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5 シルビアのエナ

 シルビアは、左手首に納まった真新しい腕輪を色々な方向から見たり触ったりを暫く続けていた。

『あ、これで喋れるのかしら。ルナ?』

《ちゃんと聞こえてますよ》

『アースは?』

『ああ、問題無いぞ。ルナと通じれば俺とは必ず通じるしな』

『あ、そうだったわね。えへへ』



「ルールを決めるか。普段は普通に喋ろうか。ずっと声を出さないのも変だしな」

「そうね、ずっと念話だと変よね。私もそう思う」

 うんうんとシルビアは頷いている。

「使う場面としては離れている時とか、声を出すのがダメな時とか、周りがうるさくて声が通らない時とかだな」

「うん、分かったわ」

《私もわかりました》


「離れている時って、どのくらい遠くまで大丈夫なのかしら?」

《どれだけ離れていても大丈夫ですよ。距離は関係無いですね》

「へー、凄いわね」



「ルナ、その腕輪で異空間収納庫へのアクセスはできないのか?」

《できると思います。試してみましょう。シルビア、何か左手に乗せてみてください》

「なんでもいいの?」

「なんでも結構です」


 シルビアは、ベッドの上にあった枕を左手に乗せた。

「こう?」

 その瞬間、枕は消えた。

「あ、消えた」

《できますね》

「アースが昨日言ってた異空間に仕舞われたってこと?」

《その通りです。その腕輪でアクセスできました。枕を返します》

 シルビアの左手の上に枕が現れる。


「ということは、シルビアもいつでも自由に異空間収納庫を使えるってことだな」

《その通りですね》

 シルビアは人差し指を頬に当てて何かを考えている。

「アースの異空間収納庫に私の荷物も仕舞えるってこと?」

「そう言うことだな」

「いつでも出したり仕舞ったりできるってこと?」

「ああ、そうだ」


「それいいわねー。私の荷物全部仕舞っていい?」

「ああ、構わないが、ルナ、容量的に全部仕舞えるのか?」

《やってみないとなんとも言えません。シルビア、マジックバッグから出して収納してみましょう》


 その後、シルビアはマジックバッグの中から1つずつ取り出しては収納していく。



「これで全部よ」

《収納できましたね。ただし、空き容量は残り1割切っています》

 二人で使うなら異空間収納庫を拡張した方が良さそうだ。シルビアの私物は今後も増えるだろうし。

「じゃあ異空間収納庫のサイズを倍に拡張してくれるか?」

EPエナ最大容量を2000使いますが、よろしいですか?》

 今のエナの最大蓄積量を確認したところ1万6千ほどだ。

「ああ、問題ない」

 サイズを倍にすると収納できる量は8倍になるとのことなので、暫くは容量的な問題は無いだろう。



「取り出す時はどうすればいいの?」

「ルナに言えば取り出してくれるぞ」

「あ、そうなのね。じゃあルナ? ブーツを出してくれる?」

《はい、どうぞ》

 シルビアの左手の近くにブーツが出現した。そのブーツを両手で持ってしげしげと眺めている。


「凄い。これって、もう荷物を持ち歩かなくてもいいってことよね?」

「ああ、そうだな」

「片付けもいらないなんて、なんて楽なのかしら」

「無くすこともないしな」

「そうよね」

 シルビアはうんうんと頷いている。

「それに、例えば部屋のキーとか共通の物も異空間に入れておけば俺でもシルビアでも取り出すことができるぞ」

「なんか便利過ぎて、自分自身がダメになりそうね」


 ……


 ま、まあ、その辺は大丈夫だろ。



     §



 今日は町の外を散策してみることにした。

 門を出て、1kmほど北に行くと木々が生い茂りだし、そこが山の始まりだというのが分かる。狩場もその辺りから始まるようだ。

 山の麓に沿って歩いているとパーティが狩りを行っているのが見えた。何を狩っているのだろうか。もしかしてスタンラットやホーンラビットだろうか?


「ちょっと近くまで見に行ってみるか」

「うん」

 そのパーティの邪魔にならない程度に近づくと、向こうも気づいたようで何やら険しい顔を向けて来る。その中の一人が叫んだ。

「ここは俺達の狩場だ! 横取りするな! よそへ行け!」


 そのパーティには俺たちが狩場を横取りしそうに見えたのだろう。

「すまなかった」

 そう言って、その場を通り過ぎることにした。

 仕方が無い、このまま進んでみるか。

 しかし、人が多いからだろうか狩場でのいざこざが多そうだな。



《狩場はこの辺りまでですね。ここからは山方向に向かわないと狩場はありません》

「そうか…… このまま真っ直ぐ行くとどうだ? 何かあるか?」

《このまま行くと広い草原があります》

「ほう。ついでだし見に行ってみるか」

 シルビアもその草原を知っているらしく、昔この町に住んでいた頃その草原を実際に見たことがあるという。

 数十分歩いたところで草原に到着した。



 広い! この世界で俺が目覚めた草原、そこを俺は誕生の草原と呼んでいるが、それと比べると10倍以上の広さが有りそうだ。若干の起伏は有るがほぼ平坦で、短い草が一面を覆い尽くしている。

