力を上げるわよ」

 そう言うと、先ほどとは比べ物にならない程のスピードで炎の矢が飛んで来た。しかし、俺に当たると先ほどと同じように音もなく消えた。

「無理ね。風属性の魔法も試してみる?」

「ああ、頼む」


 同じく俺に当たった瞬間に消滅することがわかった。


 防具もエナで守っているためか無事のようだ。

 ただ、さすがにBランク魔法の場合は周囲を巻き込むこともあって衝撃が伝わってくる。まあ、少し体が揺れる程度だが。


「後は、闇属性と光属性だけど、これが効かないのは既に知っているわ」

「へえ、そうなのか?」

「以前のパーティで、攻撃力上昇や、速度上昇をアースに掛けようとしたけど全部散ったって話したでしょ?」

「ああ、そうだったな」

 念のためヒールを試してもらったが見事に散った。


「アースの魔法防御力って最強ね」

 防御というよりは、魔法が一切効かないというべきだろうか。

「しかし、俺の不安はだいぶ解消したぞ。シルビア、ありがとう」


「やっぱりアースには絶対に勝てないわね」

 そう言いながらもシルビアはなぜか嬉しそうだった。



「もう一つだけいいか? 最高速度で打ってみてくれないか? 今度は避けれるか試してみたい」


 今までとは比べ物にならないスピードで炎の矢が飛んでくる。恐ろしく速い! ほんとにギリギリだったが紙一重でなんとか回避する。俺の脇腹の横を通り過ぎた炎の矢は後方の地面にささったようで、ズドンッという音とともに地面をえぐり一瞬の爆炎と砂煙が上がった。

「凄い破壊力だな。なんとも恐ろしい」

 シルビアは手を口に当てて目を丸くしている。

「さすがに今のを避けられるとは思わなかったわ」



     §



 シルビアの魔法は俺には効かなかったが非常に強力だ。特に高位魔法の出力を上げた物は一撃必殺の攻撃だろう。

 そんな攻撃魔法を見ていると、俺も強力な攻撃がほしくなる。


 俺に魔法は使えないが、強力な攻撃という意味では心当たりがある。

 初めてゴブリンを倒した時に偶然発動したエナ流し込みによる内部破壊攻撃だ。

 あれを自在に繰り出せるようになれば一撃必殺の攻撃にできるはずだ。実は、これについては常々考えて来たのだが、使い方を間違うとエナを使いきってしまう恐れがあり、俺自身にとって危険きまわりない物だ。


 そのためその機能の実験を封印してきたのだが、理論的には完成と言える段階まで既に来ている。


 今はシルビアが横にいるので、実験中に万が一エナが切れて動けなくなったとしてもシルビアに守ってもらえる。実験の舞台が整っているということだ。


 機能は至って単純だ。通常なら武器の中を巡回させるだけのエナだが、この機能はエナを溢れさせてその溢れたエナとともに対象に叩き込というものだ。エナ流し込みによる内部破壊攻撃で、オーバーフロー攻撃とでも言うところか。

 オーバーフローさせるエナ量を如何に制御できるかが鍵だ。


 過去の偶然による実績から、一回にエナ1000を流すことができればゴブリンを木っ端微塵にできるのは知っているが、毎回1000を使ってしまうと、今のエナ量だと10発程度しか打てない。

 もっと少ない場合はどうなるのか、他の魔物だとどうなるのか、こればかりは実戦で実験を行って見なければ分からない。例えばゴーレムやワイバーンを一撃で仕留めるためにはエナ量をいくつ使うのが最適なのか?とか。


 このオーバーフローを使えるようになると、打撃、切断、破壊の3種類の攻撃が可能となる。特に破壊は内部からの破壊であり、一撃必殺と言えよう。





 シルビアの腕試しと、俺のオーバーフローの実験を行うために、最前線基地に向かう。

 王都のゲートハウスの端にある立入禁止と書かれた飾り気のない扉を開ける。最前線基地の入り口の扉だ。扉の中は1つの部屋になっていて、受付のような案内カウンターとゲートがあるだけだ。

