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6 開花

 俺の言葉足らずな説明でシルビアを驚かせてしまったようだ。だが、重要なことだし避けては通れないところだ。

「ルナ、シルビアのエナ量はどの程度あるんだ?」

《アースの3倍近くありますね》

 え…… その数値は想定外だし、こっちが戸惑いそうだ。

「そんなに? ほんとに?」

《ほんとです。シルビアがエナを溜め始めてからかなり年月が経っているからだと思います》


 なんか羨ましい。

「凄いな」

「ねえ? 3倍って? いいこと? 悪いこと?」

「ありえん位いいことだ。はっきり言って半分分けて欲しいくらいだ」

 その言葉を聞いたシルビアは、ちょっとほっとしたように見えた。エナが悪い訳じゃ無いことを理解してくれたようだ。

 ただ、エナの多さが逆に仇となってスピードを恐ろしく落とす結果になっているのは間違いなさそうだ。昔よりも剣が遅くなったって言うし、流れないエナの量が増えているからだろうと推測できる。



 まずは、シルビアにエナのことを教える。エナはエネルギーの一種であること。体内に蓄積されていること。この世界とは異なる系に属していること。コントロールできることなどをきちんと説明した。


「わかった?」

「んー、よく分からないけど、つまり魔法士で言うところの魔力マナみたいなものってことでいいの?」

「まあ、早い話そういうことだな」

「そう言えば、魔力も流れが停滞すると病気になるって聞いたことがあるわ」

 魔力でもそんなことが有るのか。すると、エナさえ流れ始めればスピードは一気に改善する可能性は十分あるな。

「どうだ? エナを使う練習をしてみるか?」

「うん!」

 シルビアは力強く頷き、小さく握りこぶしを作っている。



「俺もどうやって教えていいか分からないけど、まずはエナを流しやすいナイフで練習してみようか」

 ナイフを取り出し、シルビアに渡す。

「わー、綺麗。これってほんとにナイフなの? 宝石でできているみたい」

 そう言うと、シルビアは半透明の深緑色したナイフを日にかざしてキラキラ輝くのを眩しそうに見ている。

「ああ、俺の手作りだけどな」

「へー、アースって、こんなの作れるんだ」


 そのナイフは、俺の生まれた草原に落ちていた石で作ったものだ。その正体はルナにも分からないという謎の石だ。そこにあった石だから誕生の草原の石と呼んでいる。

 その時、ナイフは2つ作ったが、シルビアに渡したのは練習のし易さを考えてその内の小さい方のナイフだ。

 というような俺の生まれ故郷の話しをシルビアにしたところ、シルビアはその話しを興味深そうに聞いていた。

 そんなシルビアの手を見ると、そのナイフを大事そうに両手で持っていた。


「じゃあ、エナを動かす練習を始めよう」

「うん」

 ナイフを握っているシルビアの右手の上に俺の右手を重ねる。その状態で俺がナイフにエナを流してみせる。エナが動く感覚、流れる感覚を身を持って理解して欲しい。

「どうだ? なんか感じたか?」

 シルビアが首を横に振る。

《生まれてから一度も使った事が無いでしょうから、感じ取ることはそう簡単では無いと思いますよ》

 その後もエナを流して止めてをひたすら繰り返す。難しくても覚えてもらわないと困るので、俺も必死だ。



 始めてから1時間ほど経っただろうか。

「あ……」

「ん? どうだ?」

 シルビアが頷いている。

「なんか分かった気がする」

「ほんとか! もう一度流すぞ」

 シルビアがうんうんと頷いている。


 ついに来た。延々と繰り返した甲斐があったと言うものだ。

「よし自分一人で流せるか試してくれ。ルナ、うまく流れたら教えてくれ」

 シルビアが集中しだす。

《少し流れましたね》

「ほんと? これでいいのね? 私にも流れたのが分かったわ!」

「凄いじゃないかシルビア。できるかどうかは俺も半信半疑だったけどな」

 シルビアは嬉しそうだ。

 感覚を掴んだ後、ナイフ全体に流せるようひたすら練習する。


《いい感じになりましたね》

 ナイフで小枝を切ってみて、エナを流した時と流さない時で切れ味を確認してもらう。

「エナを流すと信じられないほど切れ味が増すわね。これがエナ…… こんな力が私の中にあったなんて」

 ナイフをじっと見つめて感動しているようだ。

「ああ、それがエナだ」


「ルナ、エナの巡回はできているか?」

《そこまでは出来ていませんね。イメージが沸かないのだと思います》

「次のステップに行こうか。次はエナを巡回させる感覚を教える」

「うん!」

 ナイフを持ったシルビアの手の上に俺の手を再び重ねる。その状態で俺がエナを流して巡回してみせる。

「ナイフの先端まで到達したエナを回収するイメージだ」

 暫く巡回を続けてみる。


「どうだ? 分かりそうか?」

 シルビアの顔を見ているとそう簡単じゃ無さそうだ。


「んー、先端まで行ったエナを回収するって、アースがどうやって回収しているのかが全然わからない…… あっ!」

「ん?」

「分かったわ! あー、そう言うことね。そうやって回収してるのね」


「よし、なら一人で巡回させられるかやってみよう。ルナ、うまくできたら教えてくれ」

 そう言って、シルビアから手を離した。

 シルビアが巡回にチェレンジする。

 何かを考えるような素振りで黙って取り組んでいる。


《出来てますよ。まだまだロスが多いですけど、きちんと出来てます》

「うん、回収できている感じがするわ」

「そうか、十分だ。エナを使うという意味では後は特に覚えることは無い。あとは練習あるのみだな」