「草原に来るとなんか嬉しい気分になるな」

「生まれた所が草原だから?」

「んー、そうなのかもしれないな」


 中央付近まで歩いて見たが、魔物が現れそうな雰囲気は無い。

 二人して寝転んで見たところ、周りに遮る物も無く青い空がどこまでも続いていているかのように感じた。

「のどかだな」

「ほんとね」

 聞こえる音と言えば、鳥のさえずり、虫の鳴き声、僅かな風の音ぐらいだ。


「ここは魔物はいないのか?」

《ここには魔物も来ないようですよ》

「そうすると、ハンターも近寄らない場所ってことか。こんなに広い草原なのに勿体無いな」

 空に腕をのばし、掌で太陽の光を遮りながら眩しそうにしているシルビア。

「うん。昔からそうね。ここは誰も見向きもしない場所だったわね。昔、一度来た時も、直ぐに引き返したわ」

 シルビアが駆け出しのハンターだった頃の話だな。


「ほー。たまにはピクニックでもすればいいのに」

「そうなんだけど。でもね、この町のハンターはそういう余裕が持てないのよね」

「少しでも早く強くなりたいって感じか?」

「そうなのよ。私もそんな感じだったし、他のみんなもそうだったわ。それが普通だと思ってた」

 その考えは分かる気がする。強さを学ぶにしろ、知識を学ぶにしろ、ここでは他人よりも前に居ることが求められているのだろうし、遊んでいるハンターに待っているのは死だけだと、みんな分かっているのだろう。


「低ランクの時はそうなのかもな」

「この草原でこんな風にのんびり寝転がる日が来るなんて思っても見なかったわ」

 少しでも余裕が出来るのは上に上がった時だろうし、余裕が出来た時は既にこの町を出ているってことなんだろう。

「これだけでも、この町に来た甲斐があったな」

「うん」




 駆け出しの頃のシルビアはどんなだったのだろうか。早くにDランクを卒業したと言っていたことから、魔法のセンスが早々に開花したのだろうことは想像に難くない。


 そんな事を思っていると、シルビアが不意に昔のことを話し始めた。

「私ね、最初にこの町に来た時に剣士になろうとしたのよ?」

「え? 剣?」

「うん、剣よ」

 シルビアは、寝転びながら剣を振る真似をしている。


 一瞬聞き違いかと思ったほど、シルビアと剣がどうしても結びつかない。

「へー、それはビックリだな」

「最初は初心者にしては筋がいいって言われて、嬉しくて一生懸命練習してたのを思い出したわ」

「凄いじゃないか」

 シルビアが剣を使えるというのは初耳だ。どの程度の腕前なのだろうかと純粋に興味が湧く。


「でもね、どれだけ練習しても剣のスピードがダントツで遅すぎて全然ダメだったのよ」

「あー、そうなのか」

 剣を使えるわけじゃ無かったようだ。確かに足が遅いのも知ってるし、体を使ったスピード系はダメなのかもしれないな。


「ていうか、なんで剣だったんだ?」

「ほら、前衛のエルフってほとんどいないらしいじゃない? いないんだったら私がって。馬鹿よねー、あはは」

「そうか」

「あれ? 今の、笑うところなんだけど」

「え、そうなの? 悲しすぎて全然笑えないんだけど」


 ……


 シルビアは気を取り直して続きを話し始める。

「まあ、体質的にダメなんだろうなって思うようになって、そのうち諦めちゃったわ。それで魔法士を目指すようになったのよ」

「そうか。でも剣を諦めた御蔭で魔法の才能が開花したんだから結果的に良かったんじゃないか」

「まあ、そうなんだけどね」



 シルビアは少し空を見つめたあと、体を起こし俺の顔を見る。

「ねえアース?」

「ん?」

「私の剣術がどれだけダメか見てくれる?」

 どれだけダメって、ダメ有りきか。

「そりゃまあ見てもいいけど」

 そう言いながら俺も体を起こした。



 俺が持っている武器の一つである木刀を渡して素振りをして貰った。


 ……


 全力で振るったらしいがスピードが恐ろしく遅い。初心者だからってレベルじゃないな。

「どう?」

「えっと、どうって言われてもなー」

 これは剣術の先生も見放す訳だ。


「やっぱりダメよね? ていうか、練習してないからか昔よりも遅い気がする」

「んー、ただ不思議なことに筋はいい気がする。だけどやっぱりスピードが問題だな」

「そうだよね」

 シルビアはちょっとシュンとしている。

 確かにこの遅さは体質的なものとしか思えない。ちょっと異常過ぎる遅さだ。



 シルビアをじっと見ていた俺は、ある思いを巡らせた。

 もしかして!

「シルビア! エナって知ってるか?」

 いきなり意味不明の質問をされたシルビアは少し戸惑い気味だ。

「エナ? ううん、知らないわ。何それ?」

 やっぱりエナは一般的なものじゃないのか。

「エナは俺の体内に有って俺の原動力になっているものなんだよ」

「ふーん」


 興味無さそうな返事だ。知らないことなので当たり前だろう。ただ、興味を持ってもらわないと困るので、俺は話を続ける。

「シルビアには俺と同じく体の中にエナを持っているんだ」

「普通の人は持って無いの?」

「持って無いのが普通らしいな」

「へーそうなのね。それでそのエナがどうかしたの?」

 真剣に話をする俺を見て、何かを感じ取ってくれたようだ。


「もしかすると、剣の遅さは、シルビアの中のエナが邪魔しているのかもしれないと思ってな」

 いきなり確信に迫ったためか、キョトンとしている。

「え、そうなの? でもアースにも有るんだよね? アースは遅く無いじゃない」

「俺はそのエナを自在に動かせるし、エナを動かすことでスピードやパワーを上げることができているんだ。シルビアはたぶんエナを動かせていないし、動かないエナが邪魔して逆にスピードが落ちる結果になっているのかもしれないんだ」


 訳が分からないと言う感じで困惑の表情をしている。

「えっと…… どうしよう……」



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