 案内カウンターに女性が一人暇そうに座っているだけで、部屋には誰もいない。


 案内カウンターの横を通り過ぎようとした時、その女性から声が掛かった。

「ちょっと君たち。扉の立入禁止って文字は見えたでしょ? ここはAランク以上のハンターしか入っちゃダメなのよ。早く出て行きなさい」

 子供に対するような口調で注意してきた。

「ああ、大丈夫ですよ。俺たちは二人共Aランクだから」

 プッと女性は吹き出しそうになっている。

「うそ言っても分かるのよ。早く出て行きなさい」

「いや、ホントですって」

「なら、この石板に身分証をかざしてみなさい。Aランクって表示されるか見てあげるわ」

 呆れた感じで、石板を手で指し示す。


 俺たちの防具はこういう時に困るな。そう思いながら身分証を取り出し、石板にかざす。白く光った後、その女性を見ると、あっと言う感じでちょっと驚いた顔をした。

「あらー。ホントにAランクだったんですね。その装備だとAランクに見えなくて。失礼しました」

 この部屋に設置されているゲートはAランク以上しか通れない設定になっているので、黙っていても低ランクは通れない。だが、声を掛けずにはいられないほど低ランクに見えたということなのだろう。

 そろそろ高ランクらしい防具を作るべきなのかもしれないと思わずにはいられなかった。

「いえ、いいんですよ」

 俺はニコリと笑顔で返した。

「どうぞお通りください。頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」



 最前線基地。ここには人がそこそこ居るが、知った顔はいないようだ。俺たちの身なりがやっぱり違和感があるのか、ジロジロ見られた。ただ、ゲートを潜って来たことは明らかであり、低ランクでここに来るメリットも全く無いためランクを怪しむ者はいないのだろう。


「まずはシルビアの剣術の小手調べとしてB級魔物を相手にするか。ルナ、キラータイガーを探してくれ」

《見つけました。歩いて40分ほど先です》

「意外と近くだな」

 シルビアがキョトンとしている。どうかしたのだろうか。


「え、魔物の探査ってルナがやってたの?」

「あー、それか。まあ、そう言うことだな」

「へー、そう言うことだったのね。アースのスキルだと思ってたわ」

「はは」

《シルビア、この探査機能はアースが作ったんですよ。私はそれを使用しているだけに過ぎないんです》

 またしてもキョトンとしている。


「作ったって? スキルって作れるものなの?」

「実際はスキルって訳じゃ無いけど、似たような物を俺は作れるんだよ」

「…… 凄すぎ…… やっぱりアースって凄いわね」





 そうこうしている内にキラータイガーの目前まで来た。

《あと300mほどです》

「シルビアそろそろだ。行けるか?」

「キラータイガーをソロで狩るのは初めてだけど大丈夫かしら?」

 心配そうにしているシルビアだが、ルナにシルビアのエナの状態を確認して貰ったが、全く問題無く全身を巡回しているとのことだった。

 エナを完全に物にできているようだな。

「今のシルビアならキラータイガーは余裕だと思うぞ」

 俺の言葉に頷き、後150mとなったところでシルビアはキラータイガーに向かって走り出す。走るスピードも以前とは雲泥の差だ。すぐさまキラータイガーの射程圏内に入ったようで、キラータイガーもシルビアに向かって突っ込んで来た。


 キラータイガーが先制攻撃をかけるが、見込み通り、シルビアはキラータイガーの攻撃を全く危なげなく悠々とかわす。ヒュンヒュンという音も聞こえている。レイピアをうまく使えているようだ。

 その後、シルビアはキラータイガーをサクサクッと沈めた。これならAランクの前衛となんら変わらないだろう。

 倒し終わると、キラータイガーを放置したまま走って戻ってきた。

「アース、凄いよ! ほんとに余裕だったわ!」

 キラータイガーを安々と倒せたことがよっぽど嬉しかったのだろう、少し興奮気味だ。

 倒したキラータイガーを巻物タイプのマジックバッグに収納し、次に向かう。



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