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4 念話機能

 ガレルがニヤニヤ顔を俺に向けている。

「じゃあ始めるか。この俺、ガレル様が直々に稽古をつけてやる。ありがたく思えよ」

 前と同じセリフを吐いて、そのガレルって奴は腰の剣を抜いた。

「おいおい、剣だと危な過ぎじゃないか? 下手したら死ぬぞ?」


「この方が緊張感があって稽古になるんだよ! びびってんじゃねよ。わはは」

 いや、死ぬのは俺の方じゃ無いんだけど。

「せめて木刀にしてくれないか?」

「はっ。ビビりまくりやがって。残念だがそんなチンケな武器は持ってねーんだよ!」

「……」

「と、言いたいところだが、今日のところは木刀で勘弁してやる。おい、お前ら木刀だ」


 元々そのつもりだったのだろう、そいつの手下が木刀を2本持っている。1本をガレルに渡し、もう1本を俺に放り投げた。

 手に持ってみると、練習用の鉄芯入りの重い木刀だ。これは当てると痛そうだな。

 あいつのも同じか?

《同じものですね》

 ひよっこにこれを振り回せるのか?

《さあ、どうでしょうか》


「さあ、お望み通りの木刀だ。少しは耐えて見せるんだな」

 そいつはニヤリとしている。どこまでも感じ悪るい奴だ。

 まあ、ここならギャラリーも居ないし、ちょっと相手してやるか。

 そんなことを思っていると俺がまだ構えもしていないのに木刀を振るってきた。顔面直撃コースだ。しかも意外なことに速い。まあ速いといっても俺にとってはあくびが出るほど遅いので、もちろん軽くかわす。

「なっ! これを躱すとはな。ちょっと手を抜き過ぎたか」

 その程度のスピードで躱すなって方が無理っぽいんだけど。て言うか、普通の人間なら躱さないと大怪我するだろ。何考えてんだ?


 その後も俺に何度も木刀を振るってくるが、俺は当然の如く全て躱す。ただ、攻撃だけを見るとCランクぐらいの力は十分に有りそうだ。これは意外だった。これなら有頂天になるのも分かる気がするが、実力があるんだったらこの町を飛び出してCランク試験でも受けに行けってーの。


 そいつを見るとだいぶ息が上がって来ている。さすがに俺も飽きてきた。

「なあ、この辺でもう終わりにしてくれないかな?」

「はあはあはあ。ちょこまか逃げやがって。Cランクの俺様の攻撃が当たらないってどういうことだ」

 え?

「今なんて言った? Cランク? お前、Cランクか?」

「お前だと? 誰に向かって言ってるのか分かってるんだろうなっ!」

 そんなことはどうでもいい。

「ほんとにCランクかって聞いてんだ! 答えろ!」

「っ!? ああCランクだ。Cランクだったら何だってんだ? ビビってちびりそうか?」


 こいつ。こういう奴は許せない。

「CランクだったらCランクらしくしろよ! Cランクの名に恥じ無いように行動しろって教わっただろが!」

「なっ!」

 ガレルは驚きと怒りでこちらを睨みつけている。


「分からないのなら今度は俺が稽古をつけてやる。構えろ!」

 ガレルが怒りに震えながら攻撃してきたが、その後は反撃する暇も与えず連続で木刀を体に叩き込む。といっても、これでもかってほど手加減はしてやったが、まあ、青アザがそこら中にできたのはやむを得ないだろう。


 今そいつは両手両膝を地面について動けないでいる。怒りよりも悔しさを感じているようだ。

「くっそー!」

 ただ、俺の攻撃を防げなかったにしても、防御もかなりセンスが有ることが分かった。こいつはCランクで終わる奴じゃないはずだ。


「ガレルって言ったな。分かったろ? 広い世界、強いやつは一杯いるんだ。この町飛び出してもっと上を目指せよ。お前には上を目指せるだけの才能が十分にある。こんなところでお山の大将気取ってんじゃねーよ!」