「うん、分かった」



「次はこの刀にエナを流してみようか。巡回させる事は考えずにまずは全体にエナを流すことだけを考えてやってみよう」

 この刀は、エナの流れやすさを最優先に考えて作った自作の武器だ。

「ナイフと同じ感じでいいの?」

 俺は頷く。

「やり方は同じだ。ただ、サイズが大きい分、コントロールするエナの量を増やす必要はあるけどな。まあ、それも練習の一貫だ」


 シルビアは真剣な表情で刀にエナを流し込み始めた。

《半分の長さまで到達しましたが、ちょっと伸びが鈍くなって来たようです》

「手先のエナだけでなく腕全体のエナを使うんだ」


《9割ほどまで来ました。あとは、最後の仕上げだけですね》

「刀の先端までが自分の体の一部のように意識して行ってみてくれ」

「うーん、こうでどう…… かしら?」

 シルビアは一点を見つめて集中している。


《出来ましたね。先端まで到達したようですよ》

「よし、そんままエナを巡回させるんだ」

「集中力が…… 必要ね……」

 黙々と取り組んでいる。


《巡回が上手になってきましたね。エナの消費が少し改善されてきました》

「ロス無く完全に巡回できるとエナの消費は無くなるんだ。暫くそれを練習しよう。その内、集中しなくてもできるようになるさ。喋りながらとか、体を動かしながらとかでもな」



 練習の結果、ほぼ完全な巡回ができるようになり、さらに自然に流せるまでになってきている。手先だけでなく腕全体のエナをうまく使えているようだ。

 シルビアの飲み込みの早さは驚きとしか言いようがない。

「次はこの木刀でやってみてくれ」

 そう言って初めに素振りで使った木刀を渡す。


 この木刀は誕生の草原にあった木で作った自作武器だ。適当に作った割には思いの外エナが流し易いため特に改良することなく今でも使っている。まあ、エナの流れ易さは刀には及ばないが、刀の次の練習題材としてはいいと思う。

「少し流れづらいのが分かるわ。でも大丈夫そう」

《問題なさそうですね》


 ここからが本題だな。

「それじゃあ、エナを流しながら素振りをしてみようか。巡回するのも忘れるなよ?」

 シルビアが一振りしてみる。木刀が勢い良く一気に振り下ろされた。

「わ、速い!」


 以前とは打って変わってスピードが出るようになっている。

「思った通りだ。まだ、体の一部のエナが動き始めただけだけど、かなり改善したな」

「自分でもビックリだけど、うれしい」

 よほど嬉しかったのだろう、素振りを何回も何回も続けている。



「今度はこのゴブリンの剣だな」

 ゴブリンの剣とは、俺がこの世界で初めて倒したゴブリンからの戦利品だ。ただ、その後に剣の素材を変えているので実際には別物だが形はそのままなので、今もゴブリンの剣と呼んでいる。


「これはちょっと大変ね。かなり細い感じね」

「ナイフと比べるとだいぶ流れづらいからな。というか、細いって?」

「え? えっと…… 剣の中のエナを流せるパイプが細いっていうか、なんかそんな感じ」

「ああ、なるほど。確かにそんなイメージで合ってるな。今までそんなふうに考えたことは無かったけどな」

「へー、そうなのね」


「ルナ、ちなみにシルビアが流しているエナ量はどのくらいなんだ?」

《アースが普段服に流している量くらいですね。シルビアの体内のパイプが元々細いようですので、それがシルビアの限界のようです》


「流せるエナの量は体内のパイプの太さが関係しているってことか。人体でいうと血管が太いか細いかの違いだな。細くても全体的に流せない訳で無く機能的な問題は無いけど、瞬間的な素早さやパワーは劣るだろうということか」


「へー、そうなんだ」

《そう言う意味では、アースのパイプは大量のエナを流せるようにできていますね》

「そういう事だな」


 関心していたシルビアだが、ふと小首を傾げて俺を見た。

「あれ? でも、それだったら私よりもアースの方がゴブリンの剣は流しにくいんじゃないの? 細いパイプにどうやって流してるの?」

 そこに気付くとは、なかなか鋭い。

「んーっと、そうだなー、細いパイプ複数本に対してまとめて流してる感じかな」

「へー、そう言うことかー。アースはそんなことができるのね。アースってやっぱり凄いわ」



「最後は、シルビアが腰にぶら下げているレイピアだな」

 そのレイピアはシルビアが数年前に買ったという市販の刺突武器だ。


 シルビアがレイピアを手に持って集中する。

「あれ? 全然流せないんだけど」

「なに? ちょっと貸してみて」

 レイピアを手に持ってみると…… 初めて持ってみたがなんか面白い武器だ。しかも想像してたよりも重く、斬れるのは先端部分だけで突き専用だというのも頷ける。


 ちょっと振ってみる。ちょっと突いてみる。フェンシングの真似をしてみる。へー、なんか楽しい。

 ふとシルビアを見ると、そんな俺をじっと見ていた。


 やばいと思いつつ、本来の目的を忘れてたのを悟られないようにレイピアにエナを流してみる。

「あーなるほど。流せないことは無いが、これはシルビアには厳しいかもな」

「えー、ダメなの? 結構気に入ってるんだけどそれ」

「まあ、このままだと厳しいって意味だ。ちょっと改良してもいいか?」

「うん」

 残念そうな顔のままだ。


「気に入ってるとこは形か? 重さか?」

「えっと、形が気に入ってるの。重さは、ほんとは軽い方がいいんだけど、軽いと突きの威力が落ちるって言われたのよ」

「分かった。じゃあちょっと待ってくれよ」



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