 ガレルは地面を見つめたまま動かない。


《手も足も出なかったのが相当ショックなのでしょうね》

 まあ、すぐに立ち直るだろう。



 そんな事を考えていると、シルビアが近づいてきた。

「ところで、なんでこんなことになってるの?」

「え? ああ、まあ絡まれたってことだな」

 俺の言葉に耳を傾けながらもガレルを見ている。

「そうなのね…… でも、やり過ぎたんじゃない? 大丈夫?」

「んーと…… ま、大丈夫だろ」


 ……


「えっと大丈夫そうに見えないんだけど。ガレル、平気?」

 ガレルはようやくこちらに顔を向けた。

「あ、ああ。だ、大丈夫だ」

 そう言うとガレルはなんとか立ち上がる。


 シルビアがガレルに掌を向ける。

「ヒール」

 淡い光が一瞬ガレルを包み、傷を完全に癒やしたようだ。

 ガレルは、小さく「え」と声を出してシルビアを見た。


 その様子を見守っていた仲間達がガレルに近づいて行く。

「あ、兄貴」

 仲間達もどことなく惨めそうだ。

「うるせーっ! てめえら今日は帰れ!」

 その言葉を最後にガレル達はトボトボとその場を去っていった。



 その様子を見送ったシルビアは少し真剣な顔で俺を見た。

「じゃあ服を買いに行こうよ」

 俺は自分の身なりを見てみるが、特に破れていたり汚れていたりは無い。

「服?」

「部屋着よ、部屋着。昨日約束したじゃない」

 ああ、そうだった。


 近くの店に行って部屋着っぽいものを二人して選んで購入した。

 ただ、俺の服を買いに行ったはずが、シルビアの服の方が断然多かったのは言うまでもない。

 買い物長いって。





 夜、ベッドに横になりながら、ルナとシルビアが会話できる機能を昨晩に引き続き考える。

 俺とは違って、ルナをシルビアの脳に直結する訳にはいかない。

 考えた末、エナを通して直接脳に情報を届けられるかと言う考えに至った。

 シルビアはエナを定着できているし、それが可能ならいけるはずだ。

 そう、シルビアは俺と同じくエナを体に蓄えることが出来ている。普通の人ではあり得ない事だが、ルナが確認したので間違いはない。


 とにかく、エナ通信機能を試作してみる。

 それと、腕輪だ。腕輪はルナとシルビアを仲介するためのもので、シルビアが身に付けることになる。エナが流れやすい素材でできているただの太めの腕輪で、エナを安定して展開するためにはある程度の太さが必要だった。この腕輪と通信機能とを異空間で直結して使う。


 よし、エナ通信機能プログラムが完成したぞ。早速ロードして実験してみよう。

 ルナが通信機能経由で腕輪にリンクする。それを俺の腕に付ける。

 ルナ、この腕輪を通してちょっと喋ってみ。


 ……


 ルナ、喋ってるか?


《喋ってみましたけどダメですか? 確かに手応えはなかったですけど》

 ダメか。


 エナ通信機能を改良してみる。


 も一回喋ってみ。

《ザザザザザザー》

 おおー、ノイズだけだかなんか聞こえたぞ。希望が見えてきた。


 さらに改良。

《聞こぇマすカー》

 おおー、聞こえるぞ! ちょっと声が変だけど音声を届けることに成功した。


 さらに改良。

《どうでしょう? ちゃんと聞こえますか?》

 ばっちりだ。いつものルナの声だ。


 次は、俺の声を届けることができるのかを確認してみよう。

《アースの声を検知する経路を遮断してみます。何か喋ってみてください》

『ルナのアホー』


 ……


『あれ? 聞こえてない?』

《聞こえませんよ! そんな悪口!》

『そうか、聞こえてるようだな。よしよし』

《聞こえてないって言ってるでしょ! アースのアホー!》

『なにーっ!』

《アホっていう人がアホって決まってるんです!》

『今どきそんな古い理論を繰り出してくるとは、さては相当な年だな?』

《何言ってんですかっ! アースと同じ年でしょうが!》

『いやいや、ルナが作られたのは300年前だし、300歳だな』

《ムキー 300歳なのはアースの体でしょ 私は生まれて間もないピッチピチの0歳ですっ!》

『そんな事言うんなら俺だってピッチピチの0歳だ!』



 ワーワー、ギャーギャーと言い合いながら、とりあえず、この腕輪が使えることは十分過ぎるほど分かった。





 朝、シルビアが目を覚ますとすぐ、夜中にルナと喧嘩しながら作った腕輪を見せる。

 見た目は空き缶をくり抜いただけのような貧素なものだ。

「シルビア、これを手首に付けてみてくれるか?」

 意味が分からないって感じでその空き缶を見つめている。

「え、何これ? こうかな? 左手首でいいの?」

「ああ、それでいい。うまく行けばいいんだけど」

 俺はシルビアの手首を取り、空き缶を握ってシルビアの細腕に密着させた。これで準備はいいだろう。


 ルナどうだ?

《シルビア聞こえますか?》

「えっ? なんか女の人の声が聞こえる。この腕輪のせい?」

 シルビアはビックリしたようにキョロキョロと周りを見渡している。

「とりあえず成功のようだな。その声が昨日言ってたルナだ。実体があるわけじゃ無いんだ」


《ルナです。初めましてシルビア》

「は、初めましてルナさん。シルビアです」

《ルナで結構ですよ。よろしくね、シルビア》

「よ、よろしく、ルナ」

 見えない相手に目を若干泳がせて戸惑っているようだ。


「まあ、すぐに慣れるさ。ルナ、念話はどうだ?」

《シルビア、ポタメで話す時のように念話で話してみてください》

『こうかな? ルナ、聞こえる?』

《はい、聞こえますよ。ばっちりですね》

 腕輪を見つめていたシルビアから、ほっとしたような笑みが溢れる。


『アースにも聞こえてるのかな?』

《私が中継していますのでお互い話せますよ》

『え、ほんと? アース、聞こえてる?』

『ああ、ちゃんと聞こえてるぞ』

『わー面白い。頭の中でアースの声が聴こえる。なんか不思議ね』



「よし、問題なさそうだな。じゃあ腕輪のデザインを変えるか。シルビアはどんなデザインがいい?」

「え? 変えれるの?」

 そう言いながら腕輪を俺に見せるように。左手首を上げた。

「ああ、どんなデザインでもいいぞ。さすがにそのデザインは嫌だろ? 俺だったら絶対嫌だな」

「そうなのね。このままかと思ってた。あはは」

 腕にはまった空き缶を改めて見ている。


「ただし、ピッタリ手首に密着するやつって条件付きな」

「アースが決めて。アースが決めてくれたものがいいわ」

「そうか…… じゃーちょっと待ってくれ」

 ルナ、腕輪のカタログを表示してくれ。

《はい》

 目の前に立体的に表示されたいくつもの腕輪から、シルビアに似合いそうな腕輪を絞り込んで行く。

 んー、そうだなー…… こんな感じにするか。


 その腕輪をベースに、もうひとひねりしたイメージをルナに伝えて設計図に落とし込んでもらい製作する。



「シルビア、これでどうだろ?」

 手にパッと現れた腕輪を見せると、シルビアは目を輝かせた。

「わー、綺麗」

 銀色の螺旋状で幅がだんだん細くなるだけのシンプルなデザインだが、気に入ってくれたようだ。

「ほら、手を貸してみな」


 螺旋状なので、ちょっと捻れば太くなり手を通しやすくなる。腕輪はシルビアの左手首にうまく収まった。

「凄い。ピッタリね」

「まあ、オーダーメイドだからな。それより手とか動かしづらくないか?」

 シルビアは腕を動かしたり、手首を動かしたりしている。

「全然平気。軽いし全く違和感が無いわ」

「じゃーこれからはそれをずっと付けていてくれ」


「うん! アースありがとう。大切にするね」

 なんか嬉しそうに腕輪を見ている。



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